ダメになる…居ないと。
「あれ~。久しぶりだ。こんなに朝遅くまで寝ていたの。いつも足かみかみ攻撃がなかったな。」
朝は始まったばかりだというのに、いつもと違う目覚め方をした僕は、ソファの近くに行くと、はっとしてしまった。ボブがいつもいる場所も、ご飯を上げている場所にも、トイレの近くにも、窓際のお気に入りの場所にもどこにもいないのだ。
はっとしたのは、これだけではなかった。思い出してきた。昨日は掃除したまま、疲れて、ご飯を食べたら、ボブを枕元に置いたのはいいが、服を着替えそのまま寝てしまっていた。
「あ~。やばい。窓閉めてたっけ~。」
洗面所に向かった。眼鏡を握りしめて、かけた時、
「あ~。開いてる。うそだろ~。なんでだ?なんでここからでてったんだ~。嫌だ。探そう。」
心が落ち着くことはなかった。探しに探せないこの体で、僕は必死になっていた。
「ボブ?どこ?どこに行ったの?猫ってこんなとこはいるかな?いない。どうしよう。なんでどこに行ったの?」
それは、夏になったばかりの7月だった。蝉が鳴いている。木々の端っこから、自分の家の周りを探した。が遅い。もう時間は起きて3時間は経っていた。
「どうしよ。嫌このままなんかで終わりたくない。探そう。まずは…そうだな。SNS 投稿しよう。僕のスマホで川辺で撮った写真をアップだ。」
出来るだけ、あらゆる手を尽くそうとしていた。僕は、かけがえのないものを取り戻すまであきらめない気持ちを持った。
はじめてに近いだろう。あきらめない気持ちを抱いたのは、子供のころあきらめてばっかりだったが今は大人の自分になっていた。
そして、病院に行く日にポスターを作って、ボブを探すために、病院の受付の所に主治医の了解を得て張らせてもらった。
ここで僕の記憶はいったん無くなった。気づいたのはまた夕方過ぎ、夕日も落ちかけて暗くなろうとしていた。気づくと何度も何度も見上げたことのある天井だった。そう。僕は倒れた。まだ病院内だったので処置が早く済み、突然としては早く治療ができて、主治医も、また心配そうに病室に来たときは、
「びっくりしたよ。診察の後だったから気にはなっていたんだ。でもこんなすぐに倒れてしまうまで弱っていたなんて、検査に入るべきだったね。話だけじゃまだ持つかと思ってしまった。ごめんね。判断ミスだったよ。」
幼い頃から見てくれている主治医は、ここまで弱っていた自分に、また、元気になってきていた自分に驚いていたのだった。
「先生。ボブは見つかりますか?僕はボブがいないと…。ダメになっています。」
主治医は、言ってくれた。
「あ~。今回倒れてしまった件は本当に申し訳なかったね。でも朗報だ。ボブは女の子に助けられているらしいよ。君が張っていたポスターを見て連絡があったよ。安心して、今はゆっくりしておいてくださいね。」
僕は、胸がいっぱいになった。早く会いたい気持ちを抑えて、先生の言うこと聞き、今は床に就こうとした。
「よかった。本当に良かった。明日でもボブに会いに行けるかな。女の子って言ってたな。有難い。ボブ会いたいよ。白猫ボブ。毛並み大丈夫かな?また、暴れたりしたりしていないかな。まあ、明日だ。」
もう夕暮れ。日も落ちてしまったとこだった。主治医や女の子のおかげで、ゆっくりした時間を過ごす。白いベッドの上で、今日は大変だったはずの僕も、また気持ちは幸せだったのだった。