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僕とボブと彼女の物語  作者: 春はあけぼの
3/7

大切な場所

 僕の幸せな日はまだ続く。猫用の散歩のリールを貰ったのだ。安いものだと言われて戴けたのだ。先生も猫を飼っていたのだ。主治医は、

「散歩するのも体にいいだろうから、これどうぞ。猫のリール。猫のボブ君の体につけてあげてね。長い付き合いだからね。こんなプレゼントできると思っていなかったよ。」

と、男同士のプレゼントのやり取りは、ちょっと恥ずかしい気持ちにもなっただろうが、僕も先生も喜んでいた。

早速、自宅に戻ると、いつものごとく、ゴロゴロしてたであろうボブが、こっちに玄関元までやってきている。猫がお出迎え?たまにあるのだ。玄関まで、来ていたボブに、僕は自分の体調も気にすることなく、リールを優しく丁寧につけてあげた。

(にゃにゃにゃ?)

うん?

青い目が、僕の目を見つめている。外に4か月ほど出していなかったので、リールをつけられたボブは、恐る恐るまたゆっくりと、玄関をまたいだ。

「久しぶりだろ?玄関から先はだめだと言っていたからな。なんだか…きょろきょろだなーお前。」

久しぶりに外に出ると、僕を構いなしになるかと思っていたが、なんだか元気いっぱいのボブも、おじけずいた様になっていた。

それは始めの一歩だけだったのか。リールのひもが足りないとばかりに塀に上ろうとしたり、草の中に隠れようとしたり、少し大変な散歩の始まりになった。

散歩道には川があり、そこに着くと川辺で、おしゃれなベンチに座り、もちろんボブを抱き上げ、腕の中に入れ、語った。

「ボブ。ここはね。小さい時から来ていた川辺なんだ。大切な場所だった。またお前がいると、大切って思えるよ。」

僕は、とてもシャイで、病気がちと言う事もあり、幼い頃から、頭はよかったが学校に通う事すらままならないほどの子だった。よく父と母が散歩がてらに連れてきてくれていたのだ。散歩をまたするようになるとは、しかも次は自分が連れてくるほうになるとは思ってもいなかった。

母と父は、遠くの記憶では優しい人たちであった。僕は自分の将来や未来を見つめるよりも、只々、途方に暮れてしまうような人生だったのだ。父と母を天国に行かせてしまうような悲しい人生を人にも誰にも言えずにいた。

「はあ僕は、ボブが暴れてくれたおかげで、来たときね。初めて僕のうちで騒がしくなった時、何かが始まるんじゃないかと思ったんだよ。」

僕はしみじみ思った。

「ボブの中では、大したことない。元気よさが、僕の中に伝わってきたとき、僕の少し充実するような日々を送ってみたいと思ったんだよ。」

ボブは聞いているのか聞いていないのか、耳をピンと張って、僕の口元の方に気を向かわせているようにも思えた。川辺は段々とオレンジ色になってきた。

「平和だなあ。こんな普通みたいな毎日送れるとはおもってなかったよ。ボブ?もっとここに来ようね。また来よう。」

 ボブに感謝の念を持ちながら、この日の夕方は消えていこうとしていた。

そして次の日も次の日も、体調と相談しては、川辺にボブと来るようになった。

ボブの元気のいいこと。でも、僕の事も考えてよく後ろを振り向くといった感じで、ふたりの関係はとてもいい信頼関係を結んでいったようにも思えた。

僕は、猫用ベットを用意し、寝床にいつもついていたが、朝になると、足をかまれるのは日常になっていた。しかし、昼間は買い物や、病院以外は、ボブと過ごし、エサは鰹節からちゃんとしたキャットフードになっていた。

ボブも僕もひっそりとはしているが、安定した幸せのある日々を過ごしていたのだった。


しかし、ボブがこの後家出をすることも考えずにいた僕は、かけがえない命をもっと大切にしなければならない出来事と出会いが生まれることなんて考えもしていないまま、コーヒーを飲んでいた。ある日、また、いつものごとく掃除の時間に開けた洗面台の窓をこの時は恨んだが、奇跡が僕の中で生まれていくことになるのだった。

奇跡。それは、とても人生で素敵なこととの出会い。自分がこんなに一杯の気持ちにさせられるという。なかなか体験のできないことだった。

それを迎えたのは、まだあとの事だったが、この日の思い出は深々となるのだった。



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