僕と白猫ボブの出来上がり
ある朝、一発の音で起きた。台所からだ。
「なんだ?」
そういう思いで起きただろう。
台所に恐る恐る、向かった。すると、よてよよ足の足元に、すっとする感覚があった。
「わあ、何?」
足元の感覚は、何気ない目線の先にやられた。
「なんだ~。」
なんだ~ではない、と後々思うことになる。
ここで、今日という日から始まった。
白猫の子猫と僕との物語です。
「わあ。わあ。台所が…。」
白い影がそう、じたばたしているのだ。台所の木製のテーブル、台所のフライパン、見事にがしゃがしゃになってきた。
「あっと、危なー。ガラスコップ落ちるじゃんかー。ひゃー。」
僕は朝から何をやっているのか?めまいがしそうだ。花柄の僕のガラスコップは、助かったが。
「ひゃ~。無理~。僕じゃ捕まえられない。待て、逃げないでよ~。」
その白い物体を捕まえるまで、何分かかっただろうか?
足元を行ったり来たり、しかし、やっと捕獲した時には、ベッドまで水がしたたり、ソファにかけてあった服たちは、ずれ落ち、もう部屋を見る目は、この僕でさえ後々の掃除を考えると億劫でしかない。最悪な状況は分かってもらえるだろうか…
「はあ。お前はなんだ?なんでいるんだ。ここに?今朝からどこに隠れて今に至るんだ?
夜でもどこから入ってきた?はあ。」
両手を使い持ち上げ、見上げた先に、青い目をくりくりとさせた白い猫が(にゃにゃ)と泣きながら、僕を見つめていた。
白猫。との出会いは。最悪のものとなったが、その後疲れ果ててしまった、ふたり。
猫も僕も、クターとなっている。
「ねえ~。どうすんの?この部屋…見事なことになったよ?」
僕なりに優しい声で声をかけてみた。白猫は、窓際に行き、濡れた毛をぺろぺろでもし始めた。
「嘘だろ?もう、暴れてた子が…くつろぎ始めてる。もう窓の光に当たって、日向ぼっこかよ。」
天手古舞な、時間は過ぎていった。部屋を片付けようとしたが、朝からの行動の激しさで、目がくらみ、めまいが少ししていた。
薬を飲んだ。ガラスコップは花柄しかなく、母の置いていったものを毎日使っていた。
「頓服だぞ。頓服もうないんだぞ。」
訳の分からなそうな目でこっちを見ている猫の青い目を、かなしそげな目で見るしかできなかった僕は、少し濡れたベッドの上掛けを取りソファでくつろぐことにした。
「眼鏡どこだ?あ~それさえ見つからない。いいや、コンタクトにするか…」
これじゃ、あの子も捕まえられないわけだね。と後々僕は思っていた。
洗面台に行ったら、無頓着にコンタクトをつけていた。その時、耳元に(ひゅーひゅー)と冷たい冷気が当たったのだ。
「はあ…ここか?開けてたかな?開けてたんだろうなあ。」
窓をゆっくり閉めた。
僕は昨日掃除をしていた。その時に開けていた洗面台の上の方の窓から、白猫は侵入したと思われた。
「なんでまたこんなとこから。元気がいい猫だ。こんなとこから入ってくるくらいだもんあ。僕と正反対だ。」
窓の外にある塀を伝って入ってきたのだろう。そんくらい寒い季節だった。どうにかして、温かい世界にでも入ってきたかったのだろう。
まだ、年を開けて、2月の初め頃だったので、まだ雪もふる季節。この白猫は生まれたばかりか。まだとても小さかった。また、この白猫のもとに向かった。ちょっとは、抵抗くらいすればいいのに、もう僕の足元をすり寄ってきたのには、びっくりもし、安堵さえした。
「始めっからな…。そうしてくれよ?後の掃除がまた、たまらんくらい嫌だよ。」
まだすりすりしている僕の足に、柔らかい毛は僕の心に未だかつてない優しい気持ちを与えてくれた。僕は、猫と言うものに出会ったことがなかったのだ。扱もしたことがなかった。なので、猫の毛がこんなにも柔らかいものだと知らなかった。僕は白猫を抱き上げ、
「今日は疲れたな?後で何か買ってくるよ?
何食べんだお前?キャットフードってやつか?缶詰か?ミルク?牛乳も必要か?…なんだかんだ言って…柔らかいなーお前。」
僕は1,2時間かけて白猫には話掛け続けていた。昼を過ぎたころ、白猫が心配だったが、近くのスーパーに行く。あれやこれを見ていた。
「猫の食べ物ってなんだ?まあ、鰹節くらいは食うかな?僕は何食べるか?まあ、牛乳パック一つ。後は、猫用品コーナーにあるか…」
サンドイッチを2つと、白猫のために買った食材を手にし、早々と、そそくさとスーパーを後にして、直ぐに帰宅した。
とりあえず、白猫は、暴れていなかったらしい、こたつの中にいた。どこに行ったかとちょっと帰ってきたときに戸惑ってしまったが、
ちゃんといたことに感動さえ覚えていた。
僕は、猫の世話をするどころか、自分の世話も大変な身だったのに、死んだ母の仏壇の前で
「僕初めて、温かいものにさわったよ。とても小さく、僕しか面倒見る人もいないんだ。だって、僕の知り合いは、あれでしょ?先生方ばっかでしょ?母さん?飼うよ?頑張るからさ。」
と言って、僕は心に決めた。まだ僕の膝になついてくる白猫に、僕は名前を付けることにした。名前はすぐに思いつき、
「お前の名前は ぼぶ。ボブだ。」
何にかにとらわれるでもなく、雄猫の白猫ボブは誕生した。