表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
くさぎ  作者: 木葉 音疏
プロローグ
4/7

爆破テロの主犯格として浮上したのは、まだ高校生の少女だった。彼女が大事そうに抱えていた一冊の日記。それは、一年前に殺害された、舞川刑事の友人による物だった。

 一年前、粉雪の舞う夜の街を、三本の線が引き裂いた。

 一つは帝下の命を、もう一つはその女の命を、そしてもう一つは、この少女の運命を、三発の銃弾が破壊した。

 最初に駆けつけたのは、たまたまPCを走らせていた、俺だった。

 重傷を負って横たえた女を、上から庇うようにして息絶えた友人。

 その光景が、未だに俺の網膜から消えずに残っている。

「そうだね」と少女は自分の膝に目を落として答える。「あたしが殺した。あたしが、ダーリンを殺したの」

 口惜しげに唇を噛み締める少女。

 その瞳は、痛切だ。

 帝下を殺害した人間は未だに割り出されていない。

 そいつが凄腕の狙撃者スナイパーだということ以外、何もわかっていない。


「帝下を殺したって、どうやって?」


 この少女にSR-25を使いこなせるとは思えなかった。

 そして誰の目にも映らずに、男女の命を奪っていったなんて、思いたくもなかった。


「パパの友人にお願いしたんだよ。あの阿婆擦れ女を殺してくれって」


 その女のことを口にする時の少女は、まさしく、人殺しそのものだった。

 彼女は続ける。


「でも馬鹿だなぁあたし。人を恨むことで、大好きな人を大切にすることを、忘れてた」


 零れ落ちる涙を、少女は洋服の袖で抑え込む。

 少女のピンク色の唇が、わなわなと震えている。

「でもダーリンもバカだよね」ぴたりと少女の震えが止まる。そして、「あんな女を庇うために、自分を犠牲にするなんてさ」と少女は言った。「あの女を庇いさえしなければ、あの人もダーリンを撃ったりしなかったのに」

「『あの人』っていうのは?」

「だから、パパの友人だよ。『暗雲(くらくも)与一(よいち)』っていって、有名なスナイパーだって聞いたから、女を殺してくれるよう頼んだの」


 取調室に入ってきた咫白が、耳元でこう告げた。


(((「容疑者の父親は、中核派の中心人物で、三年前に何者かによって暗殺されています。それと、この女には子供がいました。松江のアジトで匿われていたところを、警視庁が保護したそうです」)))


 一年前の犯人が「暗雲の与一」なる人物であることを教えると、咫白は取調室を後にした。


「お前、子供がいるんだってな?」


 容疑者を極力刺激しないよう、柔和な声で切り出す。

警視庁(うち)の奴等が松江で保護したそうだ」と事実を告げてから、「きっと今頃は婦警と楽しく遊んでいるだろう」と出任せを添加する。

「うん」と少女は照れるように、もしくは後ろめたいように、下を向く。そして少女は告げる。「あたしと、ダーリンの子」

 俺は肩を脱力させて背凭れに体重を預ける。

 天井に付いた随分とコスパの悪そうな電球を見上げて、両手を額に乗っける。

 それから再び少女を見据え、


「帝下在都は別の女と結婚していた。だがお前とあいつは関係を持った。そういうことか?」

「関係は――」と少女は言い淀み、片方の目から一筋の落涙が通る。少女は言う。関係は、「何もなかった」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ