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くさぎ  作者: 木葉 音疏
プロローグ
1/7

東アジア反帝国主義武装同盟①

 私も幸福だったのです。けれども私の幸福には黒い影が随いていました。私はこの幸福が最後に私を悲しい運命に連れて行く導火線ではなかろうかと思いました。

(夏目漱石『こころ』より)



 地瀝青アスファルトの焼け焦げた臭い。

 空気までもが炭化されているかのようだ。


 おでことほっぺを煤色のファンデーションでおめかしした老婆。

 地面に足を突っ込んでいるのかと思ったけど、上腿の下部から赤黒い脂肉が覗いている。

 よく見ると、着ているのは水色のワンピースだ。

 もしかしたら、この羅生門で髪の毛を剥ぎ取っていそうな老顔の持ち主は、まだ二十代くらいの女性だったのかもしれない。


 散乱した無数のガラス片の上に落ちてきたのは、小学生くらいの少年の生首。

 少女漫画に出してもらえそうな、真ん丸の両目。

 あまりにも大きく見開かれすぎて、眼尻と目頭が裂開している。


 日本屈指の大企業である、八橋大工業。

 その本社ビルは、三十五分前に大きな爆発音を伴って破砕した。


 担架で男性が運ばれてくる。

 右腕が捥げている割に大人しいなと感心していると、思い出したみたいに急に喚き始めた。


 ビルに残存する爆発物の警戒を終了したSAT(サット)が、魔の洞窟から帰還する。


「新たな爆発物は見つからなかったそうです」


 PC(ピーシー)(=a Patrol Car)の傍で待機していた(あた)(しら)巡査が報告する。


「犯行声明は?」

「二十分前に、大手動画投稿サイトで、これが」


 咫白はスマートフォンを差し出す。

 映っているのは、


「バーチャル・ユウチューバーか?」

「はい。配信に使われたチャンネルも、大手ユウチューバーのものです。声も酷似していますけど、よく聞くと、ところどころ違和感があります」


 大真面目な顔で分析する咫白。


「お前、このユウチューバーのこと知ってるのか?」


 そんな些細な違和感、マニアでもなければ気づかないだろ。しかし、

「いえ」と咫白は否定する。「今日、初めて見ました」と彼。

 待機している間に公開されている全ての動画に目を通したらしい。もちろん、早送りで。

「それで、わかるものなのか?」と、困惑気味の上司に、

「はい」と応じ、「ちょっとした、特技なんです」と説く。

 まったく「ちょっとし」てないと思うが、関心と感心は脇に置いて本題に戻る。


 このユウチューバーの登録者数は三十万人に近い。

 動画の閲覧数もほとんどが十万回を超えている。

 動画の表題タイトルを見ただけではあるが、政治色は皆無のようだ。

 そのことについても、咫白は解説を加える。


「この配信者の過去の動画は、全てゲーム実況です。政治的な話題は出てきません。その配信者が唐突に爆破事件を起こし、極めて政治色の強い犯行声明を発表した。ちょっと不自然じゃないですかね」

「犯人にアカウントを乗っ取られたのかもな。だが何れにせよ、事情聴取は必要だ。本部に戻って身元を特定するぞ」


 二人は現場を担当の部隊に任し、本部に戻った。


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