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ファイク(仮)  作者: カミヤ
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プロローグ


「行けえ!走れえ!」


 静かな森の静寂を破るように、そんな怒声が響いた。声は女性のようだが、そこには一切の余裕がなく、恐怖と焦燥に染まっていた。

怒声に続いて、木の枝を折る音や、草木をかき分け、地面を踏み鳴らす多くの足音が聞こえてくる。10ほどの小さな影とそれを囲むように大きないくつか、声に押されるかのように森の中を走って行く。


「振り返るな!街まで全力で走るんだ!」


 夜の帳が下りはじめた森の中。人型をした大小の影が一目散に逃げていく。普段歩き慣れている森だがこの薄暗闇で視界が悪く、普段使っている獣道でもないために足場も悪い。それでもできる全力で走る。

足元の石につまずいて転けそうなる小さな影を、大きな影がこける直前に抱え上げて走り続ける。立ち止まった瞬間に終わりだとでも言うように、誰もが必死に走っている。

先頭はこの中で一番大きな影。走りながら剣や腕で障害物をなぎ倒しながら進んでいる。小さな影達がその後に続き、周りの大きな影は周囲を警戒しながらも、障害物を避けながら並走している。


「ブレッド!」


 一番後方を走っていた大きな影が声を上げる。声からしてさきほどの怒声はこの大きな影の物らしい。そして声を受けて集団の右前を走っていた大きな影が、すぐに速度を落とし後方に移動する。ブレッドと呼ばれた影は、そのまま一番後ろの影に並んだ。


「いい? ブレッド、よく聞ききなさい。あなたはこのままみんなを守りながら街を目指すのよ!」


唐突にブレッドに命令がくだされる。

これは決定だと言わんばかりに。だが、


「――ひ、筆頭!それはまさか!?」


 ブレッドは言われたことをすぐに理解したのか、驚愕の表情を浮かべながら声を上げる。そしてすぐさま考え直すよう進言する。だが筆頭と呼ばれた者はそんなことはできないとばかりに首を振った。


「このままではすぐに追いつかれるわ。誰かが時間を稼がないと」


「ならば自分が!」


 時間稼ぎのために残った者が生きて帰れる可能性は限りなく低いだろう。ブレッドは彼女の代わりに自分がと訴える。しかし彼女はもう一度首を振ってその提案を退けた。


「あなたより私のほうが長く時間が稼げるし、生存率も高いわ」


「ぐっ・・・」


 彼女は純然たる事実を突き付ける。傲慢にも聞こえる言葉だが、ブレッドはそれに反論できない。筆頭よりも長く時間を稼いで見せる、という言葉も出てこないほどにブレッドと彼女の実力差は大きかった。それでもブレッドは諦めない。


「ならば・・・・・・ならば自分も共に戦います!そうすればより時間を稼げます。筆頭を一人残していくなどできません!」


 ブレッドは、今度は自分も残ると提案した。それは、彼女と共に死ぬということにほかならない。普段厳しいことばかり言っているのに、そこまで慕ってくれていたのかと嬉しさで口元が緩みそうになるのをこらえながら、それでも彼女は冷静に判断をくだす。


「確かに、二人のほうが長くあいつを足止めできるかもしれない。だけど、あの化物が一体だけとは限らないわ」


「――ッ!?」


 ブレッドは言われて初めてその可能性に気づいた。先程自分達を襲ってきた化物は一体だけだったが、どうしてそれだけだと言えるのだろう。ブレッドはそのことに気づかなかった自分を殴りつけてやりたくなったが、続く彼女の言葉が思考を遮った。


「もし、他にもあの化物みたいのが出てきたら――」

 

 彼女はそこで言葉を切った。こんなことは本当は言いたくない。でも集団のリーダーとしてみんなと守るためには言わなければならない。そんな葛藤が彼女の顔に見え隠れしている。

 ブレッドはそれに気づいていたが何も言わなかった。彼女は筆頭としての実力は申し分ないが、経験的にも性格的にも、非情な判断をしたことが少なかった。

 だがそれでもすぐに、こんな顔をしていては部下達を不安にさせてしまうと、顔から感情を消し覚悟を決める。そして自身の少しだけ長い尖った耳につけていたピアスを外し、ブレッドに向けて突き出しながら言った。


「――その時は、あなたの番よ」


 それは彼女からの信頼の言葉であり、もしもの時は死んでくれという命令でもあった。

 できるだけ多くの者が生き残るための非情な決断であり、今できる最善の手だった。

 これ以上の案をブレッドが提示できるはずもなく、彼は悲痛な表情を浮かべながらも頷き、彼女から『筆頭の証』を受け取った。

 


グオォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!



 その時後ろから凄まじい咆哮が聞こえてくる。もはや物理的な威力までもっていそうなほどで、かなり近くまできているようだ。

 誰もが今まで聞いたこともないような獣の叫びにを震え上がり、心を絶望と恐怖で支配する。とても生きているものが出せるような声ではない。その声は怒りに満ちており、今にも自分達を飲み込まんとするようだった。

 大きな影達は気力で後ろを確認したくなるのを堪えたが、小さな影達はそうもいかなかった。恐怖のあまり足が止まり、後ろを振り返ってしまった。


「止まるな!走れえ!」


 先頭を走っていた大きな影が叫び、再び走り出そうとするが、一度恐怖で止まった足は簡単には動かない。


恐怖で震えながらゆっくり後ずさりする者。

前に進もうとはしているが、恐怖で足がうまく動かない者。

その場にうずくまってしまう者。


誰もがまずいと思った瞬間、ついに化物が追いついた。



 突然暗闇から巨大な前足が集団めがけて振り下ろされる。


「させない!」


 誰よりも早く、筆頭である彼女がそれに反応した。身体に緑色の光を薄っすら纏わせ、持っていた剣で迎え撃つ。受け止めるのは無理だと判断したのか、迫り来る前足に対し斜めに剣を入れ、わずかに勢いが落ちたところで横に弾き軌道を逸らす。

 前足は集団のすぐ横の地面に当たり、大きな穴を作った。直撃こそ免れたが、衝撃で石や土が飛び集団を襲った。大きな影達が盾となったため、幸い大きな傷を負った者はいなかったが、このままでは全滅は時間の問題だった。


「ブレッド!行きなさい!」


 彼女は化物を睨みつけながら、自分の後ろにいる彼に、最後になるであろう命令を飛ばす。

 ブレッドは何かを言いかけたが、すぐに思い直し集団の態勢を立て直すべく指示を飛ばし始めた。それに続いて他の大きな影たちも動き始める。走れる者は走らせ、走れない者は抱えていく。動けるものから順に送り出していくことにしたので、もはや集団での行動は厳しいが、それでもできるだけ固まって化物から離れる。先頭は変わらず一番大きな者が担当し、それに続いて一列になるように走る。

 

 態勢を立て直す間、もちろん化物が待ってくれるわけもなく攻撃は続いていた。しかし化物は攻撃を弾かれたことが気に食わないのか、苛立ったように唸りながら彼女一人に向かって攻撃をしていた。

 今度は集団への攻撃ではないので受け止める必要がなく、彼女も化物が集団から目を離すように派手に動きながら攻撃を躱し、あるいは剣で軌道を逸していた。

 化物の動きはその巨体でどうやってと思うほどに早く、彼女もかなりギリギリで対処しているようだ。それでもたまに大声を出したり、剣で反撃したりと、化物の注意をより自分にだけに向けるよう戦っていた。すると当然、彼女は次第に集団から離れ孤立していく。そしていつしか、化物は完全に集団に背を向ける形となっていた。


 その頃には止まっていた者たちが全員走り出して、最後にブレッドだけが残っていた。ブレッドはちらりと戦っている筆頭の方を振り返っが、彼女は化物の相手に必死で気づく様子はない。彼女を援護した気持ちでいっぱいだったが、ここで下手に攻撃を加えると化物がこちらを向いてしまい、筆頭のがんばりが無駄になってしまう恐れがある。そんなことをするほどブレッド愚かではなかった。

 何より彼女にみんなのことを託されたのだ。それにここで手を出せば、筆頭のことを信じていないということにもなる。

 ブレッドは血が出るほどに唇を噛み締め、彼女から受け取ったピアスを握りしめると、化物に背を向け走り出した。彼女の意志と、最後の命令を遂行するために。





そして、そんな彼等を木の陰から見ていた別の影があったが、それに気付くものはいなかった。


趣味全開の自己満足小説です。同じようなのが好きな人がいたら嬉しいですね

読んでくれた方、そして面白いと思ってくれた方とはいい酒が飲めそうですb

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