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その6

「安心するがよい、光よ。吾輩は伴侶となる女性にはとても優しいのだ!吾輩、決して嘘はつかん!伴侶を持ったことはないから知らんがな!!」


 なんかあの王様と微妙に被ったことを言いだす。

 今度は不快感はないけどこれは困る。


 例のアレがアレなまんまだし。

 目に入れないようにしたいけど「ほれほれ」と言いながらクイクイ腰を動かす魔王様。


 なんなのこのひとー!


「魔王様、お戻りになられたら声をかけてください。この後の予定も立て込んでいるのですよ」


 広間でギャーギャーとやっていた僕たちの所に、黒い長髪で銀縁眼鏡をかけた紺色スーツの、これまた超イケメン青年がやってきた。


「『時間が少しできたからちょっと王国滅ぼしてくる』と言って出たきりではないですか。ところでそちらの女性はどなたですか?見たところ人間のようですが」


 ちょっとコンビニ行ってくるわ的なノリで、あの王国は滅ぼされる予定だったのか。

 滅亡の危機は僕という人身御供で回避されたわけなんだけど。


 スーツのイケメンさんの冷たい目が射貫く。

 値踏みするように上から下まで見られた僕は、その氷のような視線で思い出す。


 そうだ。魔王様がこんな変態チックでフレンドリー?だから忘れそうになってたけど、僕はこの国に仇なす異世界の勇者(暫定)なんだ。


 嫁にされる危険より命の危険のほうがはるかに高い――そんな根本的な問題をすっかり忘れていた。

 このヘンな魔王様のせいで。


「おおナーガ!建国以来最高の幸運が舞い込んだので遅くなった。王国にいったら我が嫁と運命の邂逅を果たしたので連れてかえってきたのだ!」

「左様でございましたか。おめでとうございます。魔王様の婚姻など国が始まって以来の大事ゆえ慎重に事を進めてまいりましょう」


 一言で納得されました。質問とか一切せずに、怖いくらい魔王様の話を肯定してるんですけど。

 懐からなにかを取り出して、何処かに連絡しているようなナーガさんとやら。


 手にしている物がスマホにしか見えないけどきっと気のせい。


「ナ、ナーガ、様……ですか?」

 ちょっと遠慮して声をかける。さっきの恐ろしく冷たい目つきを思い出す。急に首とかねじ切られたらたまったもんじゃない。


「姫様、私は魔王様の侍従のナーガと申します。私に敬称は不要です。ナーガと呼び捨ててください。先ほどは大変失礼いたしました。許されることではありませんが、事情がわかりませんでしたので何卒ご寛大な処分をお願いします」


 目が合った瞬間は絶対零度の目だったのに、今は物凄く慇懃になってる。

 なぜか僕は勇者から姫にジョブチェンジしてしまったようです。


「実は僕は男なんです。王国の妙な泉のせいで女になっただけでして」

「吾輩もうおさまりがきかんぞ!辛抱たまらんな!」


 魔王様がどうでもいいことを言いだした。無視して僕はナーガさんにこれまでの経緯を説明する。


「ふむ、転性の泉ですか。存在は我が国でも確認しておりました。勇者関連ではないので特に問題視しておりませんでしたが」

「とにかく、いつ男に戻るかわかりません。それに僕は平民です。一国の偉大な王に嫁ぐなど総合的に見て無理です」


 だから元の世界に帰りたいなー?と言外で伝える。

 あんまりダイレクトに断ると機嫌を損ねて殺されかねない。


「光よ!夫を差し置いてそんなムッツリ優男とイチャイチャするなどけしからんぞ」

「イチャイチャしてるわけじゃありませんよ。魔王様が説明をまったくしないから僕がしてるんじゃないですか…」


 そんな僕たちを見て、ナーガさんが言った。


「魔王様、あなた様は例の準備があります。ここは一旦、私にお任せください」

「ブーブー!吾輩大不満」


 ブーブーと口に出すひとを初めて見た。子供ですかあなたは。


「しかし、たしかに一大イベント!光よ、暫しの別れだが悲しむな」


 えー?ナーガさんと二人きり……怖すぎる。

 さっきの目つきを思い出すと、ナーガさんのほうがよっぽど悪の魔王みたいな雰囲気なんですけど。


「光よ」

「はい?」


 魔王様が嬉しそうに僕を見た。


「吾輩の名はアバドンという」

「あ、そうなんですね」


 ドナさんとナーガさんに続いてこちらで名前がわかったひと三人目。

 彼は両手を広げて宣言する。大仰しい所作がコントっぽい。


「これからはアバーと愛称で呼ぶがよい!ベッドの中ではダーリンでも可だ!じつに滾ってきたぞ!!」

「とりあえず準備とやらを済ませたほうがいいんじゃないですか、魔王様」


 面倒なのでスルーしよう。

 魔王様は愛称で呼べオーラを全身から出していたけど、時間がおしているのかバタバタと広間を出ていこうとする。


 そうだ、忘れてた。

 その背中を僕は呼び止める。


「えっと、魔王様」

「どうしたマイ嫁!もういっそ愛しい旦那様と呼んでも」


 それはどうでもいいんですけど、とても大事なことを言ってなかった。


「ありがとうございます…その、助けていただいて…うれしかった…です」


 魔王様は一瞬キョトンとした。なんか可愛い表情するんだな、この人。


 いやいや、なに考えてんだ僕。……女の子でもあるまいし。


 魔王様は「ヌハハハハハ!!」とご機嫌で部屋を出ていく。

 呆然としているナーガさんに話の続きをしよう。魔王様がいると話が進まない。


「それでですね、ナーガさん」

「……失礼しました姫様。なんでしょうか」


 ちょっとまだ惚け気味だ。上司のあのノリには付いていけないかもしんない。


「僕は男です。それに望んでこの世界にきたのではありません。ですから僕としては、男に戻って元の世界に帰りたいんです」


 もう思い切って本音を伝えてみる。


 魔王様が不在のこの状況。サクっと殺されるかなと思ったけど、妄信してる感じの魔王様の許可なく荒事はしない気もするのでここは開き直ろう。


 ナーガさんはちょっと考えてから僕に言った。


「おそらく姫様が男性に戻ることは叶わないでしょう」

「え、どうしてですか」


 とっっっっても困るんですけど。


「あの泉は忌々しい神の手によって創られました。我が国の諜報機関で確認済みです。泉から神の祝福が溢れ出ているのです」

「祝福、ですか?」

「ええ、むしろその力は呪いといっていいほど強力です。異世界の姫様にまで効力があるのです。呪いを解くことは難しいでしょう」

「そんな……」


 やっぱり神の力には誰も敵わないんだろうか。


「私と魔王様の祖先は竜族でした。太古に竜族は神に戦いを挑み、そして敗れました。その時、神にその身を竜から人へと落とされたのです」

「変化させられたんですか?神様に」

「そういうことです。その呪いは破ること叶わず子孫の我々も人の姿のままです。もっとも変化したのは身体だけで、宿る力は竜そのものですが」


 魔王様は竜族だったのか。

 強大な能力を持ってそうな竜ですら解けない神の祝福……呪い。

 僕はどうなっちゃうんだろ。


「それに神の力で変わってしまった姫様が、送還の泉を使って元の世界に戻れるかも現時点では不明です。また、本当に姫様の世界と泉が繋がっているのかすら不明。確証を得るためには、時間をかけた調査が必要です」

「そうでしょうね…たぶん」

「転性と送還の泉を調べるために、現地調査団を派遣しましょう。先ほどのお話ですと魔王様が王国に話を付けられたようなのであちらに拒否権はありません」


 底冷えする微笑を浮かべてこう続けた。


「まあ拒否するなど一切認めませんが。とにかく現時点では不明な点が多すぎますね」


 うん、この人超怖い。美形が変態なのも怖いけど、この人は普通の意味でおっかないひとだ。

 なんてイヤな普通なんだろう。


「お体も濡れて冷えているでしょう。お召し物を至急用意させます。姫様は短時間で色々なことが身に降りかかったのですから休息が必要です」


 なんかこのままだとズルズル魔王様とお仲間さんのお世話になっちゃいそう。

 かといって今の僕になにかどうこうできるわけでもなく。


 なんて答えようか迷っているとズダズダと足音を立てて魔王様が戻ってきた。

 基本、騒がしいお方ですね。


「待たせたな、光よ!吾輩ニュースタイルで参上だ!」


 バアアアァンと擬音がするほど腰に手をあててキメポーズ。


「結局、パンイチじゃないですか」


 赤い紐パンになっただけだ。準備ってこれ?

 これで黒いコートでも羽織られて『な?な?』とか言い出したら通報したい。

 警察が勝てる相手とは思えないけど。


「今から御許に百年に一度の大興奮スペクタル仮想現実のような現実特大祭りを体感させてやろうではないか」

「すみません。ちょっとなに言ってるわかりませんし、今は休息祭りを体験したいんですけど」


 なにかはわからないけど、ろくでもないことに付き合わせようとしているのだけは迷惑なほど伝わってくる。

 それと御許ってなに?僕のことなんだろうか。


「魔王様。あの場に姫様をお連れするのですか?」

「うむ、この機会を逃すと次は百年後だからな!」

「じゃあ百年後にお付き合いするってことで手をうってくれませんか」


 魔王様はクワっと目を見開いて言った。


「なにを言う!もう吾輩と光はラブラブお付き合いをしているではないか!!」

「一から十まで全部つっこんだほうがいいんですか?僕」


 なんか疲れた。全部を投げ出してもう休みたい。

 魔王様はまったくこちらの話には耳を貸さずに、後ろ手に持っていた手提げの紙袋をジャーンと差し出した。


「光よ。御許に似合う服を用意してきたぞ」

「なんでワンピースなんですかー!」


 白いレースの下がフレアーなワンピース。これを僕にどうしろと?聞くまでもなくわかってますけど。


「さっそく着替えるのだ。安心しろ、もちろんサイズはピッタリなのだ!下着も可愛いのを用意したので心配無用だ」

「そっちの心配はしてませんよ!てか僕本人も知らないのになんでサイズがわかるんですか」

「さっき抱きかかえてきたからな。光のすべてを知ったと言っても過言ではない」


 過言です。うぅ、ダボダボになったGパンとパンツは替えたい。

 でもワンピースか。これを着たら男を捨てるよね、絶対。


「仕方ない。吾輩自ら着替えさせてやろうではないか」

「おぉ、魔王様手ずからにお着換えですか。歴史的快挙ですね」

「いいです!自分で着替えますから!着替えれる場所を教えてください」

「吾輩は気にせん!ここで着替えればいいではないか。いや、しかしナーガに見せるわけにもいかんな」

「ご安心ください姫様。私は後ろを向いて耳も塞いでおりますので」

「たとえお二人がこれっぽっちも気にしないでも僕だけは気にしますから」


 男の体でも見ず知らずの人の前で急に着替えないよね?同性間でも普通に恥ずかしい、と思う。


 プールの着替えでもクラスメイトの男子の前で全裸になったことはない。


 なぜかプール中はクラスメイトは僕から背を向けていた。シカトのイジメかと思ったけどプールが終わると普通に接してくれてたから違うと思う。

 林間学校や修学旅行のお風呂ではみんな入るのが凄まじく早くて僕が大浴場に向かったら誰もいなかった。小中どっちも。


 他の男子は長風呂をしないみたいだ。僕はのんびり入浴するのが好きなんだけれど。



 ナーガさんに小部屋に案内されてそこで着替えた。腹が立つくらいフィットする。

 ブラはスポーツブラだった。ブラ未経験を配慮したのか僕のサイズ的な意味で配慮したのか。

 ……いいんだけどさ。


 ついでに下を確認したら、生まれた時から付いていた在るべきアレは付いていない。


 まぁわかってたよ、うん知ってた。


 姿見があったので鏡に自分の姿を映してみた。どこからどう見ても女の子の自分に溜息しか出ない。

 下着姿の自分に問う。僕は男としてこれでいいんだろうか。


 足は触られた覚えは全くないのに用意されたパンプスもピッタリだ。ローヒールで助かった。ハイヒールなんか無理だし。


「ヌハハ、じつによく似合う。吾輩の見立てグッジョブすぎるな!」

「おっしゃる通りです。後世にお姿の記憶を留めるためにも、後で王室お抱えの画家を召集せねばなりますまい」


 盛り上がってる二人。こっちは恥ずかしい。

 そして正気を保っている自分を僕は褒めてあげたい。







ご覧になっていただきありがとうございます。

小説どころか、このように文章を纏めていくといったこと自体が初めての私ですが

広い心で見ていただけたら幸いです。

よろしくお願いいたします。

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