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夜の帳に包まれる

 夜のテラスの、いつもの席。

 高い場所から見る夜景。眠らない夜の街。

 相変わらず異世界感は、あんまりないかも。

 日本と同じような景色だからかな……ううん、そうじゃない。

 だって、ここは僕のとって、もう『異世界』じゃない。

 ここは僕の世界。あのひとと僕の大切な世界。


 でも、僕は明日、日本へ。

 自分の世界へと戻ることになった。


 彼が――魔王様が「親元できちんと暮らして学校へ通え」って言うもんだから。


「吾輩、いつも光と一緒にいないと耐えきれぬので全裸になって大暴れしてやるのだ!」って駄々をこねないから、素直に彼の言う通りにしようかなって思って。

 先は永い。とりあえず、高校はきちんと卒業しよう。

 いまの僕にしか経験できない、もう二度と味わうことが出来ない日常。たとえば、日本の高校生活とか、家族との暮らしが、たしかに元の世界にはあるんだよね。

 それに、ここには放課後に来たり、休日に泊りがけで遊びにだってこれるもの。


 ……もちろん部屋は、別々です。

 僕のあの部屋も、そのままにしてくれることになっている。


 テミスさんはあの後、夜になったら普通に戻ってきた。

「私と共に生きるという姫様の固い決意に、涙が堪えきれませんでした」と、言って。


 それが本当か嘘かはわからないけれど……。

 彼女の中では僕とのことは、終わったことにはなっていないみたい。

 さすが魔王様の、義理でも娘だけはある。タフで自分の心に一本芯を持っている。

 その芯はなにがあっても、折れることはなさそう。


 僕がいつも熟睡できていたのは闇の精霊に包まれていたから、という話を、その夜、彼女から初めて聞かされた。

 闇の精霊の正体は、安眠効果ももたらしてくれる暗闇の精霊さんでした。


 初めてこの国で眠った夜に、グッスリ眠れたのは闇の精霊のおかげだったのかも。あの時、テミスさんは僕と一緒に寝てたみたいだし。

 精霊が僕のことを気に入ったってのも、その時わかったのかな?


 闇の精霊に包まれた時に、安心感があった理由がわかった。

 急に闇に包まれたのに恐怖がなかったのは、寝ているときにいつも感じていた闇だと、体が理解していたから。


 そして「千年後が楽しみです」と、テミスさん。千年計画て。

「先のことはわからない、ですよね」とも言ってた。言質を取られたみたいな気になる。


「いつの日か、姫様の子を必ず産みます。化学の進歩がなにもかもを解決してくれるのです」

「魔法の世界でハイエルフが科学万能説を説いちゃうの?」

「先のことでわかるのは、私の想いが変わらないということだけ」

「テミスさん……」

「ずっといつまでも、この先の遥か未来まで、想いも、この身も変わらないのです。あなたと共に永遠に」


 魔王様やテミスさんのような長命種にとって、永い時の流れの中で一度お断りされたくらいは、なんでもないことなのかもしれない。


 でも、テミスさんは人間の僕の時間に合わせてくれていた。

 なら、僕も彼女の時間に合わせようかなって。

 だって、その時間で生きていくんだもの。


 ――魔王様の時間で一緒に生きていくんだから。


 僕が元の世界に帰るまで、父さんとお母さんと詩乃ちゃんは一緒に暮らさなかったそうで、その話を聞いたときは申し訳ない気持ちになった。

 久々の我が家。自分の部屋に入ったときは、泣いてしまった。

 やっと帰ってこれたんだ。そう思ったら嬉しさと懐かしさとか、安心感やらで気持ちがグチャグチャになって。

 結局は家から外には出ないで、家族四人でちょっとしたお祝いをしただけ。その席で、また泣いちゃったり。


 制服と私服はサイズが合わなくなったから、僕の家族とさっちゃんで用意してくれるそうだ。

 さっちゃんは僕の洋服の好みも知ってるから、せっかくなのでお言葉に甘えちゃった。

「私に任せてね。光に似合う服を選ぶことは、私にとって長年果たせなかった当為なんだから」って言ってたけど、どういう意味なんだろ。


 あっちで着るのはメンズだよねー……。

 今の僕に合うサイズで、しかも僕好みのメンズってどれくらいあるのかなぁ。

 転性なんて不可思議を、みんなが信じてくれるはずもない。背が縮んだのをどうやって誤魔化そう。

 なにを聞いても、さっちゃんは「そんな心配をするのは全世界全宇宙であなただけよ」と、これも意味不明なこと言っていた。


 まあいっか。

 明日、帰ってからクローゼットを見てみよ。


 家にさっちゃんと仕立て屋さんが来て制服も注文した。さっちゃんの知り合いだそうだ。

 ティーラーのひとらしいけど、どういう経緯で知り合ったのかな。


 季節はあのときから――召喚された日から変わり、もう夏服の時期になっていた。

 制服を着るのも一か月と、ちょっとぶり。これも、なんだか懐かしい気持ちになってくる。


 これから、暑い季節になってくるなー。夏は制服のズボンが蒸れそうでイヤだけど、仕方ないね。

 でも、いよいよ登校か……。

 久しぶりの学校も楽しみだな。勉強の遅れは、かなりヤバそうだなぁ。どうしよ。

 うーん、追試と夏休みの補習は避けたい。こうなったら、勉強の前に神頼みでもしようかな?

 ……神様に頼む、ね……うん、やめとこう。


 そんなわけで、しばらくはあっちとこっちを行ったり来たり。

 元の世界に帰れるっていうのに、夜景を見ているとなんだか感傷的になってしまう。


 もうずっと、遠い昔からこの城に住んでいて、テラスからこの景色を眺めているような。

 最後じゃない。この先もずーっと見ていけるのに。

 なのに、こんなに切ない気持ちになるんだから不思議だな……。


「光」


 僕を呼ぶ声がする。

 優しい声が僕を呼ぶ。


 今日は寝る前にね、いっぱいおしゃべりしようって。

 ふたりだけで夜景を見ながら会話を楽しむなんて、ちょっと大人な雰囲気?


 でも、声を聞いただけで嬉しくなる。

 あのとき、馬頭の悪魔に会ったときは想像もできなかった。

 まさか、こんな気持ちになるなんて。


 振り向いた先には魔王様がいる。

 優しい眼差しの彼が僕に微笑む。


「魔王様」

「待たせたか?」

「いいえ。夜景を見てました。これからは毎日は見れないなって。だから、よく見ておこうかなって」

「そうか。御許が、この風景を気に入ってくれたのなら、吾輩と仲間のかつての苦労も、より報われるぞ」

「はい、そうですね。いつまでもこの景色を見ていたいなって思います」

「吾輩とふたりでか?」


 魔王様は僕の右側に座ってニヤっと笑った。

 いつもの定位置。彼の場所。

 そして彼の左が僕の場所。


「ええ、あなたと一緒にいつまでも、です」


 そうして僕たちは他愛もない話をした。


 今までのこと。

 これからのこと。

 どうでもいいこと。

 大事なこと。


 とても楽しくて大事な時間。

 この先もこんな時間が続いていく。それが嬉しい。

 でも、今日は夜も更けた。明日、僕は家に帰る。


 なので、今夜はもう彼ともお別れ。


「それじゃ魔王様。そろそろお部屋に戻りましょっか?今日も楽しかったです」

「ふむ、光よ。名残惜しいが、ここで吾輩が我儘を言うわけにもいかんな。だが戻る前にひとつ聞きたい」

「はい、どうぞ。なんでも聞いてください」

「では聞こう」

「なんでしょう?」


 彼は一際大きな声で、次の質問をしてきた。


「吾輩、ここに来たときから竜の着ぐるみなのだが、御許はなぜ、全力でスルーして平然としておるのだ!!」


 あ、それ聞いちゃうんだ?

 せっかくいい雰囲気で終わると思ったのに。


 いまの彼ね。ドラゴンの着ぐるみ姿。

 ライムグリーンの色をした、つぶらな瞳のドラゴンちゃん。

 着ぐるみの首のところから顔を出した姿で、どこかの被り物芸人みたいです。


「光」とかムーディーに僕を呼んだときから着ぐるみ姿。つまり登場したときから。

 ノーリアクションなのはなんでか?

 だって反応するのも面倒だもん。

 ほっといて、お話をいっぱいしたほうがいいと思わない?


 でも、正直言うと、今晩ここにお呼ばれされたときは、もしかして紐パンマンになってやってくるのかな?って、ちょっとだけ思ったりもした。

 だって、このヒトだもん。そういうコトしそうだなーって。

 まさか着ぐるみ芸人になってるとは思わなかったよ、ホント。


「平然もなにも、着ぐるみでここに来る意味が、そもそもわかんないですし?紐パンで来なかったから、一応、成長したんだなーとは思いましたけど」

「ジャーン!この用紙を見るのだ光よ。これを見れば吾輩が竜の着ぐるみで、御許に会いにきた理由がわかるのだ!!」


 僕の話を一切聞かずに、魔王様は一枚の紙を得意げに差し出した。

 着ぐるみ姿なのに、どこから取り出したんだろ?

 もう既に相手したくない気分です。

 眠くなってきちゃったし部屋に戻りたいなー。


 ……ま、いっか。

 しばらくは、一緒にいられない時間もあるからね。


「なんですか?それ」

「ヌハハハハハハハハハハハハハハハ。喜ぶのだ!これは吾輩と御許を結ぶための竜譜!竜族の婚姻届けのようなものだ!」

「はぁ」

「王室法改正は、まだ済んでおらんのでな。竜族の旧来の方式に則したのだ!竜族すら忘れているくらい誰も覚えてない制度だったが、これにお互い記入すれば我らは、今!晴れて夫婦になれるのだぞ!」

「そうなんですかー。で、それが着ぐるみと、なんの関係があるんですか?」


 彼は僕の真正面に立つ。もちろん、着ぐるみのままで。

 無駄にキメ顔のドラゴンさんは、こう言った。


「吾輩は婚前交渉はしないと固く誓った。だが婚姻をしてしまえば、もう、それは婚前ではないのだ」

「まぁ、そうですね」

「と、いうことはだ!光よ、わかるだろう?」


 顔を赤らめた魔王様は、そこでモジモジして言葉を止める。

 ……なるほどです、そういうことですか。

 魔王様は男、ですもんね。

 まぁ、そうですよね。うん、なるほどー。


 これまでこの人は本当に僕を大事にしてくれて、僕の気持ちを最優先にしてくれていた。

 だからそういう関係になりたい欲求だって、男の欲望からじゃないのはわかってる。

 でも、こういうときに、男がモジモジ照れるってどうなのかな?以前は、半裸姿で堂々としてたクセに。

 僕?着ぐるみのこの男を前にして、なにをどうモジモジすればいいのか、誰か教えてくださいよ。


 それはそれとして、そのカッコでここまで来た意味が、まるでわかんないですけども。お城のひとも、誰でもいいから止めてくれないと。

 もしかして関わりたくなかったのかな。このイロモノ芸人に。


「我らはあの時、キスもした!そして互いの心を確認しあった!」

「ちょっと!キスしたとかデカい声で叫ばないでくださいよ。誰が聞いてるかわかんないんですから。それにあれは、ほっぺに軽くチュってしただけでしょ」

「だって我輩、嬉しかった!」

「挨拶みたいなもんですよ?……たぶん」

「愛の挨拶であるな!」

「クラシックの曲じゃないんですから」

「もはや吾輩と光の間に遮るものはなにもないのだ。順当にいけば、当然……その、アレだ、光よ」


 遮るものがなくても、もうちょっと、こういう時の雰囲気とか僕の気持ちを考えてくれてもいいんじゃない?

 着ぐるみを着たあなたにそんな誘いを受けて、なんでオーケーを出すと思っちゃうかな?この男は。


「そういう……あれ、ですか」

「御許は自分の世界に一旦は帰る。我輩もそれを笑顔で見送りたい……だが、その前に」

「その前に?」

「光と確かな関係を築きたい。御許と我輩が離れている時でも、いつも一緒だと思える確かな絆をふたりで紡ぎたい」

「……」

「光、愛している」


 そんな着ぐるみの格好で、ズルイくらい真摯な態度にならないでほしい。

 認めます。僕は絶対に、顔が赤くなっている。

 彼から簡単な、だけど、一番聞きたいストレートな愛の言葉を言われて、嬉しくならないわけがない。


 ……あーあー!そうだそうだ。

 うん、っていうか、ふたりを遮るものとかの前に、重大な問題がありますね。


「僕、まだ十五歳ですから結婚できませんよ?今のとこ、日本だと十六歳にならないと女子は結婚できませんから」

「な、なんだと!いや、しかしここは御許の国ではない!いや、しかし……うーむ?」

「だって僕は、まだ日本国籍のままですもん。いずれはこの国のひとになっちゃいますけど、ね」

「……そうか、光の気持ちはわかったのだ。だが、我輩たちはどんな時でも共にある。どの世界、どの時間でもな」


 まだ、あと数年は。

 少なくとも十八になって高校を卒業するまでは、この世界のひとにはならないつもりだった。

 だったけど、いっそ、もう、なっちゃってもいいのかもしれない。

 僕だって、本当はもう……。


 着ぐるみの彼にしがみつく。

 どんな時も絶対に離さないでほしい、とは言わないけど、今は僕を離さないでほしい。


 ――僕たちは今夜。


「光は……吾輩のことを、その、なんだ」

「好きですよ。あなたが大好きです。本当に胸を張って言えます」

「う、うむ。そうか!吾輩も御許が大好きだぞ!」

「はい……僕たちはおんなじ気持ちです。ずっとおんなじで、ずっと一緒ですよ」

「光……」

「……離さないで」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおうぅぅぅ!光ぃぃぃいいいい!」


 高く手に持つ用紙を振り回し雄叫びをあげる、着ぐるみのイカレた男。

 そんな彼でも、これが僕の大好きな魔王様。


「今晩は我が生涯で、最高の思い出となる夜である!色々と滾って体が熱いのだ!アッチもソッチもイヤッホウだ!今夜は眠らせないぞ、光よ!特別寝室も用意したし、防音魔法も完璧なのだ!」

「えと、それは誰が用意したんです?もちろん、魔王様が自分で、ですよね」


 優しく僕を見つめながら、弾んだ声で彼はこう言った。


「ナーガをはじめとした城の者だ!二十二時以降も我輩たちがテラスから戻らなかった場合、ふたりの記念すべき初夜になるので、くれぐれも邪魔をするな!と、連中にはよーく言っておいたのだ。ああ、心配するな。もちろん、もれなく城の者全員に伝えたぞ。よって、御許も安心して我輩に何もかも委ねるのだ!我輩たちの営みは城中が知っているのだからな。今夜は誰憚ることもなく、だ!」

「そうですか……お城のみんな、全員ですか……フフフ」


 ――本当の本当にあなたが大好きです。

 それは心の奥底からで、永遠に変わることがない僕の想い。


「では、なぜ吾輩をそんな目で見るのだ!御許の目つきが、捨て忘れて一ヶ月ほど経った生ゴミを見つけたようになっているぞ!」


 さすが、異世界の魔王様。

 本当の本当に掴めない。


 こないだの僕にとっては感動的だった、あの告白をした男とは思えない。

 これは、永い永い討伐の旅になりそうだ。


 やっぱりこの場の衝動に動かされるのは、ちょっと違う気がしてきた。

 うん、逆の意味での決心がつきました。


 今の話を聞いたら、なんだか心が落ち着いたっていうか。

 もちろん冷めたっていうのとは違うし、嫌いになるはずがない。

 ハッキリとした覚悟だって、今の僕にはちゃんとある。……アレはやっぱりちょっと怖いけど、決して嫌だからしたくない、ってことはなかったのにな。

 ……別に嫌じゃないってだけで、僕はしたいワケじゃないですからね。本当です。

 本当ですっ!絶対違うんですからね!興味津々なんかじゃないんだから!


 コホン、けど、慌てることもないよねって心情になっちゃった。だって、先はまだまだ永いんだし。

 いまから張り切ったら疲れちゃうもの。ソッチのほうでも。

 それに……それにさ?


「吾輩の溢れ出すぎて暴発しそうなリビドーが堪えきれんぞ!とりあえず、どうすれば!どうすればいいのだ!?光!マイラバー嫁よ!」

「知りませんよ、って言いたいですけど……うーん、そうですね。じゃあ、目を瞑ってくださいますか?」

「わかった!吾輩、固く目を閉じるのだ!御許との誓いは決して違わぬぞ」

「そうですか。ありがとうございます……アバドン」

「光!?」

「あー、駄目ですよ?目を開けちゃ。違わないんですもんね」


 目を閉じて、着ぐるみ姿で仁王立ちになる魔王様。

 どこに通報しても無意味な、誰も敵う者がいないかもしれない最強の男。


 魔王を倒すことを望まれた勇者として、王国に召喚された僕。

 うん……すべては、そこから始まったんだよね。


 とんでもなく迷惑で、でも、ちょっと面白そうだと思った異世界召喚。

 この世界に呼ばれた異世界の勇者の僕。

 大好きなこのひとに巡りあわせてくれた召喚魔法。


 だから最後に一度だけ。

 勇者としての仕事を、ひとつだけしようかな。

 僕にしかできない。他のひとには不可能なミッション。


 魔王の元に辿りついた最初の勇者として。

 この世界の最後の異世界の勇者として。


 ――ありがとう、召喚魔法。


 さあ、異世界の勇者は魔王に戦いを挑もう。



 目を閉じた彼を、そのまま放置。

 僕はテラスを後にして自室に戻った。


 こういう大切な思い出が絡むような時に、なんで色物枠になっちゃうかな。

 それに……それにさ?そういうアレを今晩するかもって話をまわりに吹聴するって、なに考えてんの?あの男!しかも城中全員て!

 あーもう、ほんとバカなんだから!許せない!……………………でも、大好き。

 うぅ、なんか泣きたい。けど、なぜか顔の形は笑みのまま変えることができない。

 はぁ……明日、お城のみんなに顔を見せたくないな。……アレはシテないけど。


 だから、おバカ魔王にはお仕置きしなきゃね。

 こういうのも放置ゲーって言うの?




 部屋で迎えてくれたテミスさんが、ネグリジェに着替えさせてくれる。

 彼女と眠るのも、しばらくはお休み。

 今後どうするのかを聞いてもはぐらかされた。


「姫様、パパは?」

「んとねー、いま放置戦闘でダメージを与えてるとこ。じゃあ僕は寝るね。おやすみ、テミスさん」

「おやすみなさい姫様。いつか私にもキス、してくださいね……待ってます」

「えーと、それは」

「明日からの生活が楽しみです。おやすみなさい、姫様」


 テミスさんにバレてた。

 ブレないなー、この親子。

 僕にとって、もうひとつの大切な家族。ちょっとヘンなふたり。


 明日からの生活、か。

 彼女はまたヒキニートに戻っちゃうのかな。

 結局まだ、ふたりともキャラが掴めないままだ。


 うん、でも、先は永いんだ。ドンと構えよう。

 永く生きるって、多少鈍いくらいに図太い心を持つことなのかも。

 僕も、そうならなきゃダメなんだろうなー。



 ふぁ……眠い。

 明日は家に帰って、明後日から、また学校に行けるんだ。

 クラスメイトに会ったときの挨拶はどうしよう?

 そんなことを思いながら、僕はゆっくりと眠りについた。

 おでこの髪の生え際を優しく梳いてくれるテミスさんの温かい指を感じて。



 明日の朝は早めに起きなくちゃ。

 一晩中戦い続ける魔王の彼に、朝一番で低レベル勇者の僕ができる範囲での、最大でトビキリのご褒美……ううん、攻撃を与えなきゃならないんだから。



 おやすみなさい、アバドン。

 ――また明日。



これにて、この物語はおしまいです。最後までお付き合いいただきありがとうございました。

物語を作る事、文章を紡ぐ事など、何もかもが初めての作者でしたので、この物語もその1を投稿した時点では、その12あたりで「僕たちの恋愛はこれからだ!」ENDにしようと思っていました。(小説タイトルも考えてなく、その1を投稿する時にタイトルが必要なことに気づき、慌てて決めました。)

文章を書く練習のようなノリで始めた作品ですが、読んでくださる方がいることを知りました。

読んでくださる人がいるなら、ここはもう思い切ろう、その12以降のボンヤリと考えていた設定と大まかな話の流れを、なんとか形に纏めて、きちんとした結末まで書いて届けてみよう、と、奮起をした次第です。

結果、自分の中の勢いだけで最後まで来てしまいましたが、その勢いを維持できたのは読んでくださった皆様のおかげです。

最初から最後まで、ああすればよかった、こうしたほうがよかった、の思いばかりですが、ひとつの物語として一応の完結を迎えることができました。

光と魔王のふたりをもう少し、いえ、かなりイチャラブさせてあげたかったのですが、これで一先ずの閉幕となります。

最後になりますが、ここまで読んでくださったこと重ねてお礼申し上げます。

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