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その4

 腰を抜かして白目を剥いている王様。

 恐怖のあまり金縛り状態の魔法使いさん。


 そして僕は目の前の悪魔から目を逸らせずにいた。


「ヌハハハ!相も変わらず勇者召喚などと下らぬことをしておるか。退屈しのぎに魔王たる吾輩自ら出向いてやったが面白イベント真っ最中だったようだな!」


 やっぱこの人がラスボスの魔王さんなんだ。

 スーパーで買い物してから半日も経ってないはずだけど最初からクライマックスだ。


「なにごとだ!む、これは一体」


 そんな声がして中庭の入り口から大臣さんと騎士の方々がなだれ込んできた。できれば僕が王様に襲われてるときに駆けつけてほしかったよ。


「ま、まさかお前が魔王か!」


 大臣さんがブルブル震えながらも聞いた。


「いかにも吾輩が全宇宙で最強伝説のナイスガイ魔王様だ。貴様らの国が異世界勇者など召喚して、チマチマ吾輩の国にちょっかい掛けまくるので」


 毒々しいオーラを背負って、魔王は言葉を一旦区切って右手を振るう。


「吾輩いい加減イライラしていたぞ」


 直後にゴォンと凄い音がして城壁と城壁に付いていた塔が吹っ飛んだ。チョイチョイと右手を振るっただけなんですけど…。

 この国の人たちは、こんなおっかない人を僕に倒せと言っていたのかな。言っていましたね。セレモニーまでして送り出す気満々だったし。


「ヒ!ヒィッ!!」


 大臣さんと騎士の方々が腰を抜かす。えぇ!いくら相手がラスボスの魔王でも騎士が腰を抜かしちゃうの?


 僕は変態王を押しのけて、魔法使いさんの所へ匍匐前進で向かう。王様が後頭部を打ち付けて「ぐげ」とか声をだしたけど、まぁいいです。


「ね、ねえ魔法使いさん。騎士さんたちが魔王に戦いをまったく挑まないんですけど」


 魔法使いさんは女の子座りでへたり込んでいる。なんでこんなに可愛く腰を抜かしているの?この人。


「この国の騎士は普段、主にごく平凡な野牛を相手にしています。魔物、まして魔王などといった存在と戦ったことは建国以来一度もないと思いますよ?」


 牛と戦う騎士って存在意義あるのかな!?

 恐怖で金縛りなのかと思ってたけど違ったみたいで「疲れたから座りました」と平然と言う。物珍しそうに魔王を見上げている。


「野牛は野趣溢れる味でとっても美味しいんですよ」


 最終決戦の雰囲気の中、どうでもいい豆知識を教えてくれた。


「ふむ、そこでチビっている王よ。吾輩から素敵な提案があるぞ」


 魔王さんは地面に転がっている王様に視線を向けた。あ、王様の下半身がビショビショだ。イヤなものを見てしまった。


 大臣さんに頭を引っぱたかれた王様が目を白黒させて魔王を見る。物凄い震えてるけどやっぱり魔王さんが魔力で威圧とかしてるんだろうか。

 周囲の人は魔法使いさん以外は、皆まともに立っていられない感じだ。


「ななななななな、ななんんーだ、ままま魔おおおお王よよ!!」


 変態がなんとか応答する。うん、変態で性犯罪者に片足つっこんでるけど怖いもんは怖いよね。

 さっきまで僕がその震えるポジションだったけれど。性犯罪被害者の立場で。


 僕は――魔王さんが怖いのかな。


 確かに馬頭でやばい翼をはためかせた異形だ。

 あまりにも現実離れした存在でVRの映画を見てるような…現実と認識できてないだけかも。


 じつはあんまり怖くはない。


 それにさっき『救ってやる』って確かに言っていた。

 もう訳がわからないけど、なんでかちょっと安心している。

 僕は魔王と敵対する勇者のはずなんだけど。


「今まで吾輩にちょっかい掛けてきたことを、ひとつの条件で水に流そうでないか」

「そそそそのじょ、条件とは?」


 お漏らし変態おじさんに魔王さんが突き付けた条件は――。



「その異世界の勇者を吾輩がもらい受ける!返答はイエスとはいと了解でありますから好きに選ぶがいい!」


 わー、選択肢が三つもあるって素敵ですね。


 異世界に拉致られたと思ったら今度は魔王さんに攫われようとしている。魔王さんに攫われた僕はどうなっちゃうんだろう?

 でも、今はこの国にいたら二百パーセントの確率で王様にベロベロ全身くまなく舐められて、最後は色々アレされちゃう。それは全力で回避しなきゃ。


「むむぅ、そのような絶世の美少女を手放すのは国が崩壊するより辛い。どうしたものか…」


 変態が真剣に悩む。手放すも何も僕はあなたの所有物になった覚えもないし、諄いようだけど美少女顔じゃない。てか国が崩壊するより辛いって一体なにさ。


「ヌハハ!そうか!国が崩壊するより辛いか!ならばこの城など消えてなくなっても痛くも痒くもないだろうな!」


 魔王さんはいうが早いか無造作に両手を振った。その度に塔やら壁やら城のあちこちが崩れ落ちる。


「わ、わかった魔王よ!勇者様は好きにするがよい!」


 大臣さんと騎士のお偉いさんっぽい人が王様を締め落として叫んだ。いやぁ、ここから逃げたいけど好きにされるのはちょっとね。


「ふふん、最初からそういえば城の無駄な修繕費もかさむことなどなかったのだ!まぁ良い。吾輩大満足」


 魔王さんは僕の腰を抱えると空に舞い上がる。とくにお腹が苦しいとかはないかな?


「聞け、王国の者よ!吾輩に歯向かうなど努々考えるな!また異世界召喚など下らぬことをして吾輩にちょっかいをかけた場合――」


 遠くのほうで轟音が鳴っているような。


 あ、なんか空のあっちがわでキノコ雲がおこってるんですけど。


「この国を亡ぼす。三秒でな!いいな?召喚術は即刻破棄するのだ」


 なんかとんでもない人に助けを求めちゃったみたい。もしかしてこのまま殺されちゃうのかな。異世界勇者に恨みあるっぽいし。


 そして恐怖で動けない人々を睥睨すると僕をお姫様抱っこしてそのまま飛び立とうとする。

 魔王さんの首に思わずしがみつく。空中浮遊のこの状況が怖いだけで他意はない。


「待って?勇者様」


 可愛い声が僕を呼ぶ。

 声のほうを見ると魔法つかいさんが僕に呼びかけていた。今はすっかりフードも開けて素顔を晒している。


 そのお顔はとても可愛らしかった。


 ボブカットの銀髪さん。パッチリした大きな目とプルンとした唇も柔らそうで…どこかのモデルさんですか?っていうような美少女顔がそこにはあった。

 あんな顔の人に美少女美少女言われてたのか僕。納得いかない。

 でも、あれならフードで顔を隠していたのも頷ける。この国はトップ以下、同性でも構わないらしいのが跋扈しているようだし国民も危機感をもっているんだろう。


「勇者様?」


 潤んだ目で僕を見上げる。もしかして自分も連れて行ってほしいとかだろうか。たしかに彼の容貌ならあの変態王になにをされるかわかったもんじゃないよね。


「ヌハハハ!ではさらば!おぬしらには二度と会うこともあるまい!重ねて言うが召喚術破棄の件を忘れるな」


 あ、空気読まないで魔王さんが飛び立とうとした。魔法使いさんが声をあげる。


「言い忘れてましたけど、俺の名前はドナっていいますー」




 実に今さらのことを告げてきた。あ、ニッコリと手を振ってるよあの人。

 傍から見たらこの状況って結構大ピンチに見えると思うんだけど、彼からすると僕ってもう終わったことなのかなー?


 そんなドナさんに見送られて――。そういや結局あの国で誰も僕の名前を聞かなかったな。僕からも名乗らなかったし。


 僕は魔王さんに攫われた。ううん、変態から助け出された、と思おう、今は。思い込むしかない。


 僕の平凡な日常はどこに消えてしまったんだろう。

 というかこんなわけわかんない展開が次々起こってパニックにならない僕って、自分で思ってたよりも順応力が高いのだろうか。





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