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六年生の私たち

 六年生の夏休み。


 うちのリビングで私と光はアイスを食べながら他愛もない話をしている。

 スプーンを持つ手を休めて、光が不意に尋ねてきた。


「さっちゃんて好きな人はいるの?」


 注意しなければ気づかないくらいに、光の目が微かに揺れている。

 私はこう答える。


「そうねえ。特定の好きな人はいないけれど、好きなタイプは勿論あるわ。私と付き合う男はこうあるべきっていうのがね」

「どんなタイプなの?」


 瞬時に、だが熟考してつらつらと挙げてみる。


「身長は二メートル以上。それは必須条件よ。あとは筋肉モリモリのマッチョマンでなければならないわ。顔は岩のようにゴツゴツとした歴戦の傭兵のような風貌」

「よ、傭兵?」

「知能指数は百六十以上で、才能に奢らず努力は怠らない。私を優しく、時には強引に導いてくれる、そんな男。以上でなければ即却下ね」

「へぇ、なんか凄いね。いろんな意味で」

「言うまでもないけど、もちろん年上よ。同い年と年下は興味ないの」


 光は目を白黒させている。

 そうだろう、驚いただろう。ホント、私もビックリだ。

 そして光は、どう頑張ってもそういう人間にはなれない。なられたら困るわ。


 今現在の話では、光は私に男女間の恋愛感情は抱いていないだろう。

 だが先ほどの『私の好きな人』の答えに「光みたいな子よ。っていうかあなたが好きなの」と私が答えたら?

 己惚れるわけではないが、この子は確実に私に恋愛感情を抱く。


 光が「この子可愛いよね」と評価する芸能人やモデルの女の子は例外なく、『切れ長の目』『長い黒髪」『スラっとしたプロポーション』だ。

 私は自分の容姿を評価することなどない。目の前に究極の美があるからだ。


 が、客観視するならば、私は小学六年生にしてはプロポーションも良いほうだ。目は切れ長で髪も長い。光が好む女性のタイプは、私と見た目のキャラが被る。

 この子の話を鑑みると、要は私のような外見の女が好きだという結論に至る。


 真偽は不明だが、男性は女性に比べて、相手の容姿が恋愛に絡む比重が高いという。

 そして光は、性別の話でなら一応は男性に属する。性別の話など不要なのだが、やむを得ず、一応区別するならそうなる。


 『恋愛対象の外見と内面ではどちらに重点をおくか?』などといった話を光としたことはないので実際のところはわからないが、光が恋愛相手に求める要素の中で、容姿は重要なファクターなのでは?と私は思っている。


 揺れる瞳で私に『好きな人はいるか』と尋ねた光。幼い頃からずっと一緒の私たち。

 このまま時を重ねると、光は私に異性に対する好意を抱いてしまう。

 もしかすると今も極僅かには、そういう思いがあるのかもしれない。


 だから、光のその想いがカタチになる前に霧散させる。


 私は光が大好きだ。それは地球が自転していることと同じで当たり前のこと。

 断言できる。恋愛対象として愛を育みたいとか、生涯の伴侶としたい、または性的に結ばれたいといった感情は私には一切ないし、この先もそれは永遠に訪れない。

 光が男だからではない。それはたとえ、光が女性に生まれていたとしても、結論が変わることなどない。


 ――ありがとう光。でもごめんね。


 お姉ちゃん、妹と恋愛する道を進む気には絶対になれないの。

 それはアブノーマル。常軌を逸しているわ。


 光がそれ以降、そういう話を私にしてくることはない。

 光に語った好きなタイプは勿論出まかせだ。あれはないわねー。


 でも、光の恋は応援する。

 もちろんお相手になる人へのお姉ちゃんチェックは怠らないが、光の気持ちは光本人のものだ。お相手が老若男女、いかなる人物でも私は構わない。

 光の心。そこは誰も立ち入ることは許されないのだから。


 ――いつかあなたが素敵な恋愛をできますようにと、切に願う。





 六年でも私たちの担任だったキュウリが、秋に依願退職していった。

 小学校生活が残り僅かの私たちを見捨てて学校を去るなんて、職務怠慢もいいところだ。


 退職の理由?さあね。







このお話は最初から最後までラブコメ(のつもり)です。

箸休めはこれで終わり、次話から本編で隔日に一話の投稿に戻ります。

(次回は7/11の12時です)

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