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三年生の私たち

 小学校に入ってからの光の可愛さは、『美』という言葉そのものになった。


 なんという頭の悪い表現だろう。けれど、どう伝えればよいのか。

 貧しい私の語彙では、あの子の美を言い表すことなど不可能だ。


 一、二年生の頃は、かろうじて光に普通に接していた同級生も、三年生に進級する頃にはぎこちなく接するようになった。

 あまりの可愛さに魂を奪われそうになるのだろう。良くわかる。わからない人間などいない。


 教師ですら光の前に立つと顔を赤くして目を潤ませる。

 連中の脳を蕩かせているのが憎々しい。

 この学校は私と光の二人だけが存在すればそれで良いと思うわ。


 とはいえ、二人だけの世界など現実的にありえない。やはり、閉ざされた人間関係など虚しいだけだ。


 対人関係を円滑に進めるために友人を増やすことは大事よね。

 私たちの敵を増やしても生きづらい。光にギスギスした空気を吸わせるわけにはいかないもの。


 なによりあの子には、ごく『普通』の学校生活を送ってもらいたい。

 誰もが光を特別扱いするわけでもなく、極めて自然な日常生活。

 あの子を、卑しく下劣な劣情に曝すなど許されない。私が許さない。


 私はといえば、一年生からキックボクシングを習い始めた。もちろん光の護衛のためだ。

 コーチからは素晴らしく筋が良いと褒められている。ぜひ本格的にやるべきだと。

 本格的に光の護衛をするならば、最終的に軍事分野に進まなければならないのだが、とりあえず護衛目的で続けている。


 勉強にも手を抜かない。

 正直なところ、私は勉強が苦手で大嫌いなのだ。はぁ憂鬱。

 だが、あらゆる知識が、この先の私と光の糧となるであろうことを思えばやむを得ない。

 それに努力をするという行為を子供の頃から自身に叩き込めば、大人になっても役に立つはず。


 資金がないと心許ないので株も始めた。両親に頼んで口座を開設してもらったのだ。

 小学生が少ない時間で稼げる金など知れたものだが、口座の残高の桁が増えていく様が私と光の未来を暗示しているようで実に楽しい。


 四年生以降は友人以外の人脈作りも考えねばならない。

 小学四年生で人脈作りなど遅すぎるかもしれないが、まだいくらでも挽回できる。

 私は有意義な将来に向けて邁進しなければならないのだ。

 可愛い妹との将来に向けてね。



 私は小学校入学を機に、少しづつ光の姉的立場を振る舞うのを止めていった。

 断腸の思いではあるが、もちろん光のためだ。


 当たり前のことだが、世間が光に向ける視線は美の化身を崇めるそれだ。

 だが、そんな美の化身をお姉さんぶった幼馴染が、あれこれと世話を焼く様はどうだろうか。実に美しくないわね。


 それに、私がいなければ何も出来ず何も考えられないようになってもいけない。

 私たちはお互いが、お互いを支えあうのだ。私の存在が光のために。光の存在が私のために。

 傷の舐めあいや、互いの足りない部分を補完するといった怠惰な関係など私たちには相応しくない。


 徐々に姉の立場を引っ込め、あくまで仲の良い幼馴染のクラスメイトとしての立場を確立していく。

 クラス替えがあっても次も必ず一緒のクラスだ。学内全ての教師の弱み、もとい、情報はこういう時に役に立つ。


 外で姉のように振る舞うこともなくなった私にはヒカリニウムが不足することが増えた。

 ヒカリニウムとは光を形成する成分のひとつで、私の生を繋ぐ極めて重要な養素だ。

 不足すると私は死ぬ。すぐ死ぬ。もう駄目だわ。


 なので、私の部屋や光の部屋で二人きりになると、私は存分にヒカリニウムを補給するのだ。

 幼少のあの頃のように光をギュッと抱きしめる。


 あぁ、満たされていく。


 温かな体温と柔らかい肌の感触。

 幼い頃はミルクのような匂いだったけれど、今はバニラのような香り。

 人体から出る香りとは思えないが、光だからこの香りも当然だ。


 ――なんて素敵な時間だろう。

 永遠にこの時が続けばいいのに。


「ねぇ、さっちゃん。抱きつかれたままだとゲームやり辛いんだけどー?早く一緒にやろうよ」


 うるさい、おこちゃまめ。でも可愛い。

 光が可愛すぎて私が死にそう。



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