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その1

 腰を抜かして白目を剥いている王様。

 恐怖のあまり金縛り状態の魔法使いさん。


 そして僕、月守つきもり ひかりは――目の前の悪魔から目を逸らせずにいた。

 馬の頭に漆黒の羽をはためかせる―魔王の炎の双眸から。




 あぁ、どうしてこんなことになっちゃったんだろう……。




 お安く食料品が買える近所のスーパー。安いだけじゃなく野菜と魚が良い物が多い。

 この店があるのはかなり助かる。


 いつものように買い物をしようと入口のカゴをとり自動ドアをくぐった僕は、なぜか欧州のお城の謁見室みたいな場所(見たことないけど)に居た。

 目の前にはいかにもな王冠を頭に載せた超メタボのおじさん…王様?が豪華な玉座に座って僕を見つめている。なんだこりゃ。


「おお勇者よ。死んでしまうとは情けない」

「死んでません」

「勇者のクセに死でしまうとは情けない」

「いや、ですから死んでませんって。勝手に殺さないでください」

「うむ、そちは男性……いや失礼した。女性であるな」


 むぅ、いつものコレか。


 僕はいま高校一年。

 残念ながら身長が高一の平均より低くて体格も貧弱。おまけに顔も微妙に女顔で、初対面の人には百パーセント女に間違われる。

 うん、ホントに百パーセント。泣ける。


「いえ、正真正銘のオ・ト・コです。それよりここは何処であなたはどなたですか?あと息が吹きかかるほど顔を近づけるのを止めてください……」


 とてもとても脂ぎったブヨブヨの垂れた顔が、僕の目の前に接近している。息が生臭くて吐きそうです。


「ここは王国、余はこの国の王。そしてそちは余の妾。苦しゅうない、もっと近こう寄れ」

「簡潔に説明して頂いて恐縮ですが、正直付いていけません。あと腰を抱いてキスしようとしないでください」


 とりあえず言葉は通じるから意思疎通はできるけど、疎通してると思えない。

 男だと説明してるのにこの王様、僕にキスしようとタラコ唇をムニューっと突き出している。臭いし物凄く怖いです。

 王様のお傍にいた大臣さんという人が、色んな意味で混乱している僕に説明してくれたのは次のこと。


 一 僕はこの国の秘術である召喚魔法でこの世界に召喚された。


 二 僕に異世界の勇者として世界の脅威である魔王を倒してほしい。


 三 過去に異世界より勇者を召喚したものの魔王討伐には至っていない。


 四 元の世界への送還は確実に出来るので安心していいそうな。過去に召喚された勇者も討伐には成功しなかったけど、報酬を与えられ元の世界に帰っていった。


 ……ほんとかな。でも、面白そうと思ってしまった僕もいたりする。


「唐突というかベタな展開に気持ちの整理ができてないですけど一つ聞いていいですか」

「ええ、勇者様。なんなりと」


 大臣さんが仰々しく頭をさげる。てか、この人の僕を見る目も王様と同じでエロおやじ全開なんだけど、異世界って同性愛が普通なんだろうか。


「この世界に呼ばれた僕には特別で強力な力が与えられたりするんですか?あとなんで僕が選ばれたんでしょう?」

「特別な力とやらはその容姿以外一切ないでしょうな。地道に鍛錬して魔王を倒す力を身につけていただきたい」

「特別な容姿ってなんですか!?」

「あなた様が選ばれた理由は、召喚術による無作為抽出です。おめでとうございます」

「選ばれてとても迷惑なんですけど…っていうか鍛錬ですか?」

「はい。魔王は世界のどの存在よりも強大と言われています。そのような脅威に立ち向かうには修行によって力をつけていただくしかないですな」

「えー?チートっぽい能力もなしでラスボスと戦えって言うんですか?」


 今すぐ帰してもらおう。


「ご安心を。我々も手助けもせずにあなたを死地に送り出すつもりなどございません。さぁ、そこにある宝箱を開けてください。我が国からの最大の援助です」


 おぉ、宝箱に究極の武器とか魔法を跳ね返す聖なる鎧が入ってるのかな。

 ドキドキしながら宝箱に手をかける僕。唐突でベタすぎる展開もこうなりゃヤケクソだ。


 そして開いた宝箱に眠っていたものは――。


「……なんですか、これ」

「それは我が国の流通貨幣です。ちょうど百ゴールドですな」


 え、なにその旅立ちの村で手に入るような金額は。これが最大の援助なんですか。


「それで城下町の武器屋で木刀を一振りと道具屋で薬草ひとつが買えるはずです。私は市井の物価に疎いのですが、まぁ大丈夫でしょう」


 え、大臣なのに国の物価に無頓着なんですか。てか魔王打倒を掲げるのに木刀からスタートなんですか。


「で、木刀担いで何を相手に鍛錬すればいいんでしょうか」

「王都の周りの平原には野うさぎがいます。あなたはどうやら戦いとは無縁の生活だったようなので、まずはうさぎを相手に実力を身につけていただきたい」

「うさぎ相手になんの実力が身につくんですか」

「うさぎの肉や毛皮は城下町で売れるでしょうから軍資金稼ぎにも最適ですな」

「そんなウン十年計画に付き合えません…。今すぐ僕を元の世界に帰してください」


 今までの勇者さんも野うさぎスタートだったのかな。だとしたら魔王討伐なんて夢のまた夢だと思うんだけど。


「待て勇者よ、そちの最愛の者である余を捨てて帰るというのか!」


 王様が気持ち悪いことを言いだしたよ。同性好き?最愛設定はいつ出来たんだろう。

 この世界にきて一時間も経ってない気がするんだけど。


「愛は時間ではない。それにそち一人で戦えというわけではない」


 なんかイラっとする。ともかく相棒みたいな人たちがいるのかな。


「紹介しましょう。これは勇者様と共に戦う我が国の魔法使いです」


 大臣さんに呼ばれて現れた魔法使いさんは、フード付きの真っ黒なマントを羽織った華奢そうな人だった。僕よりちょっとだけ背が高い。

 僕の身長?百六十センチだよ。この次の身体測定で百六十センチに届く予定なのです、ええ。

 今年の夏には七センチほど成長しますから!!



「初めまして、異世界の勇者様。回復魔法と簡単な雷撃の魔法しか使えない俺ですが、あなたと国のために共に戦うことを誓います」


 くぐもった押し殺したような声を出す魔法使いさんはペコリと頭を下げる。おぉ、回復と攻撃魔法を使えるハイブリット魔法使いさんなのかー。


「異世界人には魔法が一切きかないのです。ですから魔王の魔法も勇者様には効果がない、ということです」

「どういうことですか?」


 はてなマークを浮かべる僕。


「伝え忘れておりました。この世界の全ての生物は魔力を体内に宿しております。ですが勇者様たちの世界の方々は魔力を一切お持ちでないようで」


 そして大臣さんは思いっきりドヤ顔でこう言った。


「ですので勇者様!あなたには魔王の魔法攻撃も無力化されるのです!魔法は魔力を持たない者に効果がないのは過去の勇者様で実験済みです」

「実験て。ところでそちらの魔法使いさんの回復魔法は僕に効力があるんですか?」

「まったくないでしょうな」

「じゃあ、怪我でピンチになったら僕はどうすればいいんでしょうか」

「薬草でも食べてください。どうにかなります」

「勇者よ!ドンマイじゃ!そちほどのカワイコちゃんならピンチも乗り越えられる」

「今すぐ僕を元の世界へ帰してください!」


 乗り越えられるわけないでしょう。あと男に対してカワイコちゃんとかレトロなこと言うな。



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