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Tomorrow Never Knows

「吉田君、そのくらいのことは自分で判断できるだろ。何年この世界で飯食ってるんだ」

 恒例の説教に頭を下げ、今更ながらの眠気と闘う裕之だった。

 不思議なことに、今日は説教されてもそれほどの苦痛ではない。世界が多層的な構造であるように、ここで頭を下げている安サラリーマンも吉田裕之のすべてではないのだ。今まで仕事という一つの物差しだけで自分自身の価値を規定していたが、裕之にとっては、好きでもない生きるための手段に過ぎない仕事にそこまでの重きをおく理由などないと思い至ったのだ。

 一度事物を俯瞰した目で見ることができただけでも、怪しげな秘密結社に所属して魔法少女になったことは単なる変態行為や逃避行為というだけではなく有意義な経験だったように思う。

 一種解放状態にある裕之の脳裏には様々なやりたいことが渦巻いていた。

 昔のバンド仲間ともう一度会おう。もしみんなのやる気があるなら再結成するのもいいんじゃないかな。こんどは俺はフロントマンじゃなくてもいい。演奏がまずいメンバーにきつく当たるようなことはもうないだろう。大人子供だった俺も少しは成長したかもしれない。

 魔法少女の活動はどうしよう。悪魔が本当に絶対悪なのか。悪魔にとってみれば魔法事象のネイティブが悪魔であって、人間の侵略と戦っているだけなのではないか。そんな疑問も頭の片隅にあった。

 バンドを再結成するかどうか、魔法少女の活動を続けるかどうか。

 誰も知ることのない明日へと向かう長く曲がりくねった道のさまざまな分岐点に裕之は立っていた。

 裕之はまだ決めかねていた。

 ……これくらい自分で判断しなきゃな。それとも勝手な判断するなってか。

「吉田君、聞いてるのかね」

 南本芳樹の既視感のある叱責に顔を上げて、裕之はふと、もしかしたらという気になっていた。

「課長、ちょっとお伺いしたいんですが」

「何だね」

「あ、いや、休憩時間にします。すみません」

 定年間近の課長はぎりぎりだがビートルズをリアルタイムで知っている世代だ。

 ビートルズの話題を振ってみよう。『ストロベリーフィールズフォーエバー』の話をしたらどういう反応を示すだろう。

 まさかね。


 でも、もしかしたら……。


《終》


いつか、この作品を長編化したいと思います。

現状の私の未熟な筆力では、これが限界です。

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