赤日
あの部活動見学を終えた後はこれといったイベント事などないまま夏休みを迎えた。
何とも言えないが、ある意味充実した夏休みを過ごしたと思う。
なんせほぼ毎日バイトバイトバイト。
友人等とのイベント事は夏祭りくらいだがこれまた色々あり過ぎた。
振り返るともうそれだけで一日笑って入れそうなくらい(笑)
ーーまあその辺の出来事は後々話していくとしようーー
そんないろんな意味で充実した夏休みが終わり、二学期が始まった。
そしてそして今日も何故かタイミングが合い、登校中に明枝と遭遇したのだった。
…って、え!?
「おはよう…(どこから突っ込んでいいのやら…まあとりあえず)何故ダンベルを持っているのですか明枝」
そんなもの持ち歩いてて変な目で見られたりしないのか…あ、見た目ですでにちぐはぐな感じだからもう何でもありって事か、納得。
※現在明枝は何故かショッキングピンクのジャージを着用しており、片手にダンベルを持っている。
「あ、おはよー。いやー何となく今日はテンション高くて(笑)」
ふむ、それで何故ダンベル?理解不能。
「うん、よくわかんないけどどれだけ筋トレが好きなのかよくわかった」
真顔でそう伝えればどういう反応したかというと、ちょっと天然なのかと思った。
「お!黒川もようやく筋トレのすばらしさに気付いたか!」
ちょっとまてえええええええええええええええええい!?!?!?!?!?
今の言葉をどう解釈したらそういう事になるんですか!!
一体どういう繋がり!?!?
「明枝、一体どういう解釈してるの!?全然意味が違うよ!?」
思わずそういった私を、彼はきょとんとした顔で見てくる。
「え、違うの?」
マジか、ここまで天然だったとは…。
そういやよく思い出してみると、明枝は人の話の内容を理解するのが凄く苦手だった。
仕方ないのか、うん、世の中いろんな人がいるよね。
「意味が違うよ…明枝自身が筋トレをどのくらい好きか何となくわかったってだけ。すばらしさはちょっとよくわかんないや、ごめん」
申し訳なくなって謝るが、今日は特に天然な日なのか、首を傾げて笑っているだけだった。
ーーそ、そうか、難しく言い過ぎたかな…もっと簡単に説明するの、ちょっと無理…あ、そだ、話題変えよう!ーー
「そういやなんでそこまで筋トレしてるの?」
極普通の一般市民が一番最初に尋ねるような質問をする。
滅茶苦茶目立つ割にちぐはぐな見た目だからか他の質問の方が浮かんできちゃって、定番のこの質問をしていなかったことに気付いたからである。
「まあきっかけとか言いたくなかったら言わなくていいけど」
一瞬困惑気味の表情になったから多分何かあったのだろうと思ってそう補足しておいた。
それから少し考え込んだ明枝だが、数秒で表情はいつもの明枝に戻り、笑顔で口を開く。
「元はただの趣味みたいなものだったけど、今は消防士を目指してるから筋トレしてる」
ふぅむ、ちょっと隠してるかな、事実ではあるようだけど肝心なことは話すつもりないのかも。
ならしかたない、深入りする意味はないし何が何でも探ろうとはこれっぽっちも思ってないからね。
と言う訳で質問することを諦め、素直に感想を述べる。
「へー夢があるのか、いいじゃん!」
その言葉に明枝はほっとしたようでフッと自然な笑顔になると、ちょっとだけ苦笑しながら言う。
「半分はそれが理由だけど、もう半分は藤野が原因かな」
ん?フジノ…藤野?もしかして咲?
どういう事だろう、と首を傾げると明枝はちょっと小声で言った。
「…あいつ空手習ってた上に今も筋トレしてるらしいんだけど、女子のあいつに負けたくなくてさ…」
なあるほどねえ。
つまり強い自分でありたいと言う訳ですな?
つまりつまり咲に振り向いてほしい、頼ってもらいたいと言う訳ですなあ!?
思わずニヤニヤしながら明枝を見ていると、彼は照れたように真っ赤になった。
ーーおぉ、タコだーー
そして彼自身が地雷を踏み抜きました。
ふふふふふ、ありがとうございます(笑)
「べ、別に藤野に振り向いてほしいとか思ってないからな!?」
おー自白いたしました、さすが天然くん。
私はニヤニヤしたまま言う。
「そ?まあくれぐれも自分に嘘つかないようにねー」
そういったことでタコさんに再び変化(笑)
いやあ青春ですね、この人は漫画や小説並みにわかりやすくて面白い。
もちろん陰ながら見守りはするけど口出しする気はない。
相談されたら話は別だけどね、多分ないな、面倒ごと嫌だし(笑)
とりあえずタコさんのままぷるぷる震え始めたので笑いをこらえながら逃げることにした。
「それじゃそろそろ行くねー」
また学校でーと言いながらその場を離れるとようやくタコさんから元に戻ったらしく、後ろからいつもの明るい明枝の声が響いてきた。
「おーまた後でなー」
うん、敢えて突っ込みはしなかったけど、今日は何故ウサギのアップリケのついたジャージ着ているのだろ(しかも表情の違うものがたくさん…ある意味恐怖を感じるよ……)
明枝と遭遇し別れて学校に着けば、いつもなら15分で着くところを倍の30分かかっていたことに気付く。
ーーいや~早く家を出た意味ないな~ーー
まあ毎日面白いから別にいいんだけどさ、なんていうか、川村の怒りを買いそう…あ、逆に見捨てられそう。
説明しよう。
何故川村に見捨てられそうなのかというと、朝はクラス1の秀才に勉強を見てもらっているからである。
川村は自身の時間が減ることを覚悟して付き合ってくれているというのに、朝遅れてくるなど流石にひどいのだ。
案の定、
「あ、おはよ、今日遅かったね」
ちょっちょっと恐怖を感じる笑顔やめて(汗)
「ご、ごめん、明枝と遭遇しちゃって…これからは気を付けます」
びくびくしながらそう言ったらまだ不機嫌そうだったけど許してくれたようだ。
ーー本当今後は明枝と遭遇しないように気を付けようーー
そうして朝の勉強会を行った。
朝のSHRが始まる15分前に一旦勉強を中断して私は教室を出た。
一時間目の授業の準備と髪形などを直しにお手洗いに行くためである。
川村も自分の時間を作りたいみたいだったので提案したことでゲットできた貴重な時間であった。
髪形とかも直せたし…と教室に戻ろうと思って角を曲がった瞬間、漫画か!!と言いたくなるようなことが起こった。
角を曲がった途端誰かとぶつかってしまったのだ!
「うひゃあ!!!」
なんと、やっぱり私は漫画みたいに可愛く小さく叫ぶなんてことはできなかったか…ま、まあいいさ!キャラじゃないから!!
そして案の定後ろ向きに倒れ、尻餅をついた。
ーーうう…恥ずかしい……ーー
「吃驚した…大丈夫?」
そう言って手を差し伸べてくれたのはぶつかった人…なんとなんと!隣のクラスで有名なイケメン女子こと、小渡紅葉さんだった!!!!
…ああ何という事でしょう、憧れの小渡さんにぶつかってしまうとは……
説明しよう。
小渡紅葉さんは5組の体育委員。
女子でありながら、髪が男の子並みに短く整った顔立ちで眉が目に近いせいか、とんでもないイケメンなのである。
しかもプリンスのごとく自然な動きで女子を魅了する。
多分一目でも見た人には結構印象深く残っているのではなかろうか。
しかもしかも性格良し、運動神経抜群でまさにイケメン王子なのである(女子だけど)。
「ごめんなさい!私は何ともないです!小渡さんこそ大丈夫ですか?」
全力で謝った後すぐにそう言った私は焦っていたのだろう、小渡さんに苦笑されてしまった。
「ふふ、この通り無傷だよ。それよりなんで私の名前知ってるの?」
あ、そういえば名乗ったわけじゃないのに名前呼んでたね私、そりゃ驚くわ。
すぐに言い訳をして有名だという事がバレないように誤魔化した。
「体育の時合同じゃないですか?その時体育委員で前に出ていたので知ってたんです!」
うん!我ながら良い言い訳だ!と思う。
効果も抜群だったようだ。
目を真ん丸にして驚いたかと思うと笑い出した。
「なあんだ吃驚したーストーカーなのかと思ったよー。あ、あとさ同級生なんだから敬語はやめよう?」
うわあああああああああああああああああああああ!!!!
なんかもう泣きそう、小渡さんと同じクラスの人羨ましい(泣)
「誤解させてごめんなさい!!敬語やめます!!!」
あ、駄目だ自分パニック起こしています。
敬語やめると言っているのに未だ敬語が抜けていない。
まあ温かい目で見てくれ、パニック起こすとこうなってしまうだけだから。
小渡さんは苦笑しながらも私の言い放った言葉を華麗にスルーし、質問してきた。
「ところで名前は?」
「4組の黒川陽月です!」
名前聞かれて躊躇する時間も惜しいと感じて思わず即答。
若干引き気味の小渡さんは凄く優しい人間だという事を知った。
「ふむふむ…よし、じゃあこれからは友達だから名前呼びしよう」
…ん?…え、ええええええええええええええええ!?!?!?
わわわ私が小渡さんの友達にいいいいいい!?!?!?
嬉死す(泣)
「ありがとう紅葉ちゃん!!!!」
「いいえーこれからよろしくね」
「うん!よろしく!!」
そうして小渡紅葉というイケメン王子(女子)と友達になれたのである。
その後は時間もそろそろだったのですぐ教室に戻った。
ーーそんなやりとりを偶然ながらも見ていた人がいたことに全く気付かずにーー
最後ちょっと意味深ですが次話には出てこないかもなので気長にお待ちください(笑)