照る日 三
キャラ崩壊してます…
つい五分程前、私は本当に死にかけた…もちろんキュン死の方の意味である。
暁恭夜くんの声と性格によって打ちのめされたのである。
いや、わかっているとも、大袈裟すぎるとわかっているけどね!
本当に二次元キャラが三次元に現れちゃった的な人間だからさ、キュンってしちゃうのは仕方がないと思うの。
あ、勘違い防止のために言うと『恋ではない』、断言できる…はず。
まあその辺のことについては疎いからとりあえず考えることを放棄。
今すべき現実の課題を熟そうと思います。
あれからさらに二分ほど待ったところでようやく友人達が教室に来てくれたので、誰かさんのせいで潰れたお昼の情報収集の続きを行った。
誰かさんのせいで!台無しになったお昼の交流会の続きのような感覚で皆とお喋りしたからだいぶ怒りは治まったけど、放課後にまで集まってくれた友人等に感謝しないとね。
誰かさんのせいで、無駄に時間を費やしてしまったよ全く…。
「でも恭夜くんは本当にかっこいいな」
思わずつぶやいてしまう。
幸いにも私の周りには誰もいなくて遠くの方でワイワイやっていて気づいていないようだった。
恭夜くんもいつの間にか部活の方に行ってしまったようで教室に姿はなかった。
ーー胸のあたりで何だか締め付けられるような感覚に陥ったけど、何だったのだろうーー
まあとにかく今日のやりたかったことその①をクリアできてよかった。
次に進めることができるからね。
さて、やりたいことその②をそろそろ始めるとしよう。
そう思うと同時に荷物をまとめてリュックサックに丁寧に詰め込むと、教室を後にした。
向かう先は昇降口ではなく、イラスト部の部室である。
「あ、ヤッホー陽月~」
急いでイラスト部の部室の前に来てみれば、どうやら待っていてくれたらしい。
笑麻がスマホ片手に壁によりかかった状態で手を振っている。
一言言いたいのは…
ーー部室前で待たんでもーー
だった。
まあ言うはずもなく話は進んで行くのが落ち。
早速部室内に案内された私は吃驚した。
「えっこんなに部員少ないの!?」
そう、部員が両手で数えられるほどに少なかったのだ。
笑麻が私の発した言葉を聞いて苦笑した。
「本当は一年だけでも20人いるんだけどね…最初の頃は皆来て部活やってたんだけど、どんどん来なくなって最近はついにこんな状況になったわけなんだよねー」
なるほど…つまりそれほどまでにつまらない部活なのか。
「顧問と副顧問が来ない部活だからなんも言われないし、基本的に絵描いてるだけだから何とも言えない息苦しさがあるんだよね」
ふむふむなるほど、つまり先生のせいだ。
顧問が来ない部活なんて部活として成り立たんでしょう!
先生が忙しいのもあるかも、と思ったりもしてたが顧問の先生の選択ミスだよこれは!
それじゃあ面白くないのも先輩しかいない場所での息苦しさも納得もんだわ。
…なんかキャラ変わってしまったが、仕方がないと思う。
「そりゃ顧問の先生の選択ミスだね、根本的な敗因が今の現状作っちゃってるよ」
思わず笑麻にそういうと、一瞬吃驚したかのように目を見開いてから言った。
「なるほど、まあ私も部活そんなに出たくない派だから別にいいんだけどねー今のままで」
また苦笑した彼女。
なるほど、つまり部活が面倒だから気が向いたときに来れればいいや的な感じなんですねわかります。
私も同じ考えだから今回は何も言いません。
「じゃ、とりあえず部長さんに声をかけ「あ!今日は部長も副部長もいないや!言い忘れてた」
ーーちょっとまてええええええ!?何故部長副部長がいないんだあああああああ!?!?いくらなんでも部活崩壊しすぎだろう!?ーー
なんて私に言う権利はないけれど、そりゃもう駄目だわ。
救いようのない部活ーーイラスト部ーー私はこの部活の現状を知ることができただけでも良しとしようと思う。
「えっと、じゃあ見学はやめとくわ」
苦笑しながら笑麻にそういうと、最初からその答えが出ることが分かっていたかのように笑って、
「やっぱそうなるよね」
と言った。
もちろんそのあとすぐにーー現在進行形で崩壊中ーーイラスト部の部室を後にしたのである。
ーーまあどのみち一時間で退散する予定だったわけだし、何も問題ないよねーー
そう思って次の訪問予定部室へと足を運んだ。
次に向かうは高校ならではの部活、『美術部』である。
一度行ってみたかったんだよね、本格的に絵を描いている人たちに集う芸術家の部活。
ーー何てったってプロ並みの人たちばかりなんだよ!!ーー
それもそのはず、なのかこの空里高校は公立でありながら唯一芸術コースがある学校なのだ。
芸術好きはもちろん絵を描くことが好きで受験してくる人もいるらしい…偏差値が低いから多いとはいいがたいけど。
そんなこの高校の花である美術部はプロ並みの絵を描く人が多い。
もう一つ付け加えると、この美術部は部室が部員以外(部外者)立ち入り禁止なのが驚きである。
まあ行きたいって思う人の方が少ないだろうけど、徹底してるんだなって感心しましたよ私は。
でもぜひ行ってみたいと思っていた部活だから絶望感半端なかったのも確かである。
ーーそんな時に行った他クラス含む交流会ーー
つまり見学、という理由で部室内に入れる、という考えが浮かんだわけ。
変な意味でとらえないでね?
美術部という部活に興味があるのもそうなんだけど、どんな絵を描いているのかとか見てみたい、本当にプロ並みなのかっていうのを確認するために見学という建前の上に行うのだから。
もちろん入るかどうかも本気で検討するつもりではある。
ただこの時期からの入部でついていくことは難しいだろうから、自分にできそうだと感じてからの検討になるけど。
まあバイトしてるからね。
いくらバイトしながら部活やってる人がいるとしても、そういう面で不器用な私にできるかどうかは考えてみないとわからないことだし。
…おっといけない。
長々と独り言呟き続けてしまった、そろそろ美術部にお邪魔しに行こう。
見学と、さっき言ったけど美術部の見学って言っても体験なしだからほとんど絵を眺めて終わるか話を聞いて終わるであろうと思う。
そんなこんなで美術部の部室の前に来た。
扉が閉まっていて中から話し声が聞こえたので部活はやっているのだろうけど、正直入りにくい。
職員室の閉まっている扉を開けた瞬間に自分へ突然向けられる視線が苦手なくらいだから、もちろん今も心臓バクバク言っているわけである。
ーーどうしよう、やっぱなれないとだめだよねーー
数分間悩んだ末、ノックして美術室の扉を開けた。
「…失礼します、今日部活見学を「あ!黒川ちゃんだね?待ってたんだよー」
はい、頑張った私の言葉を見事に遮って下さったのは、どうやらハイテンションの部長さんのようである。
「ひゃーーーーーーーー!!あ、陽月!!やっほーーーー!!」
咲もハイテンションで話しかけてきてちょっと、若干、いやかなり引きましたすみません。
だってだって、咲がこんなハイテンションだと言葉が『咲語』になるから解読不可なんだもん。
そしてハイテンションになると決まって動きが大変なことになる。
「あはははははは」
ほら今も、肩を上げて変顔してこっち迫ってきてるよ怖いよ。
ーー奇行種ですか!?進〇の巨人か何かですか!?ーー
いや、単にテンションが上がり過ぎておかしな行動執ってるだけだとわかってはいますよ、わかってはいるけど!!
「咲!?怖いからやめてええええええ!!!」
叫びました、思わず賑やかな美術部の前で叫んでしまいました。
ごめんなさい、もう少しで切れるところでした…嘘です切れました、恐怖のあまり咲を叱ってしまいました。
「咲さん、今私が言いたいことわかるよね?」
※現在、咲は私の前で正座しています。
そして非常に申し訳なさそうに俯いてか細い返事をしている彼女。
「はい…」
「前にも言ったよね、あーゆー進〇の巨人的なので勢い良く迫ってこないでって」
私は羞恥心と驚きのあまり倒れこんでしまったので今回ばかりはきちんと叱ります。
「はい…言ってました……」
さらに小さくなる咲。
そんな姿に少しだけ冷静になった私を今度は罪悪感が襲う。
ーー本当に感情ってコロコロ変わるから面倒だよねーー
そして咲に告げる。
「…全く、次からは気を付けてね?」
結局私が折れて咲は大喜びで笑った。
「陽月、許してくれてありがと!!」
全く反省していない感たっぷりなんですが、まあいいや。
苦笑しながらも許すことにした。
そして…
ーー忘れてた!!ーー
ここ美術部全員がいる部室だったことを。
何という事でしょう、ある一人の人物以外——先生は省くーーの全員が私たちのやり取りを見ていたのだ。
本当羞恥心でどうにかなりそうな感じだよね。
本心で言うと、発狂しながら逃げ出したかった。
それか大泣きして逃げ出したかった。
とにもかくにも逃げ出して今日の出来事を封印したかった。
そんな私の願望は叶うはずもなく、普通に部活見学が始められてしまったのだが。
「さてと、色々と話も片が付いたところだし、そろそろ見学始めようか!」
ちょっとぽっちゃりした、背の低い先輩がさっきよりは真面目な顔つきで見学についての話を持ち出した。
説明する前に名前を聞くことを忘れない。
「名前の方を伺ってもいいですか?」
普通にしていればしっかり者のお姉さんといったタイプの先輩なんだけど、どこかが抜けていて気が抜けない、と感じました。
今でさえ名前を教えてもらえないのでは?と思ったほどなのだから。
「え…あ、そうだった、名乗るのを忘れてた…私は川村です。この美術部の部長をやらせて頂いてます」
おっと、名乗ったつもりですらなかったのですね、意外なところで抜けていらっしゃるよ。
…ってあれ?川村って…
「…もしかして先輩、翼っていう弟いません?一年に」
思わず聞いてしまった…と思って後悔した時にはもう遅い。
川村先輩は驚き、見学話からすぐに話が逸れていく。
「うん、いるよ!あ、もしかして同じクラスなのかな?」
「あ、はい、同じクラスです。いつも仲良くしてもらってるんですよー」
思わず会話続けちゃった…
他の美術部員の方々からの呆れた目線が痛いです。
というか咲、何故会話に参戦してきた!?
…自分で始めた会話だけど、もういいや面倒だし止めるのは諦めようと思う。
他の部員がそれぞれ自分の作業に戻っていくのを確認すると、咲と川村先輩との会話が終わるまで美術部の活動を眺めている事にした。
美術部員の方々の部活動を一言で表すなら、
ーーかっこいい!!!ーー
ですね。
本当にプロ並みの絵の上手さでした。
特に気に入ったのは恭夜くんの絵の世界観です。
一見何とも言えない暗い絵なのにすごく悲しそうだったり、可笑しそうに笑っていたり、メッセージが込められている感が物凄くした。
ど素人の感想ですけどね!
物凄く引き込まれたのは確かである。
そして今更気づいたけど、恭夜くんはまさかのさっきの騒ぎの時も耳にイヤホンつけて絵を描いていたらしい。
なんという集中力の高さでしょう。
その集中力ほしいと思った、切実に。
そんなこんなで眺めていたら、ようやく会話が終わったらしいけど…今度は副部長さんと話し始めちゃったので私は空気になりつつ退散させていただきました。
ーー目的達成できたし、大丈夫だろうーー
後で咲に聞いたけど、どうやら私のことはほとんど覚えていなかったらしい。
悲しいけど何だか命拾いした気がするのはどうなんだろう、と思ったハチャメチャな放課後だった。
ごめんなさい咲が大変なことに(汗)
申し訳ないです。