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放課後の絵描きさん  作者: 夢迷四季
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照る日 二


情報収集とはまたちょっと違う、スケッチに近いかもしれないがそれともまた違うだろう。

そのままの意味で考えればスケッチとは『描く』ものだから。

私がよくするのは『描く』のではなく『書く』ことなのだ。

ある意味ではスケッチだと思う。命名するなら、『情景スケッチ』とでも表現するのかな。

まあそんなことはいい。


私は5分間という短いのか長いのかわからない時間制限の中、ひたすらに暁くんの表面上の情報収集を行っていた。

雰囲気、髪形、おおよその身長や、どのような顔立ちか、癖や行動を気付かれないようにメモするのだ。

一歩間違えばストーカーと呼ばれても否定はできないような行動になってしまうのが情報収集の危険なところなのだが、自身の人間観察力はほんの数分だけで十分な情報を得られるすぐれた能力だったのである。


まあ、人並みより少しすぐれている程度だから、自慢するほどの事でもないのだが。


だけど例えばどこかの会社に就職したいと思った時下調べなどを行うのと同様で、人間と接触する場合その人についてある程度知っておいた方がよいのだ。

そのため私は情報収集を行っていた。


雰囲気はよくわからなくてミステリアス、髪は男子にしては珍しく長めで、身長は167か8くらいだろうか?意外と高くなくて小柄である。

前髪を伸ばしているのか目にかかっていて顔立ちがどうなのか予想しかできないけど、目以外は整っていると思える。

猫背でよく寝ているけど、ふと見ると真剣に絵を描いているときがあることを思い出した。

見た目通り芸術が似合う人だと思ったが、あくまで私個人の意見だ。

癖は今のところ不明である。

…ひとつ言うなら高確率でマスクをしていることが多いとは思っている。


今気づいたけど、特徴をよく見てみるとアニメキャラで出てきそうなタイプの人だった!

一通りメモをしてから私は思わず苦笑してしまったよ。

そりゃかっこいいわ、というかかっこよくなかったら逆にダメなパターンだわ。


とか何とか意味不明なことを呟いてしまうほどに予想と一致していたのだから、少しおかしな発言しても仕方がないと思う。

そういえばたまに、前髪が長くて目はほとんど見えないけど一瞬だけ、キリッとした、でもどこか優し気な黒い瞳が見えることがあって、何故かキュンってすることがある。


一般的な男子生徒より大人びているが自由人、か。

しかもいかにも絵描きさんって雰囲気だからルックスの良さがにじみ出ていますね(真顔)

あと、絵を描いてるとき長い髪が邪魔なのか、後ろで束ねてる時があるんだよね。

絵描きさんだあって再認識する瞬間である。


思わず微笑みながら暁くんの背中を眺めていると、突然何の前振りもなしに彼が振り返った!


…え、え!?ち、ちょっと、ななななんでこっち振り返ったの!?背中に目かセンサーでもついているのではないですか!?!?


焦燥感にかられる私。

まあだからと言って暁くんが何かしてくるわけでもないのだが、今日は驚くような出来事が起こった。


「何?」


いっやあああああああああああああ!!!!!

何という素晴らしいボイスなんでしょおおおおおおおお!!!!

めちゃくちゃかっこいいじゃないですか!!!!

あ…ゲッホゴホゴホん…いかんいかん、私ともあろうものが取り乱すなんてーー何様のつもりだろうと思わず自分に問いかけてしまったがまさかのスルーしてしまう落ちー-なんという破壊力だ暁くんボイス。

そして本当に吃驚した。

少し高めの低音ボイスだったし、何だか眠たそうにしている声がまたいい。

とにかく格好いいと私は感じ、案の定一瞬意識を失いかけましたよ(笑)

幼い大人の声とでも表現できるなあ…話がずれてしまった、元に戻そう。


とりあえず『声フェチ』な私にとっては素晴らしい時間でした。

本当に一瞬の出来事だったのに、色々な考えが自分の中をグルグルしていたくらいですから。

暁くんは、そんな自分自身のことどう思っているのかまた新たに興味がわいてきたのは、私だけの秘密にしておこうと思う。


というわけで私の中では『暁くんボイス』がトップ10にランクインしました。

格好いい素敵な声、御馳走様でした。


どうしようもなく胸が高鳴っているが、理性がしっかり抑えててくれている。

つまり、表情には全く出ておらず、見た目はちょっと冷たい人間かもしれないほどだ。

まあ内心焦りまくってますけどね。


多分作り笑いのような笑みを浮かべて、暁くんにようやく返事をする。


ーー実際数秒間の出来事であるーー


「いや、何でもないよ。ところで暁くんは何を描いてるの?」


にっこり笑って聞いてみた。

我ながら自然な流れでよく聞けたとは思ったが、冷静に考えてみるとわざとらしくも感じるのでやっぱりまだまだだな、と思う。


別に女優になりたいわけじゃないから演技はそこまで凄くなくていいんだけど、やっぱりある程度はできないと今後の人生上手くやっていけないと思うんだ。

中学での出来事がそのことを教えてくれたんだよね…。


まあそれは後々また考えるとしよう。


暁くんは最初は少し疑わし気な表情だったのだが、私が『何を描いてるの』と聞いたとたん困惑気味な表情になり、すぐに照れたような表情に移り変わった。

なんかちょっとわかりづらいけど意外に表情豊かな人なのかもしれない。

…あ、笑麻がこっち見てる。

ちょうどいいから後で暁くんの表情について聞いてみようっと。


そして問題の暁くんはというと、あんまり乗り気じゃなさそうだったけど意を決したような表情になり、言った。


「…よかったら見る?」


素敵な低音ボイスでの質問返しをありがとう。

ついでに、と笑麻も呼んで暁くんの絵を鑑賞することにした。


絵は、どっかで見たことあるような人物模写だった。

暁くん曰く、画像検索してたら描きやすそうな人物が出てきたから名前わかんないけど描いてみた、らしい。

暁くんらしい理由なんだけど、多分もう笑麻は話を聞いていないと思われるよ、ごめんね暁くん。

案の定笑麻は叫んだ。


「何これ何これ!?超上手い!!暁くん流石だね!人物模写こんなにうまく描けるなんて、尊敬するよー!」


はしゃぎまくっております。

そして今度は写真を撮ってもいいか、などお願いし始めた。


しょうがないよね、なんせ暁くんの描いた人物は笑麻の大好きな音楽グループの小山くんなんだから。

しかもこのクオリティー、さすが美術部と言わざるを得ない。

思わず内心での独り言に頷いてしまう。


「ねねねね恭夜くん!お願いします!写真撮らせてください!!」


…あれ?いつの間に『暁くん』から『恭夜くん』になったのだろう。

暁くんは気にしていないみたいだから多分大丈夫だろうけどね、何だかちょっとだけ胸のあたりが苦しくなったのは気のせいだろう。

笑麻は何が何でも写真を撮りたいらしい。

暁くんに向かって直角にお辞儀までしてるよ(笑)

暁くんは誰が見てもわかるくらい困惑している様子だった。


「そんな、お辞儀までしなくても…」


と言っているが、正直甘い!と言いたくなる。

別に暁くんの絵が欲しいわけじゃないけど笑麻の行動の意味は理解できるんだ。

人間誰しも、と言う訳じゃないけど笑麻みたいに大好きな人の絵だなんて私でも欲しいと思ってしまうもの。

まあ今はそんな理屈っぽいのは置いとこうか。

また断られたら後で笑麻を慰めるのが大変だからね。


「ね、暁くん。笑麻にその絵を譲ってくれないかな?」


写真は嫌なら実物を、と思ってダメもとで聞いてみることに。

譲ってくれる可能性は限りなく0に近いけど、一つの可能性に賭けてみることにしたのである。


ーーつまり、写真嫌いの性格ーー


もしそうであるのなら自分でなくても写真を撮っているのを見るのも嫌なはずである。

笑麻が何度もお願いしているのにたかが写真一枚撮るだけなのに頑なに拒否しないと思ったのだ。

まああくまで可能性の一つに過ぎないからあっているかもわからないけど。

とにかくその可能性に賭けてみようと、言葉を発したわけ。

これがあっているのなら、暁くんはすぐに絵を譲るだろう。


「無理にとは言わないんだけど…」


暁くんは拍子抜けしたかのような表情になると、


「まあ完成していないけどそれでもいいんならあげるよ」


うん、どうやら写真嫌いだったみたいだね。

そしてそれを聞いた笑麻はというと…


「やったああああああああああ!!!!!ありがとう恭夜くん!!!!!大事にするよ~!!!!」


と奪うように絵を受け取って、叫んでどこか行ってしまいました。

多分他クラスの友達のもとに行ったんだ、とため息をついた。

そして振り返って暁くんに向かって精一杯の笑顔を見せて、お礼を言う。


「暁くん、無理言ってごめんね。絵を譲ってくれてありがとう」


暁くんはちょっと困惑気味だったけどすぐに頷いてくれる。


「絵ならいつでもかけるから」


かっこいいこと言うなあ。

ニコニコしながら私は返した。


「じゃあ私も何かリクエストしてもいい?」


きっと言葉を発しての返事はもらえないだろうと思いながらもそう言ってさりげなく今後もかかわりを持てるように促す。

案の定暁くんは頷いただけだった。

けどまあこれで今後もつながりを持てると言う訳だから、ラッキーだったと思う。

そしてそろそろ立ち去ろうとしたとき暁くんに呼び止められた。


「黒川、さん。さっき古里さんにも言ったんだけど、『暁』って言いにくいだろうから、『恭夜』でいいよ」


ぎこちない呼び方で止められたと思ったらそんなこっぱずかしいこと良く言えましたね、暁くん…いや、恭夜くん。


「それなら私も『黒川』か『陽月』でいいよ、恭夜くん」


ちょっとだけ言ってみたかったので私も仕返しのつもりで言ってみた。

多分普通に『黒川』と呼ぶだろう。


「じゃあ黒川、呼ぶときはそう呼ぶことにするよ」


そして恭夜くんはフッとさわやかな笑顔を見せてくれた。


ーーマジで発狂するかと思ったーー


軽く寿命削られたのではなかろうか。

そんなことを考えてしまう程に破壊力のある笑顔でした、御馳走様でした。

でも現実私は結構冷静人間のため、そんな風に荒れ狂っているのは内心だけである。


「うん、よろしく!とそろそろ失礼するね。絵を描いてるところ邪魔した上に譲らせてごめん。それじゃあまた明日」


記憶にはあまり残っていないけど多分そんなことを言っていた気がする。

今回多少の細かいことはスルーしてくれた恭夜くんにマジ感謝です。


そして私は今日の放課後に約束していた人たちが来ていることを確認してその場を後にした。

約束の「イラスト部と美術部の見学」へ行くために。





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