幻日 四
めちゃくちゃ久々に投稿してみましたが、残念なことに今回は陽月目線じゃありません!
申し訳ないですが、本編に続いているのでよかったら読んでください!!
(読まなくても今後のストーリーに支障はありません)
《多加木目線》
俺は現在ある病院の、黒川陽月という人の病室にいる。
正直俺がここにいる意味はないのだが…恭夜が気になっていると言う人だ。
少しだけ会ってみたくなった。
会った感想と言えば…そうだな。
ーー誰かに似ているーー
眠っている姿を見て直感的にそう思った。
そう、あれは…そうだ。
栞。
幼馴染で密かに思いを抱いていた彼女の雰囲気にそっくりだった。
姿も声も彼女とは全く違うのに。
雰囲気は彼女と似ていた。
人と、関わるときに気を遣うような雰囲気も正義感のようなものも。
きっと恭夜も最初はそんなところに惹かれたのだと思う。
そして唐突に黒川さんは言った。
『源栞を知っているのか』と。
その瞬間呆気にとられた。
まず恭夜の過剰な拒絶反応。
黒川さんの言葉と恭夜を見つめるその目に移った感情の不安定さ。
とにかく動けなかった。
そして、恭夜のあの反応を見て昔を思い出した。
それは昔、まだ源栞が俺たちの隣で笑っていた頃の事。
『おはよ!!』
中学の時。
通学路を本を読みながら歩いている時、突然後ろから突撃されてかけていた眼鏡を落とした。
吃驚はしなかったが眼鏡が傷つく!!と必死に掴んだ思い出だ。
わなわなと震えながら眼鏡をかけ直して後ろを振り返れば、案の定そこにはポニーテールに結った髪を嬉しそうに揺らす栞の笑顔があった。
だがしかし、俺が不気味に微笑みながら何か言おうとした途端怯えだした。
思わず笑ってしまいそうになるのを堪えて俺は説教をかます。
『突然吃驚するだろう!それに万が一俺じゃなかったらどうするんだ!』
栞は今にも泣きそうな表情になるとか細い声で反論しようとする。
『だ、だってぇ…』
結局言葉が見つからないのかぽろぽろと涙を流しながら言った。
『ごめんなざいいい』
泣きながらなせいか、鼻声でそう言って本格的に泣き出した。
『あーあ、丈兄、また栞泣かしてーダメじゃん』
横からほぼ棒読みで恭夜がそう言った。
くそーこいつ、面白がってやがる!!
全く、慰めればいいんだろ!
慰めれば!!
俺は呆れながらため息を吐くとまだ泣いてる栞に優しく言った。
『その、言い過ぎた。ごめん。もう怒ってないから』
そして頭を撫でてやると、栞は、ぱあぁ!と顔を輝かせて笑った。
『えへへ、ありがと!』
本当可愛いと思う。
ただし可愛いからこそだな。
俺はこの関係を壊したくなかった。
背が高い上に口調もまるでお兄ちゃん。
まさに二人の兄貴分。
二人にはそんな風に思われていたと、周りの奴から聞いた。
二人にはそれだけ頼りにされていたのだと思う。
確かに一つ上で実質お兄ちゃんの位置にいるわけだからあながち間違いではない。
それはそう、俺の運命というものだったのかもしれない。
俺は栞が好きだった。
だがそれは届かぬ思いだった。
ある日、栞が俺の下に一つの相談事を持ち掛けてきた。
『丈也兄ちゃん!あのさ、恭夜って何が一番好きなのかな』
顔を真っ赤に染めながらそう言う栞。
俺はその言葉に苦笑を隠せなかった。
もう諦めるしかないだろ。
恭夜も同じことを聞いてきた後だったのだから。
そう、二人は同じ誕生日だった。
そして毎年誕生日は二人のプレゼント交換が恒例行事となっていた。
しかしいつも大体自分で考えて決めていたのに。
それなのに今年、中学に入った途端意識し始めた二人。
両想いなのも知っている。
なんせ二人は俺に互いの事を相談してきたのだから。
俺の事は恋愛事情において眼中にないと、理解した。
『幼馴染の優しいお兄ちゃん』
もう引き返せないくらい定着した二つ名のようなものだった。
中学二年に上がる前。
二人はバレンタインデーを境に付き合い始めた。
しかし二人になると照れくさいのかよく、一緒に遊びに行こうと誘われたっけ?
それなりに楽しかったがやはり苦しかった。
俺自身女子と関わりがないわけではなかった。
よく遊びに行く子もかわいい子も多かったし、告白されたりもした。
だけどどうしても栞が頭から離れなくて、すべて断った。
忘れられない人が居るから、と。
我ながらよくもまあそんな想い続けたものだよ。
そんな正解は辛いだけなのに。
それでも高校生になるまでは変わらなかった。
しかし悲劇はじわじわと這い上がって来ていた。
それは俺が高校に上がって間もなくの事だった。
栞の母親が事故で亡くなった。
もちろん葬儀が行われる予定だった。
しかしその葬儀までの間に栞の父親は現実が受け入れられず自害。
栞一人が取り残されてしまったのである。
葬儀は両親一挙に行われた。
栞は最初こそ泣いていたものの、涙が枯れたのか、ぼうっと眺めているだけだった。
その葬儀が行われたその日、俺と恭夜と栞は俺の家へと来た。
俺の両親は父親が病気で亡くなって以来、母親が海外赴任していたため、家には一人で住んでいた。
誰しも大事な人が亡くなった時はおかしくなるもんだ、仕方ない。
そう自分に言い聞かせてせめて自分は常人のままでいようと、努力したものだ。
一種の逃げだったのかもしれないが。
三人で部屋の真ん中に座り込んでは沈黙が続いていた。
誰も何も話さない。
栞の両親とあまり関わりがなかった俺は悲しみがいまいちなところがあるが、現在の栞の心情は理解できる。
それ故に俺は何も言えない。
何かを言ったところで臨む答えは見つからないのだから。
そしてしばらくして恭夜が一言言った。
『水、飲む?』
それはたぶん栞に言ったのだろう。
栞はビクリと一瞬身体を震わせて、それからコクリと頷いた。
俺は無言で立ち上がって、立ち上がろうとした恭夜を制して台所へと向かった。
コップを三つ用意してそこに水を注ぎこんでいく。
水の流れる音に緊張していた気持ちが少し和らいだところで、話し声が聴こえた。
『…栞、これからどうするんだ?』
恭夜の一言は、他の奴から見れば無神経と言われたかもしれない。
けどそこはやっぱり栞だなと思った。
『……親戚の伯母さんの家が近いから…そこにお世話になるつもりだよ』
しっかりと考えていたようだ。
しかもちゃんと答えた。
やはり栞は精神的にも強い、大人だと思った。
ーー俺はそれに比べてどうだった?ーー
昔の俺は栞みたく大人のように精神的に強くなかった。
だから父さんが亡くなった時もまともな考え方はできなかったし、母さんが海外に単身赴任すると聞いて素直に頷けなかった。
それに比べて栞は涙が枯れてからというもの、不満一つ漏らさずに先を見据えている。
もしかしたら父親が自害する時に何か遺言でも残したのかもしれない。
そこはいくら俺でもわからないが…。
少なからず栞に両親の後を追って自分も、という考えがないようで安心した。
恭夜の声も聴こえる。
『そっか…じゃあ、俺らと離れるわけじゃないんだな』
ホッとしたような声でそう言っていた。
どういう意図で言ったのかはわからない。
あいつはいつもどこか言葉足らずだからな。
多分栞が一人ぼっちにならなくて済んだ、とかそう言う事を考えているのではなかろうか。
そう考えてみるものの、俺には答えがわからない。
栞はわかったのかな。
『けど学校は、転校することにしたよ』
栞ははっきりとそう言った。
俺はちょっとびっくりして、固まってしまったが恭夜は諦めたような声を出した。
『…そりゃそうだよな』
栞の学校での事はあまり知らない俺にとっては聞き捨てならない会話であった。
一体何があったと言うのだろう。
『あと数日はこのまま通うけど、来週には転校するよ』
俺はどうしたらいいんだ。
ただただ立ち尽くす他なかった。
それから数日間、何か吹っ切れたような表情の栞が朝、恭夜と登校していくのが日課となっていた。
今までは俺が送っていくというスタイルだった日々が、突然変わった。
もちろん二人は俺に挨拶をしていってくれる。
前と変わらず頼ってくれる。
けどもう二人の世界には踏み込めないと言う感じがしてちょっと悲しく思った。
ーー俺もそろそろ前に進めって事かなーー
そう考えるようになった。
今は実質一人暮らしだ。
親戚の人が二日に一回見に来てくれるが、基本家事全般俺一人でこなしている。
母さんが毎週仕送りしてくれるから生活できてはいるがやはり高校生になった時が問題になるだろう。
俺はバイトをすることにした。
二人はしばらくして学校に一緒に行く姿を見かけなくなった。
恐らく栞が転校したからだろう。
それでも毎日俺の所には来るので寂しくはない。
「丈也兄ちゃん!おはよう!今日はまだ恭夜きてない?」
栞は家に入り込むなりそう言って辺りをキョロキョロ見回す。
俺は苦笑しつつ食後のお茶を飲もうと用意していたマグカップを片手に返事した。
「今日はまだ課題が終わってないから来れないらしい。さっき電話がかかってきてそう伝えといてくれってさ」
その連絡を聞いた栞はあからさまに落胆して、「そっかぁ」と素っ気なく言うなり玄関の扉を重そうに開けた。
「もう行くのか?」
なんとなく寂しさを感じて声をかけ、留まってくれないか聞いてみたが、栞は振り返って寂しそうに笑った。
「今日は特別。…それじゃあまたね、丈也兄ちゃん」
そう言って去っていく華奢な背中を、俺はただ黙ってみていることしかできなかった。
その姿を見ているとなんだか胸のあたりがざわざわして漠然とした不安が押し寄せてきたのだが、この時はまだ原因がわからなかった。
そしてその日。彼女、源栞は、終ぞ帰らぬ者となったのである。
登校中に居眠り運転をしていたトラックに、撥ねられそうになっていたお年寄りのおばあちゃんを助けるために飛び出した結果、どうにかよけて助けられたものの、持っていたカバンのストラップが不幸なことにタイヤに巻き込まれ、一緒に引きずられてしまったのだとか。
正直複雑だ。
あの日直前に引き留めていたら、そのおばあちゃんが亡くなっていたかもしれないのだから。
そう考えると俺の家に来た時点で引き留めておけばよかったと考え難い。
しかし恭夜は違った。
「なんで、なんで栞を送り出しちゃったんだよ…」
まるで絞り出すかのようなか細い声で、俺に対する軽蔑の言葉をぽろぽろとこぼしていく。
「丈兄が俺の言伝なんか言わなきゃよかったんだ」
「丈兄がもっとちゃんと引き留めてたら」
「丈兄がせめて少しでも見送りしてくれてたら」
などなど。
けど次第に俺への愚痴でなく、自己嫌悪へと走っていく。
「俺が課題ちゃんとやってたら少しでも引き留められたかもしれない」
「あの日だけでも送ってあげてたら」
「俺が、そばにいれば守れたのに」
言い終えるころには俺の腕の中で静かに涙を流していた。
「栞に、会いたい…!」
あの日のことは忘れられない。
恭夜がようやく回復したのは高校に入ってからだ。
そして今の今まで栞に関する話はタブーとして、一切話題に出さずにここまで生きてきた。
それがなぜ今この場で、事故にあったという黒川陽月の口から出るというのだ。
「なんで君が…」
放心状態から目が覚めたころ、勝手に動く口をどうにか動かし恭夜の方へと視線を移すと、恭夜は何かに突き動かされるように勢いよく病室を飛び出していった。
黒川さんがポツリと一言口にする。
「夢に、源栞さんという見知らぬ女の子が出てきたんです」
その言葉にハッと視線を黒川さんに戻すと、彼女は複雑そうに顔を歪めたまま俺を見据える。
その瞳は栞とんだか似ていて、まるで栞と対面しているような錯覚に陥りそうになった。
「貴方のことも聞きました。…多加木さんですよね?源さんから、多加木さんと恭夜くんに伝言をお願いされました」
「『どうか私のことを少しずつでいいから忘れてほしい』『前を向いて再び歩き出してほしい』と」
「それから…」
急に俯いて黙り込む黒川さんに返す返事が喉の奥に引っかかって出てこない。
口を開けては閉じてを繰り返しているうちに、彼女は意を決したように顔を上げた。
「『丈也兄ちゃんの気持ちに応えられなくてごめん』」
真剣そのものの黒川さんの瞳が完全に栞と重なって、体が硬直する。
「栞…」
頭ではわかっているのに、何故だろうか。
栞が一年の時を経て再び息を吹き返したように感じた。
「源さんや多加木さん、恭夜くんの過去のことは知りません。けど、少しでも源さんの思いが届いていたらいいなって思います」
俺は黒川さんのその言葉に深く、深く頭を下げた。
この日を境に俺は救われたと思う。
以前みたく栞の話題に触れることのない生活ではなく、ちゃんと向き合って生活できるようになったのだ。
恭夜の方はまだわからないが、時間が解決してくれるだろう。
「よし、朝食も結構うまくできたし、今日こそちゃんと栞の墓参りに行かないとな!」
一人暮らしの小さい空間に俺の明るい声が溶け込んでいくのを感じながら、幼い頃に三人で撮った写真を見る。
屈託のない三つの花が咲き誇ったその写真に俺はふっと柔らかく微笑んで、今朝の朝食の一口目をかじった。
さて、一人はどうにか救われました。残るは後一人、暁恭夜くんですねっ!
次回は前回の話からしばらく過ぎた後の話になります。
なるべく早く、またごちゃごちゃにならないように投稿いたしますので
ぜひとも読んでいただきたいです!




