幻日
今回は陽月以外の人たち目線です
《恭夜目線》
一旦クラスが暇になったので俺は休憩すると言って教室を出た。
本当は仕事放棄しちゃいけないんだけど、朝から休みなしで頑張ってくれたからという理由で許可が下りた。
意外にも優しいクラスだと思う。
まあ人にも寄るけどな。
そんなわけで文化祭を回っていた時だ。
三階と四階を繋ぐ階段付近でぶらついていた時だ。
「きゃぁぁぁぁああ」
「うわぁぁぁぁああ」
男女のカップルが突然悲鳴を上げた。
吃驚して振り返ってみれば、階段を見上げて尻餅をついている男子。
しゃがみ込んで恐怖の色に染まっている女子がいた。
そしてその男子の目線の先に視線を移した。
「っ!!黒川!?」
そこには、頭から血を流して倒れている、黒川がいた。
近くを通りかかった先生を呼んでくれた生徒がいたのか、すぐに先生が駆けつけてくる。
「皆さん近づかないでください!」
そう言って野次馬をすぐに追い払っていく先生達。
俺はとにかく混乱していた。
やはり黒川を一人にするべきじゃなかったと、後悔した。
事前に川村からある程度の事情は聞いていたのに助けられなかったと。
俺は放心状態だった。
先生に押されて倒れこんで、そこでやるべき事に気付き、別の階段から教室へと向かった。
我ながら凄い変わりようだと思ったのはもう少し後の話である。
《笑麻視点》
それは本当に唐突な出来事だった。
廊下が妙に騒がしいな、とは思っていたのだが。
「黒川が階段から落ちた」
恭夜くんは凄い剣幕で教室に入るなりそう言ったのだ。
最初は皆信じなかった。
咲ですら笑っていたくらいだ。
ただ恭夜くんは物凄く真面目な顔でそう言っていた。
そして少し遅れて担任の先生が教室に入ってくるなり言ったのだ。
「文化祭は中止」
だと。
そして担任の先生の何といえないような焦りと心配の入り混じったような感情の籠った言葉に、クラスの皆は恭夜くんの言葉を信じざる負えないことに気付いたらしかった。
私は最初信じていたわけではない。
ーーきっと陽月もすぐ帰ってくるーー
最初は笑って陽月が戻ってくるだろうって信じて疑わなかった。
今日はオフだったからどこかで、古本市場にでも行っているだろうって思っていた。
しかし事態はそんな甘い考えを打ち砕いていく。
先生は戻ってくるなり文化祭は中止だと言った。
直後に放送が流れ、文化祭に訪れている方々の、いわば追い出しと片づけを始めた。
文化祭が中止になった理由は私達一般の生徒には伝えられず、ただ不満と焦りと緊張が漂う形となってしまった。
ただしそれは最初だけ。
文化祭中止宣言がされて続々と戻ってくる生徒たちの中には現場に居合わせて事情を知る人もいた。
もちろんクラスの中にも。
第一発見者と言う名目で先程紅葉ちゃんと萩原くんのカップルが連れていかれる時に担任の先生も教室を出て行った。
それを合図に見ていたと言うクラスメートが何が起こったのかを説明し始めた。
「黒川がなんか他校の人っぽい奴らに連れられて歩いているの見た直後だったんだよ!!」
そのクラスメート、吉澤は興奮しながらも見た情報を伝えていく。
吉澤の情報によると…。
陽月は他校の生徒らしき人に連れて行かれていた。
直後、階段の方から何か重いものが落ちたような音がした。
そして気になって見に行ってみればさっき見た陽月の知り合いらしき人と一緒に、伊理塚がニヤニヤしながら通り過ぎていく。
階段からは悲鳴が聞こえ、駆けつけてみれば陽月が階段の踊り場で陽月が頭から血を流して倒れていた。
「そ、そんなドラマみたいな話、信じられないよ」
私は必死でそう口にした。
ーー陽月がそんなことになるわけない、だって強いし…ーー
自分の中で理由をつけては信じようとしない自分とは違い、皆吉澤の話を信じたようだ。
「黒川さん、大丈夫なのかな」
一人がそう口にした。
一部は楽しそうに笑っている。
「大丈夫じゃなかったらこんな大ごとにはならないだろ(笑)」
なんでそんな楽しそうにできるの?
悔しくて怖い。
咲はずっと放心状態である。
川村は私の様子を心配して声をかけてくれた。
「古里、黒川はきっと大丈夫だろ。信じて待ってようぜ」
頭から血を流して倒れていた。
突き落とされでもしたんだろう。
階段から、しかも頭から血を流すほど勢いよく。
そんな話を聞いても川村は元気づけるようにそう言ってくれた。
優しいな、この人は。
私は川村の言葉に力なく頷く。
川村はそれを見てもう大丈夫だと思ったのだろう。
何も言わずに席に戻っていった。
咲は担任の先生が文化祭は中止だと言った時から全く表情に変化がない。
否、一回だけ、吉澤が話している時にショックを受けたような表情をしていた。
しかし今はもう無表情である。
大丈夫だろうか。
席も出ているようだし…風邪ひいているのかな?
一人でぼーっとしていても仕方がないし、咲に声をかけに行くことにした。
「ーー咲、大丈夫?」
声をかければいつも通り、ではなくゲッソリとした顔に無理やり笑みを浮かべてこちらを向いた。
「だいじょ「大丈夫じゃないね!?」
私はそんな顔色の悪い状態でも大丈夫だと言おうとしている咲を遮ってそう言った。
いや、本当何で笑っていられるのか不思議なくらい顔色が悪い。
「咲、今すぐ保健室行こう」
私はすぐに提案した。
普段の咲ならやんわり断っただろう。
しかし今日は本当に体調がヤバいのか、うん、と頷くと素直に保健室へと行こうとした。
ただ足元がおぼつかない。
途中で倒れないか心配になり、結局肩を支えて保健室へと送った。
咲を送ってきた後すぐに教室に戻ってきた。
担任の先生も戻ってきているかな、と思ったがまだ戻ってきておらず、クラスは騒然としていた。
私は内心物凄く混乱していた。
ーー陽月は事故に、咲は体調崩すし…今年の文化祭は中止。悪いことが重なった感じがするーー
正直、怖かった。
何でこんな混乱状態になるのか、見当もつかない。
ただただ怖くて震えるしかできない自分が悔しかった。
そして願った。
ーー陽月、どうか無事でいてーー
咲の事も願わなかったわけではない。
だけど事情が違うのだ。
陽月は階段から落ちて…。
だから、もう一つ。
神様がいると信じていないけど。
ーーどうかまた皆元気に学校に通える日が来ますようにーー
それからしばらくして担任の先生は戻ってきた。
《紅葉目線》
唐突だった。
翔と階段を上って上の階に行こうとした、その時だった。
階段の踊り場に、一人の女子生徒が落ちてきたのだ。
何かに絶望したようなそんな表情をしながら。
そしてそれはよく知る人物だったのだ。
ーーひ、陽月ちゃーー
そして彼女は頭から血を流しながら気を失ったようで、すっと目を閉じた。
その瞬間自分の声とは思えないような叫び声が飛び出した。
同時に隣にいた翔も叫んだ。
先程少しだけど会話していた人物が階段から落ちてきて、血を流して倒れたのだ。
恐怖だろう。
ただただ叫んで混乱する他なかった。
それから周りにいた野次馬たちが興味津々で見に来ていた。
しかしそれは次第に減っていき、私たちはとりあえずと言わんばかりに職員室近くの使用していない教室に連れてこられた。
どうやら放送がされたおかげで生徒たちは教室に戻ったらしい。
その他の一般の方々は一部を除いてお帰り頂いたと、先生は言っていた。
私は何も言えず、翔の腕にしがみついて震えていたと思う。
そこら辺の記憶は曖昧だ。
「大丈夫ですよ、きっと黒川さんは無事ですから」
陽月ちゃんの担任だろうか、学校を離れるわけにはいかなかったのだろう。
私と翔が落ち着いて教室に戻れるようになるまでしばらくついていてくれた。
ーー陽月ちゃん、本当に大丈夫なんだろうか…ーー
落ち着きを取り戻し、翔と共に教室に戻る。
皆から憐みの目で見られながら席に着くと考えた。
もちろん陽月ちゃんの事だ。
あんな落ち方して、頭から血を流すほどだったのだ。
無事に済むとは思えない。
それこそ奇跡が起きない限りは。
「ーーさて、皆さんはもうご存知でしょうが、今回文化祭が中止になった理由は他言しないように気を付けてください」
先生は守秘義務があるのだと言う感じで、そう言った。
冷たく感じるかもしれないが先生たちも気が気ではないのだろう。
なんせ陽月ちゃんを突き落としたと言う人が居たのだから。
しかもその人の捜索中とあらば仕方がないとも思う。
ーーただ、やっぱり陽月ちゃんが心配だし…後で担任の先生か陽月ちゃんと頃の先生にでも陽月ちゃんの搬送された病院教えてもらおうーー
そう心に決めているうちにSHRは終了した。
文化祭二日目は事故により中止という結果となり、後に学校中でのみならず、世間で話題となったのである。
女子生徒を突き落としたと言う犯人は結局見付からずに終わった。
いや、隠蔽されたのかもしれない。
見ていた生徒は多数いたのだ、見つからないはずない。
もしくは生徒たちが隠したのか。
前者の方が確率は高いだろう。
教師としての問題があるのだ、わからなくもないが…。
果たしてそれは良い判断だったと言えるのだろうか。
そして物語は終盤へと突入する…ーーー。
ここからはシリアスさんが多く出てきます。




