炎陽 十一
文化祭二日目、一般公開日。
今日は九時頃から出し物スタートである。
それに合わせて来てくれる他校の生徒や近所の方々のために準備は怠らない。
私のクラスも例外ではなく、珍しく朝からクラスメートが張り切って最終確認を行っていた。
念入りにしていたのだから大きな問題は起こることはないだろう。
私も特にすることはなく、今日の事についてぼんやりと考えながら暇を持て余していた。
「おはよう黒川」
突然声をかけられたが、声の主が分かったのでゆっくりと振り返って返す。
「おはよう川村」
そこにはいつも通り若干眠そうな川村が居た。
まあ今日は川村もそこまで仕事がないので、暇なのだろう。
欠伸をしながらも話しかけてくる。
「今日はあいつらが来る日だぞ、気を緩め過ぎないようにな?」
昨日も似たような忠告を受けたなーと思いながら返事をする。
「もちろんだよ」
ただし保証はできないけど、と呟く。
未来がどうなるかなんて想像できないし。
そんな意味も込めてそう言えば、
「はぁ~~~~~あ」
川村は長い長~いため息を吐いた。
そのまま呆れ口調で一言。
「とにかく気をつけろよ」
その言葉を最後に教室を出て行った。
友達のとこでも行くのかな~と思い見送りながらまたぼんやりと天井を見つめる。
要は会わなければいい話だ。
当日になるまで考えたが、会う事がなければ問題は起きない。
今日はそれをモットーに過ごそうと思う。
それから数十分。
笑麻がやってきた、が。
私が声をかけようと動いた時にはすでに教室を出て行ってしまった。
真翔師匠の下にでも行っているのだろう。
微笑ましい事で。
そして直後にキャアキャアと盛り上がる声が聴こえた。
「けいちゃんってそんな癖あるんだ!知らなかったー!!!」
「他にもね~…」
普通に会話が聴こえてくる。
朝って案外会話響くんだね…。
今後気を付けようっと。
それから数分が経ち…。
遅刻ギリギリの時間になって咲が教室に入ってきた。
顔色が昨日より酷くなっている気がする。
「おはよう咲」
無意識に、反射的に咲に声をかけていた。
心から心配だったのだろうと思う。
咲は私の方を向くと笑顔で返してくれた。
「おはよう陽月」
目の下の隈が目立つ顔だ。
「顔色悪いよ?目の下の隈も酷いし大丈夫?」
過保護ではない。
本当に、病気ではないのかと思う程に弱っているのが分かったから聞いたのだ。
無理はしないでほしい。
「うーんやっぱりヤバいかな。でも今は体調も悪いわけじゃないから大丈夫だよ」
半ば強がりのように聞こえる返事に困惑する。
いつ倒れてもおかしくない程の見た目なのに口調はいつも通りだし、けど微妙に強がっても見えるのだ。
どう判断していいのかわからず、目線を泳がせているとチャイムが鳴り響く。
「じゃあまた後で話そうね!」
咲はそう言って自席に着いた。
私も仕方なく自分の席に戻り、座った。
他クラスに遊びに言っていた笑麻はパタパタと走ってきて、チャイムが鳴り終える寸前で席に着いた。
その後すぐに振り返ってきたので苦笑する。
笑麻は汗で張り付いている前髪を払って髪をささっと整えた。
流石笑麻だ!!
女子力高い!!
あんな短時間で髪を直せるの羨ましいなと思いながら眺める。
さて、今日が始まる。
朝のSHRを終えると今日のアイス屋の担当の人が慌ただしく動き始める。
彩は休みだそうだ。
少し残念だが、仕方がないだろう。
お大事に、と彩にラインを送って置こうと思う。
私はオフなので邪魔にならないように教室の隅へ避難してきた。
しかーし!!
そこには先客がいた。
「あ、おはよう恭夜くん」
私は咄嗟にそう挨拶をした。
恭夜くんはやや俯きがちになりながらも返してくれた。
「おはよう…ございます」
何でまた敬語!?!!?!?!
私はポカーンとしてしまった。
恭夜くんは私の考えてることを察して答えてくれる。
「今日シフト入ってるから、練習で敬語なだけ…ごめん」
ぅわお。
何という事でしょう!!!!!
天使がこんな朝っぱらから降臨なされた!!!
美しい!!
否、可愛い!!!
ああ愛しい天使の恭夜くん。
ボイスが輝いて聴こえるよ!!!!
今日も、いや、今日はいつもより可愛く見えるね!!!
これも天使の御力か!!
こんな感じで内心パニックを起こしながらもポーカーフェイスの私。
我ながら本気で有難いと思っています(笑)
「そう言う理由か!!謝んなくていいよ(笑)」
とにかく恭夜くんを落ち着かせようと思ってそう言った。
…違うスイッチを押してしまったらしい。
「…優しいな、黒川」
あの無口無言の恭夜くんが。
あの天使のごとき美しさが輝く恭夜くんが。
恭夜くんが…私を褒めた。
いつも通りの神ボイスで!!!
ああああああああああ神よおおおおおおおお!!
ありがとおおおおおおお!!!
恭夜くんとの出会いに感謝を!!!!
そして恭夜くんに全力スマイルで返事する。
「ありがとう」
恭夜くんは顔をそらした。
あれ?
何か気に障ったのだろうか…。
ちょっと心配になりながらも表情は笑顔をキープした。
そしてわかった。
「恭夜くん…もしかして照れてる?」
そう、気付いてしまったのだ。
顔を赤らめていることに!!!
なんて可愛い…じゃなくて、いや、あうう可愛いわやっぱ。
恭夜くんは言い当てられてさらに真っ赤になりまして。
「ち、違う!!」
信じられないものでも見たような目で、真っ赤になりながら教室を出て行った。
あ、やらかしたかもしれない。
ーー悪いことしたな…ーー
あの真っ赤な顔で廊下でたら目立つだろうに。
ちょっと心配になって廊下に様子を見に行ったら…。
「暁、落ち着け(笑)」
川村の声。
どうやら問題はなかったらしい。
ほっと息を吐いてその場を離れた。
恭夜くんが照れたのは私のせいだしね、さらに酷くなったらまずいし(笑)
もっと見たいし照れてる時の神ボイスはマジで最高だけど。
ーー自分の欲望は制御しないと!!ーー
自制して教室の先程の位置へと戻った。
一般の方々が来れる時間まであと15分。
長いようで短いその時間は、とりあえずどこに行こうか悩む時間に費やした。




