烈日 六
過去回想シーンが大半を占めています
水谷瀬奈。
中学時代よく一緒にいた女の子。
あの頃の記憶が彼女を目にした瞬間まざまざと蘇ってくる。
もう一人、佐藤七海とよく授業中にコソコソ話したり休日にはカラオケ店へ行ったりした覚えがある。
ただしそれは良い方の記憶。
この記憶は中学二年の中旬頃、音を立てて崩れ去っていった。
それはある平凡な平日の放課後の話。
LAINではクラス内で仲いい者同士のグループを作ったり、クラスほとんどが加入するグループを作ったりなどが流行った。
私も、もちろんそこに入っていた。
その日はクラス内でのLAINはとにかく静かだった。
私は瀬奈と七海とのグループで話していたが、二人もいつもと違ってどこか冷たかった気がする。
しばらく三人でお喋りしていたのだが、瀬奈が突然突拍子もないことを言い出した。
『泉と藤沢と早瀬も一緒のグループ作らない?三人でお喋りもそろそろ話題尽きてきたし』
つまらないからと言わんばかりの口調でそう言った瀬奈。
七海は瀬奈の言い分に大体反対するものの今日は珍しく賛成した。
何だかちょっと複雑だったが、断る理由もないので了承した。
そしてすぐに出来上がった新しいグループに先程話していた三人を加えて参加を待つことに。
…待つこと数分。
全員が参加。
男子三人が増えたことで6人のグループが出来上がった。
最近LAINが流行っているとは言え、早いものだなと驚いていると瀬奈が一言。
『遅かったね、ゲームでもしてたの?』
★MA☆JI☆KA★
たった数分で遅いだって?
流石にそれはない、と思ったのか、他男子二人は若干引き気味に答えている。
まず藤沢。
『さっきまで勉強してたんだから仕方ないでしょ』
流石秀才。
ただ瀬奈は不満気に返事。
『だったら入んなきゃいいじゃん』
まあいつも通りっちゃいつも通りかな。
次は早瀬。
『水谷の言う通りゲームしてた』
素直なのか不器用なのか。
不愛想ともいうのかな。
まあ悪気はないんだろうけど、どこか冷たい物言いに瀬奈は苦笑。
『相変わらず冷たいね』
瀬奈さん、昨日もそれ言ってなかった?
そして最後は泉。
この時は私も別にどうこう言ってたわけではない。
泉もちょっとズレてるけど良い奴だと認識してた。
瀬奈の強気な発言に物怖じしない凄い奴だとも。
『いやーミサにゃんの画像集めてたんだよ!キリッ!』
説明しよう。
泉の言うミサにゃんとは、当時彼がハマっていたと言うアニメキャラの事である。
そして彼は重度のオタクであった。
瀬奈が笑い転げている事だろう。
『ミサにゃんって(笑)』
そんなことだけでエンドレスで泉を弄る瀬奈。
流石に可哀そうなので止めに入る。
自分は真面目過ぎた。
今はそう思う程に幼かった。
『流石に言い過ぎじゃない?瀬奈』
そう言った途端グループ内で何かが決壊した。
ちょっとだけ背筋に嫌な汗が流れる。
きっと皆幼過ぎた。
そう思いたい。
しばらく間があってから瀬奈がまたLAINを送ってくる。
『あ、そう言えばさあ、ちょっとした噂、聞いたんだけどお』
わざとらしくそう言いながらも本題に入ろうとせずにスタンプを送り続ける彼女。
それに便乗し、恐らくは内容を知っているであろう七海も同じようなことをする。
何が言いたいのか、変に胸騒ぎがしてならない。
それから数分後、ようやく瀬奈は言った。
『陽月ってぶりっ子なんでしょ?(笑)』
七海も言った。
『男子好きなんでしょ~?(笑)』
はっきり言って、デマ情報だった。
けどそれを本気で信じた他男子二人、泉と早瀬がさらに色々と言ってくる。
『マジかー!こいつそんな奴だったんだなあ初耳!!』
泉が面白がって言った。
早瀬はさもつまらなそうに、しかし素直な感想を言う。
『幻滅した』
私の入る隙がない会話が永遠と続く。
やっとのことで一言。
『誰?デマ情報流したやつ』
敢えての強気。
もう少し言い方をどうにかしてればあんなことには…いや、仕方がない。
過ぎた話だ。
瀬奈がふざけながらも答える。
『隣のクラスのー愛?がそんなこと言ってたよー』
説明しよう。
愛、とは中学一年の時に仲良くしていた筈のクラスメートである。
そして『ぶりっ子』『男子好き』と言うのは全くのデマ。
寧ろ逆で男子が苦手だった私である。
全くよくもまあこんなデマ情報を流してくれたもんだ。
そう思っていると、泉が言う。
『あの出っ歯は案外友達とか売るタイプだからなあ(笑)』
楽しそうにそう言っては彼女の悪口を言う。
私はまたやらかした。
『そんな酷い人じゃないでしょ』
ついつい口を出してしまうのは当時の自分が純粋過ぎたせいだと思う。
泉が即座に言い返してくる。
『いや、あいつはそう言う奴だよ!つか黒川、男好きのぶりっ子がなめた口きくんじゃねーよ』
最初はただそう言って私の怒りを誘い、言い負かして無様な姿を見たかっただけだったのかもしれない。
私はその誘いに乗らなかった。
ただそれだけの話…だったらよかったのに。
『男好きのぶりっ子じゃないし。男子は苦手の部類だよ。全く、デマだってさっき言ったばっかじゃん』
そう言ったらグループは崩壊を始めた。
いや、或いは新たなグループの再結成が始まったのかもしれない。
『デマ情報でも学年全体に広まったら面白そうだねえ』
瀬奈がそんなことを言った。
マジであり得ない。
そんなことしたら私は一気に友達がいなくなるだろう。
それくらい信用のない学校だったから。
けど当時の私はたぶん甘く見ていた。
だから絶対あり得ないなどと言う一番頼れない言葉を使った。
『できないでしょそんなこと。やれるもんならやってみな』
それを聞いた泉は怒った。
そして言った。
『俺が本気になったらお前なんか簡単に潰せるんだからな?』
それ以降彼とは全く話そうとしなかった。
一つの喧嘩とも言えるその状態では、何と声をかけていいのかわからなかったのも事実である。
それから数日。
以前までお喋りしていた三人のグループでは会話が無くなり、6人のグループも次第に話すことが無くなってLAINが静かになった。
しかし突然LAINが来たのだ。
その日は雨が降っていた。
LAINに気付いて見てみれば、思わずスマホを落としそうになるほど驚いた。
『黒川氏ねー』
敢えて漢字を変えてそう言うLAINを送り続けてくる泉。
そこに反応したのは瀬奈。
『やめなよー陽月がかわいそーだよー(笑)』
明らかに冗談で言っているのがわかる言い方だった。
私は何も言わずにただ既読を付けるだけ。
何か言ってもどうせ言い返されるだけだと思って。
それでも会話はヒートアップしていく。
『黒川はバカで男好きのぶりっ子だからこの会話見てもわかりまちぇんよねえ』
バカにしたような言い方にカチンとなるが、抑える。
バカなのはどっちだ、と言いたくなるが我慢する。
そこで今までずっと黙っていた藤沢が会話に入ってきた。
『黒川はそんな奴じゃないよ』
たった一言。
そう言ってくれた藤沢は反射的に味方だと思った。
とは言え仲がいいと言えば微妙な距離の人間だ。
男子なのに小さくて眼鏡で、かと思えば秀才で。
先生は高校生並みの頭だなとか絶賛してたやつ。
まあ今回も多分優等生と言う立場から言ったのだろうと思っていた。
しかし違った。
『黒川はあんなこと言ってる奴ら相手にしちゃだめだよ』
そんなLAINが送られてきたのだ。
素直に嬉しかった、ような気がする。
ただその言葉は少し遅かった。
次の日から地獄のような日々が始まった。
男子数人からわざと聞こえるように教室内で悪口を言われ、女子には無視される。
そんな日々。
唯一話してくれると言ったら瀬奈と七海だけ。
だからだろうか。
その頃からあるアプリを使ってネット上のみでの友人を作った。
今はもう消されてしまったアプリだけど。
そう言う日々が始まってから2,3日経ったくらいの頃。
瀬奈や七海にどうしようかと相談した時。
『いじめかな、やっぱり』
そう聞いてみれば二人はそうだよ、と言ってくれた。
けどそのLAINのやり取りのすぐ後に、藤沢からLAINが来ていた。
『黒川、水谷達に相談した?泉たちのやってること』
いきなりそう言われて酷く動揺したんだっけ。
とにかく藤沢に言ってない事なのに何故か知ってる。
大体予想はしていたが。
『タイムラインに全部載せられてるよ。しかも加工されて』
そう言って送ってきたのは泉のタイムラインとその他のあったこともない人たちからの非難の声。
それは先ほど瀬奈と七海と話していたトーク画面をスクショしたもので、更に自分らは何も言ってないよと言わんばかりの加工をされていた。
それを見た瞬間絶句した。
ーー裏切られた……………ーー
考えられることはそれだけだった。
その証拠にスクショされたのは全て先程会話していたもの。
しかもずっと前の、好きな人の話や家族の事までも。
今見たら空笑いしそうなほどの個人情報の流失。
中学生がここまでやるのか、と思う。
結局藤沢には教えてくれてありがと、としか言えなかった。
そのタイムラインが載せられてからまた数日。
私のLAINが勝手に追加され始めた。
男子、女子関係なく知らない人に。
一時的に不登校になったのは言うまでもない。
そうしてきた人物等は自分は悪くないと言わんばかりに加工したスクショ画像を送って来たりした。
正直ウンザリしていた。
その頃にはもう誰も信用できなかった。
ネットの友達と不登校になったと言うと、まるで自分の事のように怒ってくれていた。
わざわざ学校まで休んでくれたりね。
優しいなって、ネット上でのやり取りなのに。
身近な人は信用できないくせに、ね。
そんなころ学校の先生に呼び出され、皆が帰ったくらいの時刻に学校へ行った。
何故か皆に知れ渡っていたけど。
それで先生にいろいろ聞かれ、トーク履歴を消してしまっていたので何もないことを伝えると。
『では明日また会いましょう』
と言われて帰された。
何だか納得がいかなかったな。
翌日学校に行けば皆は異物でも見るかのような目で見てきた。
その頃から学校に行くと頭痛に襲われるようになった気がする。
まあその事は置いておこう。
で、放課後に残されたと思ったら先生が衝撃的な一言を言った。
『黒川さん、泉君と水谷さんと佐藤さんに謝って』
は?
自分の耳を疑ったね。
だって散々酷いことしてきた奴らに被害者の私が謝れって言われたんだから。
それから数秒。
状況が飲み込めずに無言でいると、一番怖いと恐れられている先生に怒鳴られた。
『黒川が脅してきたからとか、黒川が悪口を言ったんだとか、水谷や泉が言ってるんだ。泣きながら証拠も見せてくれたんだぞ!!』
そう言って見せてきたのは泉のスマホの画像。
私が何度か瀬奈とやり取りした時に送りあっていた時の、非難するコメントが綺麗に画像にコピーされていた。
まるで私が本当に言ったかのように作られている。
文字の所だけを完全に変えられていた。
そして私は証拠を消してしまっていた。
つまりこれは。
ーー嵌められたーー
その時の私はもう絶望するしかなかった。
クラスメートは愚か、両親さえも私を疑い、罵ってきた。
結局あの後私は三人に謝り先生に怒鳴られ、母親に泣かれ、父親に叩かれた。
今はもう両親との仲は絶妙な距離感を保っているけれど。
何とも言えない複雑な感情だけが残った。
そんなことがあったのに。
構わずいつもの強きの笑顔で声をかけてきた水谷瀬奈。
一体何の用だと言うんだ。
用があってもこちらは話したくもない相手だけどね。
「陽月!無視しないでよ~」
キャピキャピしながら話しかけて来ては強引に連れて行こうとする瀬奈。
私は瀬奈の手を振り払って、無視をした。
ーーこういう人間に関わるとろくなことがないからねーー
そんなこんなで十分が経った。
流石に私が本を棚に戻すころにはいなくなっていた。
ーーよし、変なのに絡まれないうちに帰ろうーー
そう思って足早に本屋を出た瞬間。
「やっと出てきたかあ。やっぱり藤沢の影響?本好きなんだねえ」
瀬奈と、見知らぬ男性が三人。
待ち伏せされていたらしい。
すぐに逃げようとしたら腕を掴まれ口を押さられ引きずられていく。
ーーくっそ!!計四人に先手を取られてたら逃げらんないじゃん!!ーー
言葉が悪くなったがそんなことに気を配れる余裕はない。
瀬奈は精神疾患だったから、何されるかわからない。
よく自分ではキチガイだとか言ってたくらいだから、情けないけど怖い。
「ごめんねえ実はさあ今度陽月の学校の文化祭行くんだ!泉とかと一緒にね!!だから学校の確認させてね」
そう言って私のカバンを漁る瀬奈。
今日はカラオケ店に行った後だから学生証を持っていた。
ーー見られたらまずい!!ーー
そう思って反射的に口を抑えている男性の手を噛んだ。
「いってぇ!!!」
そう言って手が離れるその一瞬を見逃さずに声を上げた。
「誰か助け……ガはッ」
声を張り上げた途端に腹部を蹴られ、気絶しかけた。
その後一発殴ろうとした男性を瀬奈が止めた。
「殴るよりさ、もっといい方法で傷つけないと面白くないよ」
そう言った瀬奈の手に握られていたのは。
「…カッ、ター………」
恐怖が蘇る。
あのいじめはエスカレートして、途中から瀬奈がカッターを使って身体のあちこちに傷をつけられた。
手や肩を切られたりもした。
その瞬間私は恐怖のあまり叫んだ。
「いやあああああああああ」
殴られるかもと思う前に勝手に口が動いていた。
目をつぶっていて見えなかったけど、瀬奈の笑い声が聞こえた気がする。
そして今にも切られる、と思った瞬間。
「いって!!何だこのガキ…うわっ」
私を掴んでいた男性が離れ、逃げ出す声が聴こえた。
「ちっ、じゃあお楽しみは文化祭でねー」
そう言って瀬奈の声が遠ざかっていく。
誰かが傍によって来る足音が聞こえたので、怖くてつむっていた眼を恐る恐る開けばそこには。
「…恭夜、くん……?」
少し顔を強張らせたその人が居た。
さて、展開が自分でもよくわかんなくなってきました(;^ω^)




