烈日
生徒会初仕事は見直しが決定し、ようやく、ようやく平和でゆったりとした生活が送れる。
そう思った矢先にやってきたは二学期中間考査である。
おかげで毎日憂鬱ながらもしっかり勉強の日々が始まった。
「おはよう川村」
生活改善を無理やりして尚且つしっかり勉強漬けの日々が始まって以来、いつにもまして朝の勉強がハードになった。
その原因であり頼みの綱である川村は今日も平常運転である。
「おはよう、今日もテンション低いね。健康的になってきてるのに」
皮肉か?皮肉なのか?
そう聞きたくなるのが毎日の日課に加わった。
ーーだって毎回ニコニコしながらそう言うんだもんーー
イラッとも来るでしょ。
それを本人に言えるほど時間の余裕はないのだが。
朝のいつものやり取りをしてすぐに川村の授業がスタートする。
十五分程度の時もあれば、もっと早く学校に来て三十分やる時もある。
今日は後者の三十分間の授業日だった。
ーーだんだん解けるようになってくると面白いんだけどねえ、最初がやっぱやる気が出ないわあーー
そんなことを考えながら川村の出す問題に自分のペースで答えていく。
自分一人で勉強しなくてもいいのかと聞いたところ…。
『部活でやってるし大体は授業中に覚えてるから』
はい、神ですね。
流石クラス一位、勉強するのにも効率よくやっている、と。
思い出したら何だか悔しくなってきた。
ーーくそぅ、次のテストで追いついてやる!!ーー
初めて自分一人で勉強しようと思った瞬間だった。
その日の放課後、また勉強会するメンバーで集まって話し合った。
なんでLAINを使わないのかって?
だってそのアプリ使ってない人がいるし、教えたくないって人もいるから。
そう言って前回の話し合いの時ほとんどが遠慮してたんだよね。
逆に交換しようって積極的に言ってくる奴もいたけど(主に伊理塚)。
私は普段よく話す人以外とのLAIN高官は遠慮した。
そういう訳でカラオケ店には笑麻の案内で、皆で行くことになったわけである。
「じゃあ当日だけど、駅に9時半集合でオッケー?」
私がそう言うと笑麻が申し訳なさそうに言った。
「ごめん!開店時間間違ってて、10時からだったんだよね…。なので10時駅前待ち合わせでどう?」
皆それに異論はないみたいで、頷いていた。
「じゃ、今度の土曜日10時集合で決定だね」
そうしてあっという間に話し合いは終わり、各自帰っていった。
私もすぐ帰ろうと支度をしていると、笑麻に声をかけられた。
「途中まで一緒に帰ろ~!」
いつも通りのお誘いにもちろんオッケーをする。
「うん、帰ろ~」
そうして現在三人で帰宅中。
笑麻、私、何故か明枝。
「「なんで明枝もいるの!!?」」
思わずそう大声を出せば、きょとんとして明枝が答える。
「同じ方向だったし…何となく?」
何となくで女子と一緒に帰ろうとする辺り、結構な天然だ、と自分の中で固まった。
方程式、明枝=天然。
いや、現実逃避はいかんな。
我に返って仕方なしに明枝に聞いてみる。
「咲について話したいことがあったりとかするの?」
明枝がド天然でないなら、何か意図があってついてきたのだろうと思い聞いてみたところ、図星だったようだ。
自分自身のストライク率にちょっとだけ吃驚したことは内緒である。
明枝くんは私の質問を聞いた途端、ボンっと真っ赤に染まってあたふたしていた。
「ち、違う!そんなこと、なななないよ…うう」
恥ずかしさのあまりしゃがみこんでしまった明枝。
笑麻が驚きのあまり明枝の急所を突いてしまったのは計算外。
「え…ええええ!?明枝って咲の事好きだったの!?」
はい、笑麻さんアウトーーーーーー!!!
明枝がボロボロになっているところでとどめを刺してしまった。
明枝が遂に泣き出してしまったのだ。
そして自白(自爆)した。
「そうだよおおおれは藤野が好きなんだよおおお」
それをみた笑麻は現在の状況がヤバいことに気付いていないのか、めっちゃ嬉しそうにキャッキャウフフと騒いでいる。
ーー…笑麻って、こんな鈍感だったっけ…?ーー
その瞬間そんなことを考えた。
泣いてるごつーい男子明枝と、嬉しそうな笑麻、現実逃避中の私。
これほどカオスな状況は久々に見た、と言って後から帰宅してきた彩に助けていただきました。
現在近くのカフェに来ている私、笑麻、まだシクシクと泣いている明枝に加え、さっき助けてくれた彩の四人。
「で、一体何があったの(笑)」
ちょっと笑いながらそう言ったので、私は明枝の方を向いた。
「話しても大丈夫?」
メンタル的な問題で心配だったのでそう聞いたが、どうやら話してはいいみたいで、泣きながらも頷いてくれた。
なので笑麻と彩に明枝が咲を好きだという事を話した。
笑麻はまた少しテンションが上がったらしく『男子の恋バナかあ』と嬉しそうに言っている。
彩はと言うと、これまでにない程真剣な表情をしていた。
それから呟いた。
「咲がアニオタから脱退する奇跡が起こるかも」
それを聞いた瞬間私と笑麻が盛大に否定した。
「ありえないでしょ!!」
「咲がそんなことになったら世界が凍る!!」
笑麻は流石にスケールが大きすぎる例えだが、真夏に雪くらいは降るだろうと言ったら、それでも十分可笑しいと笑われた。
何故だ…。
そして彩が長い長~いため息をついた。
「まあ確かにさっき言ったことは例えにしちゃヤバすぎたけど、もしかしたら隠れ男性恐怖症も治るかもしれないじゃん?」
そう言えばずっと前、咲自身が自らを男性恐怖症なのだと言っていた事を思い出した。
ーー確かに咲の隠れ男性恐怖症は厄介だったし、もしかすると治るかもしれないからねーー
咲自身がどう思うのかは、今は置いておこう。
明枝が咲の事を好いていることは確かなわけだし。
咲は人として最悪なことをしてくる男性がダメなだけだからね。
そう考えて私は納得する。
咲の為であり、明枝の為。
出来る手伝いならしよう。
「要は明枝の恋の応援をしてあわよくば咲の男性恐怖症を治そうって事でしょ?」
考えた末に私は彩にそう聞いた。
彩は満足そうに頷くと笑う。
「そんな上手くいくとは思わないけどね、何もしないでいるのは可能性ももっと低くなるわけだし」
咲が男性恐怖症になった理由を知っている彩はそう言った。
少しだけ私も複雑な気持ちになる。
笑麻も先程までテンションが高かったのにいつの間にか悲しそうな表情をしていた。
私も笑麻も彩も咲が男性恐怖症になった理由を知っているから、治る可能性が少しでもあるなら、と考えずにはいられないのだ。
それを知らない明枝もいつの間にか泣き止んでおり、深刻な表情を浮かべていた。
「明「俺無神経だった」
唐突にそう切り出した明枝。
私の言葉が遮られるのは恒例行事になってしまった事を突っ込むような空気ではなかったので、黙ってこの状況を見守る。
「俺、藤野が男性恐怖症とは知らなかった。それでも好きだからこれからはもっとよく考えて行動するよ」
なので、と続けてから今度は私たちに向かって頭を下げた。
「協力してほしい」
明枝がいつになく真剣にそう言った。
そう言われずとも、協力しますとも。
「咲の為でもあるからね、もちろん!」
私がそう言えば二人も頷いて了承する。
明枝は嬉しそうに顔を上げると笑った。
「何だか頼もしいや!」
で、すごく気になっていたから今更ながらにツッコミを入れた。
「そのウサギさんスリッパ、靴代わりにしてるの?」
明枝は驚いて自分の履いている靴を確認すると、苦笑した。
「朝靴に履き替えるの忘れてたみたい」
三人から『ド天然!!!』と突っ込まれたのは言うまでもないだろう。




