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放課後の絵描きさん  作者: 夢迷四季
17/49

赤日 八

長くなったのにまだ体育祭が終わりません。


 まずは他学年の種目があり、三つ目くらいが私たち女子の綱引きだった。

その頃にはもう咲のテンションが異常でした。

私にはどうすることもできないくらい。


「…あのさ、なんでこの人は涙目になって震えているの?」


私は彩に聞いた。

そう、何故か綱引きが始まる前の待ち時間になって今にも泣きそうなほどにぷるぷる震える咲さんがいたのです。

理解不能情緒不安定?いったい何があったのだろうか。

彩の返答。


「次に流れるであろう曲が先の大好きなアニメのオープニングテーマソングだから」


あ、察し…。

つまり嬉し過ぎて好きすぎて涙が出そうになっていると。

好きですなあ、アニメ。


「けどそれって練習中だったんでしょ?本番でも流れるわけ「しっ、曲流れるから静かに!!」


盛大に咲に遮られました。


ーー私ってそういう体質なのかな。ーー


笑麻にも遮られるんだけど…気のせい?偶然?偶々ですかね?まあいいか。

そしてしばらくして入場が始まった、がしかし咲は固まっている。


「…?咲?」


声をかけても反応がないので肩をトントンと叩いたら、何だか機械的な動きで入場し始めました…え。


「今度はどうしたの」


「期待してた曲が流れなかったから」


今度は一瞬地蔵に見えそうなくらい無表情の笑麻が淡々と答えてくれた。

マジですか、と言うか二人ともテンション下がるの早すぎじゃあありませんか?

体育祭はまだまだこれからだというのに。


ーー全く…咲はショック過ぎてロボットになってるし、笑麻は地蔵みたいに動かないし真顔だし…この二人どうしたらいいの!?ーー


私は半諦めモードでした。

そこへ現れたヒーローは言った。


「大丈夫!違う種目の時咲ちゃんたちの好きな曲流れるって放送担当の生徒さんが言ってたから!」


学年もクラスも名前すら知らない女子がそう言っていた。

待って待って待って誰ですかこの人。

っていうかなぜ咲たちを知っているのだろう、好みまで。

そんな心情が伝わったのだろう、彩が教えてくれた。


「昨日酷いことになったでしょ?印象深過ぎてその時に見ていた人たちのほとんどが忘れられないとか何とか、噂になっちゃったんだよね。で、一夜にして学校の有名人になりあがったわけです。特に咲が」


あー察し(本日二度目)…。

『特に咲が』と言う時点で大体咲しか名前では広がっていないみたいだけど…。


ーー個人情報一体どうなっているんだろう、案外甘いっすねこの学校ーー


冷静過ぎたかな、普通に思ったんだけど。

今回は正直微妙なところだけど、本人は噂広まっていたなんて知っていてもあっけらかんとしてそうだね。


ーー言うべきかなあーー


正直悩み事である。

当の本人カオスすぎて近づく命知らずはいないと思うけど、個人情報が微妙に流失しちゃっている以上警戒はしておこうと思う。

なんだかんだで咲は過去に色々あるからね。

それなのに甘い考えのところあるからね、心配なんだよ。


ーー私だったら、痴漢とかするような奴ぶん殴って警察行きか精神的に追い詰めてから警察行きにさせるけど…てへ☆ーー


まあ咲や他の友達にそんなことする奴は即刻潰すから(笑)


っとまあ冗談(?)は置いといて。

とりあえず今後公衆の面前での暴走はやらかすことのないように後でしっかりと説教しておこうか。



そんなこんなで綱引き、終了。

咲たちはさっきの子のおかげでだいぶ普段のテンションに戻っていたけど、なんだがやるきがでないようだった。

まあ楽しみだったものが一つ潰れたのだから仕方がないよね。

そこは暴走させない程度にテンションが戻るよう配慮しないとね。

ここはひとつ、明枝のジャージを拝見してもらおう。

…期待はしないけど。


「二人とも、あれ見て」


明枝には許可取ってないけど、これくらい大丈夫だよね?って思っていたら私がやらかしました。


「もしやあれはテルさんのアップリケ!?」


真っ先に咲が食いついた、と思ったら聞き捨てならない言葉が聞こえた気がした。

……ん?

そして笑麻も明らかにテンションが上がったようで声のトーンが上がった。


「あ、あれってリツくん!?」


あちゃー明枝作戦はカオス起こしかねないんだった。

すっかり忘れてたよ、どうしよう。

そう思っていたのだが、幸いにも二人とも思っていたよりはテンションがまだ低かったようで、走り寄って騒いだりカオスな状況を作ったりはしなかった。

心底ホッとしたのは言うまでもないだろう。


それから男子達の綱引きもある程度は盛り上がり体育祭は着々と進んで行った。

午前中は綱引きだけで終わったが、午後は忙しくなるぞ~!とはしゃぐ人たちが多くて、何だかほほえましくなったのは秘密である。


ーーだって一人だけ楽しんでいないのってバレたら面倒じゃない?ーー


そう思っていたら明らかに楽しんでいない人がいた。

…もちろん恭夜くんではない、というか彼は体育委員だからそうだったら色々困るだろうと思う。

その明らかに楽しんでいない人と言うのはつまり…。


川村だった。

確かに足は痛めていて万全な状態ではないけど。

けれど煩くて耳が痛いと言わんばかりの険しい表情に思わず壁を感じてしまう。


ーーこれはどうにかしないと周りの人間がちょっかい出してきたとき一波乱起こっちゃいそうな表情(かお)だね。私としてもあまり気分がいいものでもないし、どうにかしようかーー


まあ私だって体育祭はヒヤヒヤものだから楽しんでいるかと言うとそうでもないけどね。

み、皆の為皆の為。

そう思いながら私は川村に声をかけてみた。




「川村くんご機嫌斜めですか?」


あえて、敬語。

大事だからもう一度言うけどあえての敬語。

私単にからかおうとすると敬語になる癖があるんだけど、今回そんなつもりは全くなかった。

それは本当なんだけど、どうやら私が地雷を踏抜きかけたらしい。


「…何?からかいに来たの?」


いかにも嫌そうにそう言う川村。

そんなつもりはなかったんだけど、どうやら勘違いされたようだね。


ーー全くあちこちで大変だな、どうしようかーー


「からかいに来るほど暇じゃない。今他の誰かにからかわれたら冷静に対処出来なさそうだったから来ただけ。敬語癖は勝手に出るものだから仕方がないの」


落ち着いた態度で一気に言い切ってしまえば反論せずに川村は黙り込んだ。

多分信じてはもらえたかな…さて、本題に移ろうと思う。


「で、一体何があってそんなにイラついてるの?」


ド直球に過ぎたかもしれないが、まあいい。

昨日から変だとは思っていたわけだし、何かあったのは間違いないと思う。

川村は少し躊躇してから渋々と言った感じで話し出した。


「真也が昨日から酷いんだよ。前から絡んできたりはしていたけど。昨日は思いっきりぶつかられるし今日は悪口言われるし…しかも何だかおびえながら行うもんだからどうすりゃいいのかわからない」


えっと…ちょっと待って。

それってかなりヤバいんじゃないか?

あのバカ代表真也がそんな回りくどいことをするはずない。

けどそんな回りくどい、完璧な嫌がらせを思いつくような生徒は知っている悪クラスメートや他クラスの中にいない。

じゃあ先輩か?とも思ったが真也と川村に共通する先輩はいなかった。


ーーどういうこと?…まさか、ありえないとは思うけど…ーー


私は一つだけ川村に質問してみる。


「真也が誰かに脅されてるとか彼自身が何かそう言う類の事話してなかった?」


本当にただの直感だけど…まさかとは思う。

ありえないと思う。

けどこれだけは確認しておかないとまずい。

川村は少し悩んでから答えた。


「言ってた。…確か『こんなことしたくはないんだけど、泉が言うから』って。そういやあいつ足に痣があったな。ちらっとしか見てないけど」


ーーそう、か…泉、かーー


それを聞いた後私はこれから来る未来が見えなくなっていくのが分かった。

物語は始まってしまったのだと。


それを聞いたからと言って今何をするわけでもない。

とりあえず川村に礼を言う。


「そう、ありがと。真也には私から言っとくからイラつきすぎて他の人に当たらないようにね!」


川村の返事は待たずにその場を去る。

後にはどうしようもない不安と焦りが残った。



さて話は体育祭に戻る。

私達女子の綱引きの後は然程盛り上がらなかった男子達の綱引き、先輩方の競技と続いた。

そしてお昼が近くなってきた頃私達女子の出る種目、その名も『お掃除リレー』が迫っていた。

順に並んで始まるのを待つ間、普通のテンションに戻った咲と笑麻がちょっとだけ期待した顔になっているのが見えたので呆れてしまう。

これは今後が怖い。

そんなことを思っていると音楽が流れ始めて、少しお疲れモードだった二人が爆発した。


「ふぁあああああああこれはああああああああ」


「ぎゃあああああああ神よおおおおおおお」


私を含め周囲の人がビクリ、と体を震わせた。

なんだなんだと周囲の人の注目を順調に集め始めた二人は暴走寸前!

真面目に勘弁してくださいよ全くうううううう!!

私は関わりたくないが二人に声をかけた。


「咲、笑麻、もうすぐ競技始まるんだから一旦落ち着こう?」


そういったところで変わりはしなさそうだけど、一応言ってみた。

どうやらまだ笑麻は正気を保てているらしく反応してくれた。


「…ハッ!そうだね、恥ずかしいし今暴走するのはやめる」


是非そうしてくれ、と言うように私は頷くと、今度は反応がない咲に視線を移す。


「ひっ」


咲は目を限界まで見開いて血走りながらも必死に発狂しないように抑えていた。

はっきり言う。


「こわ「怖い!なんでそんなことになってるの!」


突如現れた彩に遮られたよ。

何故だあああああああああああああああああ!と言う心の叫びは置いといて。

とりあえずもうすぐ競技が始まるので先をどうにかしなければいけない。


「彩、お願いがあります。咲を正気に戻してください」


ダメ元で頼んでみた。

一番冷静だし効果あるでしょ、という単純な根拠からのお願いだけど。


「うん、いいよー」


軽く返事をした彩は咲に向き直ると言う。


「今ちゃんとやっとかないとテルさんが悲しむよ」


え、待ってそれ効果あるの?

流石に効果ないだろうと思っていたら、咲はすぐに反応した。


ーーマジすかーー


こんな単純な言葉一つであの暴走咲が止まるなんて驚いたよ!

今後応用させてもらおうと思います。


「テルさんが悲しむ行動はしたくない!この種目しっかりやる!!」


うん、何だか子供みたいで可愛いな~と思ったことは本人には内緒です。

それからすぐに競技が始まり、結構盛り上がりながらも着々と競技は進められた。

お掃除リレーは案外重労働だったので体力のない私にはただの地獄だったけど…。

他の女子たちは楽しんでいたようだ。


ーー私にだって体力があれば楽しめたのにーー


まあ今更って感じだけど。

咲は感情を抑えたにも拘らず余裕で一位を取っていたと所を見るとまだまだ元気だという事がわかるね。

素晴らしい。

ちなみに笑麻は得意種目だったらしく一位。

彩は膝が弱くて走れず、私はビリ。

何とも言えない複雑な気持ちでした。


さて次は先輩たちの競技がスタートだ、と思った時、真面目にくっだらないことが起こった。

正直私はかなり引いていた。


各競技が行われる直前は必ず音楽が流れるようになっている。

その音楽ってどうやって決めているんだろうね。

なんとラブ〇イブと言うアニメのオープニングテーマソングが流れ出した!

それだけではなく、何と伊理塚がオタ芸を披露し始めたのだ!!

衝撃的過ぎて周りにいた人たちは動けなくなっていたほどである。


「ちょっ伊理塚!?ここライブ会場じゃないよ!あはは(笑)」


咲が笑いながらそう指摘するも伊理塚は完全無視。

踊ることをやめようとはしなかった。

…何だかとっても嬉しそうにオタ芸を披露するものだから周囲からは生暖かい目で見られている。

私もちょっと同情の目で見ていると、咲がとんでもないことを言い出した。


「私も一緒にやろうかな!!」


目をギラギラさせながらそういうので私は全力で反対した。


「周囲の目みてみ!?あんな風に見られたらいやじゃないの!?」


「流石に皆の前では恥ずかしいよ」


笑麻も参戦してくれる。

有難い、私だけだったら絶対説得できない。

そんなことを考えているところに彩も参戦してくれた。


「流石にあれはない」


皆からの反対意見に咲は目をぱちくりさせてから沈んだ。

もう一度言う、深く深ーく沈みました。

待て待て待て、なんで物理的に沈もうとしてるの!?

校庭に穴を開け始めた咲を全力で止めに入る私たち三人。

咲は沈み込んだ表情で言った。


「やったらもっと盛り上がるんじゃないかって思って言ったのに」


そして真顔に。

ちょっと笑いそうになりながらもその言葉に返答する。


「後々咲自身の黒歴史にならないように言ってるんだよ。だけど咲がそれでもいいっていうのならいいんじゃない?」


こう言ってるけど実際はそんな色んな意味で有名人になった咲と話せる自信がなかったからってだけ。

だってキチガイとして有名人になってしまったら恥ずかしすぎて関わりたくない。


ーー無理、絶対ーー


…どうでもいい話でした。

先に進もうと思う。




先輩たちの競技も終わりお昼になった。

外で食べると熱中症になりかねないという事もあり、一同はいつも通り教室内で食べることになった。

この時間は生徒たちの気だるげな会話やくだらない悪巧みの会話くらいで特に何もなかったのだが、咲はやっぱり暴走気味だったのでなだめるのが大変であった。


ーー一応休み時間だったんだけどーー


全く休めなかった。



午後のメインはクラス対抗の長縄跳びだった。

それ以外の種目は色別リレーと言う学年の中で競うものだったりして、自分たちの出番はないので関係なし。

その種目の間は盛り上がるが、一部は来年になったらやるかもねー等と他人事である。

もちろん私も他人事。

面倒事は一切やる気はないのである。

やるべきことはもちろんちゃんとやるけどね、応援をしながらの観戦の方が好きなのだ。


「寝るのはよくないけどね」


さっきまで暴走気味だった咲に注意されるとは心外である。



と、そんなこんなで自分たちの出番のある最後の種目…『クラス対抗長縄跳び』が始まった。


「じゃあ円陣組もう!」


いきなり学級委員がそんなこと言いだした。

まじかーとやる気ない奴らが半分、無反応人四分の一、やる気に満ち溢れている動物たちが四分の一と言ったところか。


説明しよう。

何故『動物たち』と言ったのかと言うと、先程の(怪我しているはずの)伊理塚のやらかしちゃった出来事の後から私たちのクラスのあだ名が『動物園1-4』と呼ばれるようになったのである。


ーー本当有難迷惑だよねーー


伊理塚にはつくづく呆れます。


そんなわけでいきなり円陣を組み始めるクラスメート。

笑麻や咲は凄く楽しそうなのだが、彩は私と同じで無反応人でした。


「頑張るぞーーー」


「「「おーーーーーーーー」」」


うん、もっと他になかったのかな。

然程テンションが上がらない私に対し笑麻と咲はさらに暴走に近づいたらしい。

非常に疲れるから勘弁してくれえええええええという心の叫びはきっと二人に届いて、いないだろう。

あと少し出し頑張ろう。


そしてようやく始まった長縄跳び。


「「「1、2、3、4…」」」


一発目に跳んだ数は20回。

練習ではこの倍近くは跳んでいたので微妙である。

皆も何とも言えない表情をしていた。

7分間の内に跳んだ中で最も大きい数が結果となるこの種目はスピードとクラス内での団結力が重要視されるのだが、このクラスに関しては団結力など元から無いに等しい。

思った以上に記録は伸びず、時間切れとなった。


「全然ダメじゃん(笑)」


最初に円陣組もうと言い出した学級委員が一番やる気なかったと思う。

大体引っかかっていたのは派手なグループのメンバーであったというのも陰口を聞かされていたので知っていた。


ーー結局、何がしたかったのだろうーー


後にはそんな疑問が残った。


結果は22回。

回数でも点数化されても良くも悪くもない、どちらかと言えば悪い順位だった。

まあ然程気にしないのがこのクラスのいいところであり誰が悪いと責めてクラス崩壊しないだけマシである。

咲と笑麻は残りの体力すべて使い果たしたようにゲッソリとしていたのが面白かった(笑)


全ての競技が終了すると同時に閉会式が始まった。

その頃の私は大分眠くてフラフラしていた。

多分普段の睡眠不足のせいだと思う。

整列しろーと言う先生の声が遠く感じていた。


「…あ!陽月危ない!!」


咲がそう叫んだと同時に私の視界がグラり、と揺れた。


「っ!?黒川!?」


この声は恭夜くん?

それすらも認識できないほどに朦朧としていた私は揺れる視界に酔って、そのまま意識を手放した。


またまた長くなったのでいったん切ります。

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