赤日 四
体育祭の話が全然進まない…のでしばらく体育祭のことが続きそうです。
きっと大したことじゃない、そう思いたい。
けれど現実は残酷で…始まりは終わりを告げるのだ。
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あの一件があって以来私達のクラスはしっかりと練習に励むようになった。
ただ思っていた以上に伊理塚の怪我は酷く、骨にひびが入っていたらしい。
もちろんその原因である真也が退学処分になるところだったのだが、実際真也はちょっとズレているだけで根が悪い奴ではないので今回の件に関わっていた人皆でどうにか先生を説得することに成功し、彼は伊理塚に慰謝料を払う事だけで済むことになった。
しかし────。
「真也ってあんな暴力的だったの~?正直幻滅したわ~」
「マジ退学処分にならないなんて可笑しいでしょ~」
等と言う派手なグループたちが残ってしまった。
真也の居場所の一つであった派手なグループからは追放されたようなものだ。
今でも悪ふざけは一緒にしているけれど、陰口を言う奴らも少なくない。
私の責任でもあるから正直心苦しい。
私があの場で静かに見守っていればこんなことにならずに済んだかもしれないのだから。
そんなこんなでここ最近はストレスからくる頭痛が半端ない。
片頭痛かもしれないね、と保健の先生には言われたが余裕がなかったのと、親に迷惑はかけられないと思って病院に行くことはしなかった。
今日は体育祭の予行練習日である。
今週の土曜日…明日が本番なのに大丈夫だろうかと心配になったが、行う事や種目自体はいたってシンプルなのでいらぬ心配になりそうである。
今日の予行練習の際に怪我人がでないことを願おう。
何かと荒れている面もあるこの学校では油断大敵なのだ。
さて朝のSHRが終わり、休み時間となった。
私達生徒は10分間の休み時間のうちに移動するのである。
となるともう休み時間ではないか…うーん表現が難しい。
まあとにかく先生に10分後のチャイムが鳴る前に公邸へ来るように言われたのだから移動する、ただそれだけである。
休み時間になった途端騒ぎ出す生徒たち。
ーー皆元気でいいねえーー
何だかおばあちゃんのようなことを考えながら笑麻と咲と彩に声をかけた。
「笑麻、咲、彩、移動しよ」
いつも通り声をかければ笑顔で返してくれる友人。
ーー恵まれているなあ今の自分はーー
「うん!今日は予行練習だけど、ある程度は競技とかやったりするんだよね?明日の体育祭で失敗しないようにしっかり覚えないと」
そう言ってきりっとした表情になる咲。
いつも思うけど、普段はっちゃけている割には物凄くしっかりしているよねえ。
尊敬するよ。
「明日かあ体育祭、楽しみだね!」
珍しく学校行事で楽しそうにしている笑麻。
ーーちょっと新鮮だなーー
学校行事も案外悪くないね、なんて上から目線な現在の感想を述べる。
もちろん自身の心内のみでだけど。
「明日の騎馬戦の参加する男子は上半身裸なんだって。いい筋肉ついてる人いるかな~」
今日は元気なようで学校に来た彩。
相変わらず筋肉マッチョ好きなんだね、面白い(笑)
それからすぐに移動をする。
なんせ時間が限られているのだ、すぐにでも移動をしないと昇降口での混雑に巻き込まれてしまうし。
いい加減先生達の無茶振りもどうにかしたいところである。
そうだ、生徒会に立候補して改善を試みようか。
まあその辺も後々考えるとしよう。
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《補足説明》
ここ、空里高校では複雑な上下関係がある。
①校長
②生徒会
③先生
④生徒
大まかに分けるとこのような形。
ただし②と④の区別は難しいところがあり、明確にはなっていない。
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今日は予行練習をするには丁度良いであろう天候であった。
ただ明日は雨が降るかもしれないと言われているのであまり喜べないのである。
私的には天候はどちらでも構わないよ?
ただね、笑麻や咲が楽しみにしているのに中止になったらちょっと荒れそうで怖いのである。
二人の事だから周りに迷惑をかけるような派手な奴らとは違って静かに怒るだろうけど、冷気を漂わせそう。
慰めることにならないよう祈るしかないな。
さて、校庭に出れば案の定休み時間を五分ほど過ぎていた。
ーーこれは遅れる人が出てきそうな予感ですねーー
そしてしばらく笑麻と咲と話していればチャイムが鳴ったのに生徒の半数が集まらないという事態となった。
「ぎりぎりだったけど間に合った~」
明枝がそう言って搔いた汗を拭っているのが見えた。
ーーん…?待て待て待てタオルにまで影響するのか!?ーー
なんと明枝は筋肉マッチョの絵がプリントされているタオルで汗を拭っていたのだ。
周りにいる人たちが気付いて若干引いて…いや、かなり引いてるよ!?大丈夫なのあやつ!?
そんなことを考えながら見守っているといつの間にか咲と彩が明枝の下へと走っていて、気付けば目をキラッキラさせながらタオルを凝視している。
「ちょ、彩「何これかっこいい!」
うん、彩はわかるよ筋肉好きだからね。
でもなぜ咲まで走っていったのかな?
「こ、これってテルのハンカチ!?」
あー理解。
説明しよう。
藤野咲、咲はとんでもないオタクさんなことは皆も知ってはいるだろうが。
具体的にアニメキャラの『春沢輝』通称『テル』のことを愛しているのである。
つまり明枝の持っていたハンカチがその『テル』のグッズだったという事に気が付いた咲は暴走寸前なのだ。
走り出したのも暴走していないとは言い難いのだが、彼女が暴走するととんでもないことになるのでただ走り出したことはまだマシ。
ーー正直暴走しなくてよかったよ…ーー
とにかく先生たちが指導しに行っている今でよかった。
急いで連れ戻さねばなるまい。
「笑麻、咲たち連れ戻しに行こう」
若干引き気味な笑麻に声をかけると渋々頷いてくれた。
今の笑麻の気持ちわかります物凄く。
だけど友達として見捨てるわけにいかないし先生たちに怒られる二人を見るの嫌だし、仕方ないのだ。
…べ、別にちょっと面白いであろうグッズが見たいとか、そういう訳ではない!!
断じてあり得ない!
「咲、彩、座席もど「かっこいよな!!…テルっていうの?このキャラクター」
ぅおおおい!!!!!!
明枝くんよくもまあ二人を暴走させそうな発言してくれたねぇ。
二人がぷるぷる震えていらっしゃいます。
隣で笑麻が「あーダメだなこりゃ」と呟いております。
私は諦めた。
数秒後二人は安定の暴走を披露。
何故かそれについていける明枝に参戦してきたオタク系クラスメート数名。
そんな人たちのやり取りを生暖かい目で見ている他十数名。
時折発狂する咲にずっと語り続ける彩。
カオスだわ。
ていうか先生方までニコニコして聴いてちゃダメでしょう!!
それからしばらくカオスな光景は続き、結局指導に行った先生たちと遅れた生徒たちが戻ってくるまでその状態でした。
けれど波乱の嵐はまだ遠ざかることはない。
予行練習は少し始めるのが遅れたが、予定通り行う、とのことだった。
先程のカオス状態は担任の先生がどうにか止めてくれたおかげで治まったが、油断はできない。
なんせ今でも隣で目をギラギラ輝かせながら狂気的な笑みを浮かべている咲がいるのだから。
こんな時どうすれば彼女を冷静に戻すことができるのか、正直分からない。
なんていうかアニメキャラを話題に出すと確実に暴走するし、種目の話しても続かないし、勉強なんて論外だし、というか今話しかけたら私は確実に昇天するだろうな。
この方に勝てる自身ありゃせんもの。
そんなことを考えているうちに開会式予行練習が開始された。
はい、カオスでしたね。
特に咲が大変なことになっていました。
と言うか先生、何のためにいるのかわかりませんね!!