ハッピーバレンタイン
「綾小路先輩」
僕が声をかけると、綾小路先輩は友達と話しているのを中断して、こっちに来てくれた。
「今日、一緒に帰れますか?」
「いいよ。じゃあ、帰ろうか」
綾小路先輩が鞄を取ってきてから、僕達は学校を出た。
「……綾小路先輩、その紙袋は?」
「ん? ああ、色々貰ったんだよ。ほら、クラス全員に義理チョコ持ってくる奴っているじゃん」
「でも、本命もあったんじゃないですか?」
綾小路先輩の表情が固まった。図星といったところか。
何だか胸の奥が痛む。
「貴博に嘘はつけないな。告白、されたよ」
やっぱりそうなんだ。
彼は人気者だ。だから、そういうのがあっても当然なんだ。
僕は何を怖がっているんだ?
「でも、断ったよ。僕には貴博がいるからね」
「……本当に、僕でいいんですか? 僕なんかより、女の子のほうがいいとか、ないんですか?」
「貴博……」
僕は何を言っているんだろう。
やめろ、そんな失態ばかり晒して…!
ハッと顔を上げると、いきなり抱き締められて、びっくりして変な声を出した気がする。
「あ、綾小路先輩……?」
「言っただろ? 僕には貴博がいる。手放すつもりはないよ」
「……っ」
「余計な心配はしないでいいからね」
「……はい」
僕はふっと微笑んで、綾小路先輩を抱き締め返した。
それから、片手に提げていた紙袋を手渡した。
「……あの、これ受け取ってください」
「わぁ……すごいね。手作りじゃん。僕のためにわざわざ?」
「はい。普段料理しないので、お口に合うかどうかはわかりませんけど……」
「それでも嬉しいよ。ありがとう」
くふふっ、と笑った綾小路先輩は僕をもう一度抱き寄せて、口付けを交わしてくれた。