貴博くんの体調不良
大学生設定です。
同棲を初めて1ヶ月。
いつものように貴博をバイト先へ送り、帰りに夕飯の材料をスーパーで調達し家に戻った。
高校を卒業し、2つ下の後輩の貴博と同棲を始めて一緒に過ごせる時間が増え、毎日が楽しかった。
鼻歌交じりに焼きあがる唐揚げをお皿に取り、時計を見ると時刻は午後8時。
貴博は今日7時から10時までバイトだから、ちょっと早くに作りすぎたなと思っていた時。
〜〜〜♪
メールの着信音が鳴った。
差出人は貴博。
休憩中かな? と思いつつ開くと、
『綾小路先輩、すみません。迎えに来てください』
どうしたのか心配になりつつも、迎えに行く準備をする。
+ + + + +
バイト先の前に車を停め、中へ入ると店長らしき人が貴博を連れてきてくれた。
「本人はやれるって言うんだけどね。顔色良くないし、ちょっと体調悪そうだから今日は帰って休んでもらうと…」
そう言って頭を掻いた。
すいません。と軽く頭を下げ、貴博と車に乗る。
貴博が体調を崩すなんて初めてのことで心配になる。
「いつから体調悪かったの?」
言われてみれば、少し顔色が悪い。
「いや、バイト中に急に…」
すみませんと目を閉じる貴博。
家に着くと、ソファーにぐったりと凭れ込んだ。
「顔色悪いけど、どんな感じ?」
横に座り、そっと触れてみるが熱はなさそうだ。
「…酔ったかもしれないです」
ふっと笑う貴博。
「酔った? じゃあ、何も食べない方がいいか…」
そう言って布団の準備をする。
着替えを済ませた貴博が、後ろから申し訳なさそうに「唐揚げ食べなくてすみません」と言った。
「いいよ。寝れそう?」
眠くないですと言いながらも布団に入る貴博。
そのまま寝れたら寝なと言い残し、唐揚げにラップをして風呂に入った。
※ ※ ※ ※ ※
風呂から出ると、寝室で寝ているはずの貴博がリビングのソファーにいた。
「貴博? 布団入らないと」
熱でも上がったのかと触れてみるが、そんな感じもしない。
一応測るかと体温計を探すと、後ろで小さな声が届いた。
「綾小路先輩…」
「どうした?」
探し出した体温計を持って横に座る。
「あの…ずっと気分悪いの治らないんですけど…」
とりあえず熱測ってと体温計を渡し、温かいものでも飲もうかとお湯を沸かす。
ピピピピと電子音が鳴り、渡された体温計には36.4の文字。
「熱はないね。疲れたかな?」
お湯にレモンとハチミツを入れたドリンクを渡すと、ちょこっと飲んで美味しいと笑った。
しばらくすると、綾小路先輩…と、また小さな声に反応する。
「……ううっ…」
消え入りそうな声に振り返ると、
「… 吐き…そう…」
手を口に当てて吐き気に耐える貴博がいた。
「トイレまで行ける? 無理?」
たぶん無理だろうな。
時折背中は小さく波打ってるし、なんせ涙目で今にも泣きそうだから。
そう思い、ゴミ箱を手にすると、貴博は「トイレ…行く…」と立ち上がった。
「っう…はぁ…はぁ…」
一歩ずつ前へ進むも、途中でしゃがみこんでしまう。
「今から連れてくから、吐きそうだったら無理しないで」
貴博が頷いたのを確認すると、呼吸に合わせて腕を回し、そっと持ち上げた。
「うっ…っん…やっ…」
振動を与えないようにゆっくりと歩くが、今はそれさえ辛いらしく、我慢してるのが可哀想でトイレまで急ごうと少し焦った時だった。
「げぇっ…!! うっ…おえ゛…」
貴博は見事なまでに洋服にぶちまけた。
「ごめんね、僕は大丈夫だから。トイレ着いたよ」
便器の前に座らせて背中をさすると、一度嘔吐を許した身体はすぐに反応した。
「うぇっ…っ…っはぁ……げぇぇ…」
お世辞にも綺麗とは言えないえずき声がトイレに響く。
「ぅぅ…っん…っう!! え゛っ……きもち…わるっ…う゛ぇっ!!」
20歳を超えたいい大人が泣きながら便器にすがりつく姿は、見ていてこっちまで辛くなる。
「落ち着いた?」
ある程度吐き終え、ふぅーと息を吐いた貴博をとりあえず着替えさせ、布団に寝かせた。
申し訳なさそうに謝る貴博の頭を撫で、赤ちゃんをあやすようにトントンと叩くと、おやすみと目を閉じた。
$ $ $ $ $
冷たいモノに揺すられる感覚に目を覚ますと、貴博が布団の上に座り、僕を起こそうとしていた。
「綾小路先輩……助けてください…」
切羽詰まった声に飛び起きて、どうした?と声をかける。
「なんか、お腹…痛くて、さっきトイレ行ったらすごい下ってて…落ち着いたと思ったらまた…痛くなって……」
涙目で腹痛を訴える貴博が可哀想で、お腹を静かにさすった。
グルルルルル……
腸の動く音に、貴博が呻く。
「んっ! 痛っ……うぅ…」
「貴博、トイレ行こう。出したら楽になるから」
貴博を支えて立たせようと手をかけると、
「綾小路先輩…無理……痛い…」
無理やり連れて行くのも可哀想で、波が引くのを待とうと決めた時。
「…んっ……出るっ…」
さっきまで真っ赤だった彼の顔は白を通り越して青っぽく、目から涙が出ていた。
「え、じゃあトイレ急がないと!」
座って動けない貴博を半ば強引に抱き抱えると、ぶりっという音ともに彼は「あっ…」と声を出した。
大丈夫? と声をかけると、「ちょっと漏れたかも…」と恥ずかしそうに僕のシャツを握った。
トイレのドアを開け、急いでズボンとパンツを下ろして座らせると、待ってましたとばかりにビシャーーーと水のような便がお尻から噴き出した。
「やっ…出てて……恥ずか…しい…」
何を今更と思いつつ、汚れたパンツを洗って貴博のお腹をさすると下痢便が次々と便器に落ちた。
しばらく悶え苦しみながらも、悪いものを出そうと頑張っていた貴博が、
「綾小路先輩……吐きそうですっ」
手で口元を抑えて苦しそうに絞り出す。
下からこれほど出しているのにまだ上からも出るのかと心配になりつつ、洗面器を持ってきて手渡した。
「おぇっ!!……っん…ぐっ…ゲェッ!!」
「悪いモノ全部だそうね。落ち着いたら病院行こう。とりあえず、今はちょっと頑張ってみようか」
吐く時にお腹に力が入るのか、えずく度にビチビチと下痢便が便器に叩きつけられた。
1時間近くトイレでお腹痛いと下し、気持ち悪いと泣きながらゲェゲェ吐いた。
◇◇◇◇◇
翌日、病院での診断はノロウイルスだった。
点滴を打ち、帰宅後はその効果があってか貴博はグッスリと眠っていた。
明日には治るといいね……。
そう思い、彼の髪をそっと撫でた。
安心したように寝ている貴博はやっぱり可愛かった。