引っ越しとウソ
ウソだろ……。
俺は己の耳を疑った。
「おいっ、今なんて言った!?」
「だから言ったでしょ? 世界で一番遠いところに引っ越すことになったって」
とてもうざったそうに言う幼馴染の小雪。
「でもなんでそんなところに……。しかも来月の頭って、もうすぐじゃねぇか! なんでそういう大事なことをもっと早く言わなかったんだよ!!」
「だって、別に啓介に言う必要ないでしょ」
俺はがっくりと肩を落とした。俺って小雪の中だとそんなに低かったのかよ……。俺の小雪への想いとの落差に絶望感すら感じた。
そんなやり取りをしてから二週間後、小雪たちは引っ越していった。
そう……引っ越していったはずだった。
なら、なんでココに小雪たち一家がいるんだ!?
「おい小雪、なんでココにいるんだ? 世界一遠いところに行くんじゃなかったのか?」
「ふふふっ、言ったでしょ? 世界一遠いところだって」
小雪がにやにやと笑いながら言ってきた。その顔をみて、俺は嫌な予感がした。昔から何かイタズラをするとき、小雪は決まってこういう顔をする。
「ほら、私、昨日までは啓介の『左隣』の家だったでしょ? そして今度は啓介の『右隣』の家。ほら、地球をほとんど一周回ったところにある、まさに『世界一遠い場所』でしょ?」
俺は呆れと驚きが入り混じって、何も言えなかった。
いや……、確かにそうだけどさ……。
しかも今は四月一日の午後。エイプリルフールはもう終わっているからこれはウソではなく、本当に起こっている出来事だ。完全に小雪に一本取られた感じがして、少し悔しい。
……まあ、これからも小雪と過ごせるからいいとするか。
Fin
最後にニヤッと笑ってくれていたら幸いです。