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夏の夜の怪

作者: ヒロシ

「そうだなー。最近はぱったり見なくなったはずだったんだが…。去年まではよく見てたなー。

え?なにがって?

幽霊だよ。ゆ う れ い!

怖くないかって?怖くはないな。むしろ俺はよくあいつらにいたずらされるんだよ。

こないだなんて見えはしなかったんだが、肩をトントントンって…

肩叩きのつもりだったのかな?

あはは笑うなよ。普通に驚いたんだから。

小学生の頃なんて誰の家にも知らないおじいさんが住んでるもんだと思ってたしなー。

え?そう。そうなんだよ。おじいさんがさ、毎日俺を起こしに来んだよ。

たまに家帰ったらそこで寝てたりさ。

あー、ごめんごめん。そうだな。怖い話。してやるよ。わかったから。

起きてんのは佑太郎だけ?誠と文也は寝たのか?

そうかそうか。じゃあ心して聞けよ!ほんとに、怖いんだからな。

俺さ、中学の頃はサッカーじゃなくて野球やってたんだ。しかも委員長もやってた。

それでさ、忙しい日は帰るのが生徒の中でも一番遅いことが大半だったなあ。

あの日もそうだなー、うん。今日ぐらい暑い日だったよ。

夏っていったら日が暮れるのが遅いだろ?でもあの日は校門を出た時にはもう真っ暗だったよ。

部活の後に仕事こなすなんて、我ながらえらいなーって思ったね。

あー、そうそう。俺の家はさ、学校から20分ほど上がったところにあるんだ。

人も昼ほどはいなくて、帰宅中のサラリーマンが疲れた顔で歩いてたぐらいかな。

俺も重い部カバンを揺らしながらゆっくりと緩い坂を上っていったんだ。

そう、それでさ…えっと、あ!アイス!アイス買ったんだ!

その坂の途中にさ、コンビニがあるんだよ。

あまりに暑くてさー。

うん。そう。あはは、違うって。

財布見たら200円しかなくてギリギリだったよ。

店員さんも気怠そうに突っ立ってて、大学生ぐらいかな?茶髪で少し遊んでそうな人!

他にお客さんは居なかったんだけどさ、お会計してる時にティラリラリラーンってコンビニの来店の音?がなったんだ。

ボーッとしてたもんだからちょっとびっくりして目を移してみたら…え?そうそうって、当てんなよ。

うん。誰もいないんだ。店員さんも多分驚いてて二人で顔見合わせてちょっと笑ったんだ。

そうしたらさ、店員さんが目を見開くの。

俺も え? っと思って振り向くだろ?

すると真後ろに2メートルほどの男…

は、いなくて、…あははごめんごめん。

小さな女の子がいたんだ。手には缶のオレンジジュースを持ってた。

俺は来店の時、小さい女の子だったから見えなかったのかな、なんて妙に納得したんだ。

それでさ、俺も早くアイス食いたかったし、お釣り貰ってすぐコンビニ出たんだよ。

そしたらその前にある信号が点滅してて急いで渡ったわけ。その時チラッとガードレールの方見たら、一部だけ壊れててそこに花束やらお菓子やら缶ジュースがあったんだよ。

ちょっとヒヤッとしたよ。

新しい感じで多分ここ数日のうちに事故があったんだろうなって思った。

そっからは早足で歩いたよ。だって怖かったからさ。

後ろから付いてくる足音が。

パタパタパタッって小走りで俺についてくるんだよ。

くすくす笑いながら。

止まると確実にぶつかると思った。

でも後数mのところでふと思ったんだよ。

こいつ家に連れて帰ったらやばいんじゃないか…って。

俺はそこで振り返ることを決めたんだ。

其れで勢いよく振り向いたら…。

どうなったと思う?

ん?あー、うん。誰もいなかった。

でも笑い声がどんどん大きくなって耳元から聞こえたんだ。

あ、後ろだ。って絶望した。

それでゆっくり振り向いたら…」


孝一がいきなり黙る。


手に汗が滲んだ。

息のしづらい布団の中で深く深呼吸をする。

チリリン…チリリン…

風鈴の音が激しくなる。風が強い。

ヒューヒュォォー

窓は開いていない。どこの音かもわからない。

クーラーから機械音がする。

暑い。熱があるみたいにくつくつと熱い。


孝一は自分を落ち着かせるかのようにまた息を吸い込む。


「おい!わかってんだよ!!」


孝一がさっきよりも少し声を張って言った。

少しどきりとした。真隣に寝ている文也を見ると起きる気配もなくまだ深く寝息を立てていた。


「あーごめんごめん。驚いた?

そう叫んで振り返ったけど誰もいなかったよ。

でもその代わりにさ、空になった缶ジュースがありえない潰れ方して落ちてた。

人間の力では無理だろうなあ。あれ。

…ん?おわりだよ。

え?あんまり怖くなかったって?

いやいや、あれ経験したら絶対怖いよ。

あ、そうそう。そういえばあの店員さんもあんなに小さい子が俺の後ろにいて、よく気づいたよな…

え?佑太郎、もう寝るのか?

そうだな、俺も眠くなってきた」

孝一はさっきまであんなに流暢(りゅうちょう)に話してたのが不思議なぐらいあっという間に寝息を立ててた。

安心した俺は滲んだ汗も引いて、気づいたら夢の中に入っていこうとしていた。


朝起きると自分が一番最後だったようで布団を畳む文也が目に入った。

バサッっと起き上がって周りを確認する。

「どうした?誠」

文也が心配そうに尋ねる。

「孝一は?」

「さぁ?トイレとかじゃない?起きた時にはいなかったけど」

「文也お前さ、昨日の夜、孝一と話してた?」

「いや?お前が話してたんだと思ってた」

孝一は昨日の夜はっきり佑太郎って…

「やっぱさ!佑太郎なんていないんだよ!俺らの部屋…だって俺ら3人部屋だったじゃん!なんだったんだよ!誰と話してたんだよ!!あいつ!!」

「落ち着けよ…誠。どうしたんだよ?佑太郎?佑太郎って…気のせいかもしれないだろ?」

「だってはっきり佑太郎って!!!…


ガチャ


孝一…」

入ってきた孝一は少しニヤリと笑う。

「言っただろ?俺はよくあいつらにいたずらされるんだ」

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