八つ当たりー悔しさ=Y
楽しいはずの体育祭なのに・・・雪村の行動で、亜美と洋介に事件が起きてしまう・・・
7月11日(土曜日)
パーンパンパーン
「えー本日は天候も良く・・・・」
今日は東平高校体育祭。
「あっつぅ。」
「すっごい天気いいねぇ・・〈汗〉」
知佳と亜美と有希は木陰で休んでいた。
「ちょっとぉずるーいこんなところでぇ~!」
真奈美が気怠そうに歩み寄ってくる。
「あ~まなみぃ。準備終わったのぉ?」
「終わったよぉ〈怒〉なんで真奈美がプラカード当番なわけぇ~」
「仕方ないよぉ推薦だし~・・あーあつい・・。」
亜美は暑さにうな垂れていた。
「も~ほんとイヤぁ。日焼けなんてしたら、コンクールのドレス着れないじゃん!」
真奈美は暑さに苛立っていた。
「おーい♪」
「あ、将也、亮~♪」
「何してんのこんなとこで?」
将也が真奈美に話かける。
「休憩♪」
「あっ、あたし用事思い出した!ちょっと行ってくる。」
有希がおもむろに席を立った。
(どーしよ・・・何か亮と顔合せづらいなぁ・・・〈困〉
「え?」
「さっきまでそんな事言って無かったのにね。」
亜美と知佳は首を傾げた。
目を合わすことも無くその場から去る有希を見つめる亮。
その視線を真奈美を見逃さなかった。
(あれれ?)
「亜美、俺の騎馬戦応援してね♪馬だけど〈笑〉」
「馬じゃ応援しがいないよ~〈笑〉てゆーか今日は敵だし~」
「それもそっか♪」
アハハ
(なんだよ・・有希に続いてここもカウントダウンですか?)
知佳は暑苦しい中、アツアツに見える光景を見せられて少し萎えていた。
「あ、そろそろうちらタイヤの時間。」
「ほんとだ、じゃあ行ってくるね。」
亜美と知佳は集合場所に移動した。
「亜美~頑張れ~♪」
笑顔で見送る将也。
「つーか知佳も応援しろよ将也・・。」
「あ、そーか。あはは」
「前田は、応援しに行かないのか?」
「行くよ~でも~、ねぇ将也。有希探してきてくれない?あたし暑くて動けない。」
上目使いでおねだりモードの真奈美。
「ったくしかたねーなぁ。分かった。亮行こうぜ~」
「ダメ。亮はお留守番。」
「え?何で?」
「いいから~!」
真奈美は将也を押しながら
〈空気呼んでよ〈怒〉〉
〈え・・はい〉
将也は腑の落ちないながらも有希を探しに行った。
「何?前田。俺に何のよう?」
亮は、不自然な真奈美の行動に裏がある事を察していた。
「なーんだ察しがいいのねぇ~♪」
「で?」
「有希と何かあったでしょ?」
「何で?」
「長年一緒にいるから分かる。何か変。」
「そう。」
亮は淡々と答える。
「何があったの?」
「秘密。」
(ム~・・・亮はちょっとやりづらいわ~・・)
ストレスを感じる真奈美
「そんなに知りたいなら、金沢に直接聞いた方がいいよ。」
そう言うと亮は去って行った。
「なんなの~?でもやっぱ何かあったのね。」
その頃タイヤリレー
「キャァァァアーーー!!ちょっとはやっはやいよーーー!!」
ズザザザザザザーーーー
「オラオラァァァ!!」
「ちゃんと捕まってろ~!!」
「いやぁぁぁあぁーーーー」
亜美の乗るタイヤが猛烈なスピードで走っていた。
「うわー亜美振り落とされそう〈焦〉」
「日向さーんがんばれぇ!!」
「日向~バランスバランス~!!」
「無理無理無理無理ッッッ!!」
「おい、洋介、亜美大変な事になってんぞ!」
「あぁ・・〈汗〉」
そしてそのままのスピードでタイヤ受け渡し場所へ
「ちょっとっっそのままのスピードじゃぁ!!」
「スピード落とせっスピードッ!!」
「あぶねー!!!」
ズザザザザザーーーキキィィィ!!!
急ブレーキで止まる2人だが、タイヤは勢いが落ちず・・。
ヒュウッ
「やーー!」
ザザザーーー
亜美はタイヤから投げ出された。
キャーー
「大丈夫――〈焦〉」
「イタタタ・・・。」
「亜美ちょっと怪我ない?」
「わりっ日向!」
「すまん!!」
「何してんのよバカ男子!!」
「いいよ大丈夫だから〈苦笑〉」
「血でてるじゃん〈哀〉」
「平気平気、このくらい。」
「うわー俺保健室連れてくよ~わりぃ・・。」
「あったりまえよ、早く連れて行きな!!」
「一人で平気だから、まだ競技続いてるし〈苦笑〉」
「いや、でも・・。」
タッタッタッタ
「大丈夫?亜美ちゃん。」
「え?」
亜美が振り向くと
「沢木先輩。」
(野球部の人だ。何で亜美知り合い??)
(キャー野球部の先輩だぁ~亜美ちゃんいいなぁ~)
「出血してるね、俺が保健室連れてくから後は任せて。立てる?」
「あ、大丈夫です、一人で行けますから。」
「いいのいいの、俺保健委員だから、けが人救出が今日の仕事なんだ〈笑〉」
「ほら、亜美先輩い甘えて行って来な。」
知佳が先輩に頭を軽く下げた。
「ね。」
「はい・・・。」
その光景を遠目から見ている洋介と彗。
「洋介行かなくていいのか?」
「あぁ。」
「なんだよ、つめてーな。」
「別に。」
《保健室》
「ちょっとそこ座ってて。」
「はい。」
沢木が消毒液などを出していると
ガラガラ
「アハハそれでさぁ~って沢木。」
「雪村、川西どうした?」
野球部2年の2人が入ってきた。
「何怪我人?」
「そう。」
「うっわー痛そう~。」
雪村が亜美の足を見て渋い顔をする。
「亜美ちゃん、ちょっとしみると思うけど、我慢してね。」
優し笑顔で話しかける沢木。
「はい。」
「うわ~沢木もう名前とかで呼んじゃってぇ~女ったらしぃ♪」
チャカス川西
「バーカ、この子は橘の幼馴染みなの。」
冷静に答える沢木
「橘の?ふーん。」
一瞬雪村の顔が冷たく見えた。
「いつも洋介がお世話になっています。」
亜美は一応挨拶をした。
「あっ、もしかして、赤津が言ってた子?」
川西が沢木に聞く。
「そう。」
(・・・なんか勝手に知られてる・・。)
「なぁ、沢木。あと俺やっとくよ、そろそろお前出番じゃね?」
時間を見て沢木に言う雪村。
「あぁ、そーだな。じゃあお願いしていいか?」
「任せろ~。」
そう言って沢木は保健室を出て行った。
ガラガラ
「あ、あたしもう大丈夫ですから。」
亜美が立ち上がろうとすると
「まだ、出血してるとこあるから、座りなよ。」
雪村は亜美の両肩を抑え椅子に座らせた。
そして、出血箇所治療を始めた。
「ねぇ、橘とそんな仲イイの?」
「え、まぁ家族ぐるみの付き合いなので。」
「彼女?」
「いえ。」
「そう。」
どことなく冷たい口調の会話。
「なぁ、雪村~俺も次競技あるから行っていい?」
「あぁいいよ。」
「んじゃ」
保健室から川西も出て行った。
2人きりの保健室
(何となく・・・気まずい・・。)
少しの沈黙
「俺さ、2年でピッチャーなんだけど。」
「ピッチャーなんですか。」
「そう、でも今回ベンチ入り出来なくてさ。」
「・・・はい。」
「何で橘がベンチ入り何だと思う?」
(え・・・。)
雪村は亜美の目を鷹のように鋭い目つきで見た。
ドクドクドク・・・
恐怖で体が動かない亜美。
「あいつ、何にも動じないからさ、もし君に手を出したらどうなるかな〈笑〉」
「え・・いや・・」
ガタンッ
亜美は勢いよく立ち上がり椅子が倒れた。
雪村は亜美の手首をがっちり掴んでいる。
「逃げなくてもいいじゃん、ちょっと既成事実にキスぐらいさせてみたら。」
「や・・・やめてください!!」
(ど・・・どうしよう・・〈恐〉)
亜美は片手で雪村を押しのける。
しかし力の差は歴然。
ぐぅぅっと近づく雪村
亜美は顔を伏せたまま目一杯の力で押し続ける。
(やだぁっ!助けて・・・)
ガラッ!!
「おいっお前何してんだよ。」
バッ
「きゃっ」
雪村は亜美の手を離し、突き飛ばした。
「べ~つ~に。」
「別にじゃねーだろ〈怒〉」
「うるせーよ赤津いいだろ別に俺が女と何してようが。」
(あか・・つ・・・赤津先輩!?)
亜美は体が震えて立ち上がれないままいた。
「いいから出てけ。今すぐ。」
「はいはい。せっかくいいとこだったのになぁ~。」
雪村は反省するどころか、挑戦的な目つきで赤津の横を通り保健室から出て行った。
(クソ野郎が。)
ペタペタペタ・・
「おい、大丈夫か?」
亜美の前にかがみ顔を覗き込む赤津
「・・・はい〈震〉」
「はぁ~・・何もされてないか?」
コクン
「良かった。立てるか?」
赤津は手を差出し、亜美はその手を掴んでゆっくり立ち上がった。
足がまだ震えていて一瞬態勢を崩す亜美。
「あっ。」
赤津は亜美の腰に手をあてて支えた。
ガラガラ
「亜美~大丈夫~?」
ハッ〈驚〉
ガラガラピッシャン
知佳は見てはいけない光景を目にしたと思い思わずドアを閉めた。
「・・・あ・・あれ友達だよな・・ちょっとベッド座ってな。」
赤津は亜美を座らせドアの方へ
「ちょっと、何よ知佳?亜美は?」
「何で閉めるの~??」
ドアを塞ぐ知佳に不信感の2人
「ダメっ今・・ダメッ!!」
ガラッ
「すすす、すいませんッ!!」
ドアを開け3人を見る赤津。
とっさに謝る知佳
首を傾げる有希と真奈美
「いや、別にやらしいことしてねーよ・・・。よりによって橘の幼馴染みに。」
「え?でも今・・。」
「ちょっと色々あって、今あいつ体育祭どころじゃねーからさとりあえず橘呼んできてくんね?」
「色々?」
「すいませんが、先輩は?」
「俺野球部2年の赤津。」
「何で洋介くん?」
「亜美大丈夫なんですか?」
「まぁ、ちょっと俺に預けてくんね?あと沢木も呼んでくる様に橘に言って。」
「分かりました。」
「頼んだぞ。」
「はい。」
3人は洋介を探しに行った。
「ねぇ、何があったんだと思う?」
有希が心配そうに言う。
「全然分かんない。」
「でもなんかただ事じゃ無さそう。」
「でも、有希と真奈美そろそろ二人三脚でしょ?あたしが洋介くん探してくるよ。」
「うん。競技終わったらすぐ行くね。」
有希と真奈美は競技の場所へ
知佳は1組がいる場所へ急いだ。
「知佳ぁ!」
「あッ彗!いいとこに居たぁ。」
「?」
「洋介くん探してるんだけど。」
「洋介?今トイレだけど。」
「そう、じゃあすぐくるね。」
「何?どうかした?」
「うん、なんか全然良くわかんないんだけど、野球部の赤津先輩って人が洋介くん呼んできてって。」
「赤津先輩が?なんかしたのか洋介?」
彗の顔が青ざめた。
「いや、たぶん違う。亜美の事でみたい。」
「亜美?そーいや怪我大丈夫なのか?」
「分かんないのよ、保健室にいるみたいなんだけど・・。」
「ほんと全然分かんねーな・・。」
「あ、洋介くん!」
トイレから戻って来た洋介に駆け寄る知佳。
「亜美大丈夫?」
「分かんないんだって!!」
「ん?」
「何か赤津先輩にお前呼んで来いって言われたんだって、何かしたのか?」
「・・いや。」
「とにかく、洋介くん来ないと亜美に会えないし、いいから来て!」
「亜美も一緒なのか?」
「たぶん。」
(・・・なんだ?)
「あっ、えっと・・さわ・・沢木、沢木先輩って人も呼んで来いって言われた!」
「沢木先輩も?」
彗と洋介は顔をしかめる。
「じゃぁ俺が、沢木先輩に伝えるから、知佳と洋介は先保健室行けよ。」
「ありがと、じゃぁ行こう洋介くん。」
「あぁ。」
2人は駆け足で保健室へ向かった。
彗は沢木先輩を探しに行った。
《保健室》
「すいません・・。」
亜美はだいぶ落ち着きを取り戻していた。
「いや、君悪くないから。」
「・・・はい。」
トントン
「はい。」
ガラッ
「橘来たか。」
「・・・。」
ヒョコッヒョコッ
一生懸命中を確認しようとする知佳。
「2人とも入れ。あれ?沢木は?」
「彗が連れて来ます!って亜美大丈夫~!!」
やっと亜美の姿を確認した知佳は亜美に駆け寄る。
「ち・・か・・〈泣〉」
気心知れた友達の顔をみて、緊張感が解けた亜美は泣き出した。
「え・・えっ!ちょ、ちょっとどうした!?大丈夫?痛いの??」
急に泣き出した亜美に戸惑う知佳。
「先輩、亜美どうしたんですか。」
泣きだした亜美を見て目つきが変わる洋介。
「まぁ、沢木が来たら話す。」
「・・・はい。」
洋介が亜美に近づく
「亜美?大丈夫?」
「よう、ようす・・け・・〈泣〉」
その泣き顔を見て、頭を撫でる洋介。
ガラガラ
「あっ沢木!!」
「どーした赤津?宮沢が慌てて呼びにきたけど・・あれ?亜美ちゃんどうしたの?」
泣いている亜美を見て驚く沢木。
「あれ?宮沢は?」
「なんか、俺が行くと、余計なのが付いてきかねないので戻ります。って。」
(将也のことだね・・うん彗偉い。)
知佳は納得。
「で?どうしたんだよ。」
「雪村が、橘への逆恨みでこの子に無理やり手を出そうとした。」
「えっ!」
知佳は眉をしかめた。
洋介も目を丸くした。
「何だって・・本当か。」
「あぁ、さっきこの子から何があったか聞いた。」
「ちょっと、待って下さい!逆恨みって!何で亜美なんですか・・」
知佳は怒りで泣きそうになった。
ダッッ
洋介が保健室を飛び出そうとした
「待てっ橘!!」
赤津が洋介の手を掴んで止める
「離してもらえませんか。」
洋介の目は鋭く怒りに満ちていた。
「バカ、そうなるのがコエ―からここにお前呼んだんだよ〈怒〉」
「そうだぞ、橘万が一にも暴力沙汰は野球部全員に迷惑をかけるんだ。」
2人の言葉に耳を貸す洋介。
「とにかく、未遂で済んだし。雪村の件は俺たちに任せてくれないか?」
「キャプテンとかにも話はする。もう亜美ちゃんに手を出させないようにするから。」
洋介は先輩たちを見た後、亜美を見て
「・・あの、俺をベンチ入りから外してもらえませんか。」
(えっ・・・。)
亜美はゆっくり洋介を見た
「お前・・バカ言うな。ベンチ入りメンバーは試験で決めたんだ。堂々としてろ。」
「でも、また亜美に何かあったら・・」
「心配は分かるが・・。」
困る先輩2人
「洋介・・・ダメだよ。せっかくとったベンチ入りなんだから・・。」
亜美が悲しそうな表情で洋介に言った。
「でも、洋介くんのせいで怖い目にあったんじゃん・・・。」
知佳はどうしていいのか分からない。
「違う、洋介のせいじゃないもん。あの人が悪いだけだもん・・。」
「亜美、でも・・。」
「やだ、そっちの方がヤダ。せっかく頑張ったのにあたしのせいでそんなんになるのヤダ。」
亜美の必至の抗議。
「ほら、これ以上幼馴染み悲しませるなよ。」
「とにかく今回の件は俺たちが預かる。お前はベンチ入りメンバーから外さない。以上だ。いいな。」
洋介は先輩2人を見るだけで頷きはしない。
「・・・じゃぁ、俺ら行くから、その子落ち着くまで一緒にてやれろ。」
「行こうか、君も」
「えっあたしは・・」
沢木と赤津は知佳を連れて保健室の外へ。
「ごめんね、お友達。」
沢木は苦笑で知佳に微笑んだ。
「やっぱりあたし、」
「ダメだ、今は2人にしてやって、じゃないと橘、雪村ぶっ飛ばしかねないから。」
赤津は頭を押さえながら言った。
「ぶっ飛ばせばいい。亜美が可哀想。」
「そーだね・・。」
沢木は知佳の頭を撫でる。
「あ~知佳ぁ!亜美知らない♪」
「将也・・。」
(このノー天気やろぅ〈怒〉)
「おい、行くなって!!」
彗が必至に将也の服を掴んで保健室に行くのを止めようよしていた。
「よー将也。久しぶり。」
「あ、赤津さんと沢木さん!どーしたんすか?」
「てめぇ、こかっら先は立ち入り禁止だ。」
赤津に威圧される将也。
「え?なんで??どーして?」
「うるせぇ、早く戻れ!」
「は・・・はい。」
将也はしぶしぶ戻った。
「君も、俺たちと戻ろうか。」
沢木は知佳の手をとって、保健室から離れた。
《保健室内》
「ごめん洋介、迷惑かけた・・。」
椅子に座り、亜美に背を向けたまま黙り込む洋介。
「ほんとごめん、でももう大丈夫だから!これからも大丈夫だし、気にしないで〈笑〉」
亜美は明るく振る舞った。
「・・・。」
何も答えない洋介にそっと近づき、洋介の隣に立った。
「洋介?」
「なんで?」
「え?」
「もうそんな目にあいたくないだろ。俺も亜美をそんな目に合せたくない。」
「それはそうだけど・・。」
「俺が、雪村先輩にベンチ入り譲ればそれで良かった。」
「・・・洋介・・。」
言葉に悔しさが滲み出ていた。
ナデナデ。
「・・・何〈怒〉」
「ん?慰めてんの。あのね、そりゃホントに怖かった。でも、あたしは洋介にそんな顔で野球やって欲しくないよ。楽しんで欲しい。」
「無理。」
「知ってる、なんだかんだ言って洋介はいつもあたしを優先してくれるし、無理かもしれないけど。それでもたまにはあたしを信じてみてよ。大丈夫ってこと信じて。」
優しい笑顔を見せる亜美。
「・・・亜美は信じれても、何があるか分からないから。」
「あたしは、赤津先輩と沢木先輩信じる。それに、守ってくれたり助けてくれるのは洋介だけじゃないから。だから一人で背負わないでよ。足手まといになりたくないよ。だからお願い。」
亜美の優しさに包まれた言葉に洋介は返事代わりの溜息をついた。
「じゃ、もどろう。」
「あぁ。」
2人が保健室から出るとすでに時間はお昼休みになっていた。
「亜美!」
「亜美大丈夫?」
昇降口で心配そうに待っていた、真奈美と有希と知佳。
「ほら、洋介。あたしには皆がいるから。」
洋介に笑顔を見せて、3人の元へ駆け寄る亜美。
その姿を洋介は複雑な気持ちで見ていた。
「ごめんね心配かけて。」
「いいよぉ~無事で何より♪」
「ほんと、何も無くて良かった。」
「とりあえずお昼にしよう。」
「うん♪」
その後の体育祭は、何事も無かったように振る舞う亜美。
知佳と有希と真奈美は終始警戒をしていた。
3組メインイベントの仮装行列は、いぐちんの予想以上のリアクションと、プロポーズの成功で大盛り上がりだった。
洋介は無口に拍車をかけ、だんまり状態。
洋介と亜美の消えた時間が気になる将也も不機嫌状態。
先輩から事情を聴いた彗は、洋介の監視。
雪村は何事も無かったように体育祭を楽しんでいた。
亮は、時折寂し気な表情をしていた。
色々な心境を抱えながら、体育祭は幕を閉じた。
体育祭終了後
《野球部 部室》
「おい、雪村お前何したか分かってんだよな。」
「あぁ。」
「何であんな事・・。」
「ちょっと待て、雪村何したんだよ?」
川西は何が起きているのか分からないが、赤津がキレていることにビビっていた。
「悪いと思ってる?」
沢木は冷静に聞く。
「思ってねーよ。」
「あのな、雪村、このままだとお前退部だぞ。」
「退部ッ!!」
川西はもう何が何だか分からずただテンパるばかり。
「いいよ。その方がすっきりするかもな。」
「何やけになってんだよお前~!」
赤津が襟元を掴んだ。
「やめろ、赤津。」
「殴れば?」
「雪村いい加減にしろ。」
沢木が2人を引き離す。
「雪村、お前が今回ベンチ入りの為に頑張ってたのは2年全員分かってる、川西だってそうだ。」
「おう、俺も頑張ったぜ~♪」
「2年全員で下剋上するって決めて、今回3年生より多くのベンチ入り獲得したんだよ。」
「でも俺はダメだった。あんな1年に負けてんのか俺?」
「負けたんだよ。」
赤津はハッキリ言った。
「ハハ。勝ち組の言う事は違うな。」
バカにするように言う雪村
「あぁ、俺は3年に下剋上挑んだからな。」
「は?」
「お前は3年のレギュラーピッチャーの田島先輩と川島先輩と2年エースの矢部に勝てなかったんだ!一年どうこうじゃねーんだよ。お前はどこ目指してんだよっ!ベンチにだけ入れればいいのか?違うだろっ〈怒〉」
「・・・・。」
赤津の言葉に目を泳がせながら黙り込む雪村。
「ちゃんと自分の立ち位置を見ろ、雪村。」
沢木が雪村の肩に手を置く。
雪村は下唇をギュと噛み、体を震わせた。
その様子を見て、赤津と沢木は安堵の表情で顔を見合わせる。
「なぁ、橘と、亜美ちゃんにちゃんと謝ろうぜ。俺まだお前と野球したいし。」
少し照れながら言う赤津。
「俺らも一緒に行くから。な、雪村。」
雪村は両手で顔を覆い
「・・ごめん・・。俺何やってんだ・・。」
「分かればいいよ。橘だって許してくれるよ。」
「あぁ・・。」
こうして、翌日、沢木と赤津に付き添われ、洋介に謝罪する雪村。
洋介は、亜美にもう何もしない事を条件に謝罪を受け入れた。
亜美への謝罪は火曜日にすることになった。
気持ちを入れ替えた雪村は、チームと気持ち一丸に決勝戦の勝利を目指した。