野球ー洋介=X
野球部の地区大会メインです。恋愛要素は無いお話。
時は少し戻り、6月13日(土)
AM10時
《東平駅》
「はぁ~・・。」
溜息を吐く彗。
「・・・・。」
「何の溜息だよ。」
森山がかったるそうに言う。
「だってよ~・・・結局補欠組にも入れず・・予選まであと1週間ってなんか悲しくね?」
「しょうがねーだろ、実力不足なんだから。」
「そーだけど・・。一年からこいつだけってよー!俺と一心同体だってのになッ!」
「あぁ。」
「ほら洋介もこう言ってんだぞ!」
「はぁ~・・お前さぁ、彗といて疲れねーのか〈呆〉」
「別に。」
「森山にはわかんねーよ、俺と洋介の深く結ばれた愛が♪」
彗は洋介いぺトっとくっつく。
「あ~はいはい、じゃあ次の大会で俺に洋介とられないように気を付けるんだな。」
「とられるかっ!!」
《東平高校 グラウンド》
「ちーっす。」
「ふぁぁぁ。最近マジ疲れ溜まってるわ~・・。」
やる気の感じられないこの男は、3年田島 篤史。エースピッチャー。
「大丈夫か?試合近いんだからちゃんと調整しろよ。」
心配するこの男も同じく3年。野球部キャプテン 中谷 達也。
「あぁ、まぁ・・大丈夫っしょ。一回戦から俺が出ることも無いだろうし。」
「・・・やる気あんのかよお前。」
「あるある。すげーある。」
(絶対ねぇな。)
「ようおはよっ。」
「おはよう。今日もはえーなぁ~・・お前がそんな早いと下の連中可哀想だろ~。」
「田島達がおせーんじゃねーの〈笑〉」
「いやいや、俺も太一が早いと思うぞ。」
明るく少年のような笑顔の彼は、3年明神太一。
「だってよ、ベンチ入り落ちした仲間の分まで全力出さなきゃわりぃじゃん。」
「まぁな、今回は大荒れだったからな。」
「まさかベンチ入りの半数以上が2年になるなんて想定外だよ。」
少し深刻そうな表情をする中谷と太一。
「仕方ねーだろ。下剋上なんだから。」
「冷たいね~田島は。まっ言う通りだけどな。」
鼻で笑いながら言う太一。
【ベンチ入り3年 8人】
中谷 達也 セカンド キャプテン
斎藤 友樹 キャッチャー 副キャプテン
田島 篤史 エースピッチャー
明神 太一 センター
川島 祐介 ピッチャー
小平 竜 レフト
新山 崇邦 ショート
武藤 俊英 サード
【ベンチ入り2年 11人】
沢木 和也 セカンド
赤津 大地 ショート
木田 哲平 ライト
野上 太河 キャッチャー
矢部 徹 ピッチャー
津南 正巳 ファースト
江藤 浩之 サード
熊本 健史 レフト
里中 太陽 センター
小野 悠希 ライト
大島 遼一 ファースト
【1年1人】
橘 洋介 ピッチャー
合計20名
各ポジションから2名ずつ、ピッチャーのみ4人がベンチ入りとなった。
「何年だろーが、絶対地区大会突破してやるぜ♪」
太一はそう言ってグラウンドでアップを始めた。
「お~い太一、気合は伝わったけど監督来たからもう集合かけるぞ。」
「・・・走り出す前に言えよ~中谷~。」
「しゅうごーう!!」
「はいっ。」
野球部全員が監督の元へ集合した。
「みんなおはよう。今日は少し遅めの集合だったが、気分がたるんで無いだろうな。」
監督が全員を見渡す。
「よし。地区大会1回戦まであと1週間だ。怪我には気を付けて調整するように、あと疲れは残さないように自己調整していけ。」
「はい。」
「では練習開始。」
「はい。」
全員が練習メニュー表にそった練習に取り掛かる。
「おい中谷と斎藤、ちょっといいか。」
「はい。」
「一回戦のレギュラー予定なんだがな、2年をベースに組もうと思うんだ。」
「2年をですか?」
「まぁ、対戦相手は川西高校ですから問題は無いかと思いますが。」
「公式戦に出場するのが初めての奴もいるから少し様子を見ておきたいんだ。」
「はい、監督がそう言うのであれば構わないですが。」
中谷は少し不安そうに言った。
「お前の心配も分かる。最後の大会だ負ける訳にはいかないからな。」
監督は中谷の肩に手を置き頷いた。
「実戦経験を積ませないと、甲子園行った時に困るからな〈笑〉いい経験だろ。」
斎藤も中谷を安心させるように言う。
「そうですね。では1回戦は2年に頑張ってもらいます。」
「よし。じゃぁ、一応これがメンバー表だ。午後このメンバーで紅白戦を行う。相手チームのメンバー表はこっちな。後で伝えておけ。」
監督はメンバー表を2人に渡した。
「はい。」
紅組
1番 ショート 赤津
2番 セカンド 沢木
3番 センター 里中
4番 キャッチャー 野上
5番 ファースト 津南
6番 レフト 熊本
7番 ライト 小野
8番 サード 江藤
9番 ピッチャー 矢部
ピッチャー枠 橘
白組
1番 センター 明神
2番 ライト 木田(2年)
3番 レフト 小平
4番 ピッチャー 田島
5番 ショート 新山
6番 キャッチャー 斎藤
7番 サード 武藤
8番 ファースト 大島(2年)
9番 セカンド 中谷
ピッチャー枠 川島
《午後》
「では、試合を想定した紅白戦を始める。ただし、7イニングとする。聞いたと思うが、一回戦は紅組メンバーで勝負しようと思っている。しかし、この紅白戦の結果次第では入れ替えは当然あるからな!分かったかっ」
「はい。」
《紅組》
「よーし、気合いれていくぞっ!!絶対勝って、一回戦このメンバーで行こう!」
「おーーー!!」
《白組》
「どーする~♪2年めっちゃ気合入っちゃってるよ~♪」
「太一、笑ってる場合じゃないぞ、あいつら本気でレギュラー狙いにきてるからな。」
「まぁ、容赦しないけどねっ♪」
そして紅白戦が始まった。
2年チームは、打ち取る形で3年を抑え。
3年チームは、田島に完全に抑えられる展開で3回まで進んだ。
「ん~・・。打撃がいまいちだなぁ2年。まぁ、田島と斎藤のコンビが良すぎるのか。守備は堅いがな~。」
4回に入ると、ピッチャーの交代を言い渡した。
「おぉ、洋介が出るぞ!」
「実戦形式は初めて見るな。」
「どーでるかな、洋介。」
「仕上がりは悪くないんだろ?」
「どうだった?彗。」
「絶好調だと思ったけど。」
一年は洋介の登場に沸き立っていた。
「おい、橘緊張すんなよ。」
野上が、マウンドにいる洋介に声をかける。
「はい。」
「橘~打たせていいぞ~!俺が全部取ってやる♪」
ショートから赤津が声をかける。
「はい。」
「おい、レフトとセンターポジション少し左にしとけっ!」
「おーけー」
試合が再開された。
スパァンッッ
(よし。)
洋介の一球目に、キャッチャーは納得した。
「ふぃーいい球投げるんね~1年。」
バッターボックスの武藤が感心する。
「いい球だ橘、伸びもあるしそのまま行こう。」
「はい。」
表情一つ変えない洋介
(ん~・・つまらないなぁ~♪)
武藤は唇を舐め、ニヤッとした。
「あー武藤が嫌がらせする気だぁ。」
新山がベンチで言う。
「まぁ、橘の精神状態がどうなるか見て見たいからいいんじゃね?」
太一が楽しそうに答える。
洋介の2球目
ビュッ
カキーン
「ファール」
3球目
ビュッ
カキーン
「ファール」
4球目
ビュッ
カキーン
「ファール」
「武藤の奴、わざとファールに持ち込んでるな。それにしても・・・」
薄ら笑いを浮かべる監督
「なんかおかし~・・・」
彗が疑いの眼差しで洋介をジッと見ている。
「何が?先輩に合せられてるだけじゃん。」
「違うな。野上先輩があんなリードする訳ねぇよ。全部真っ直ぐストレート。」
「だよなぁ・・・普通外すよな、あんな合せられてたらよ。」
「洋介って、あぁ見えて挑発乗っちゃうタイプなんだな。」
「あぁ。」
「えっ?何もしかして・・・。」
「審判タイム!」
野上がタイムをとって洋介の元へ
「おいっ!何さっきからサイン無視してんだお前??」
「いや、何かそんな雰囲気だったんで。」
全く悪気の無い様子で淡々と答える洋介
「は?〈汗〉いや、一応紅白戦だからさ。個人的な勝負は後にしてくれないか?」
「はい。すいません。」
「よし、じゃあ、まぁいい球来てるし、2ストライクだ、外角高めで三振とるぞ。」
「はい。」
野上が戻っていく。
「なんだよ~野上つまんねぇなぁ~。」
武藤が野上に言った。
「すいません。リードしていない状態で賭けに出るわけにはいかないんで。」
「ふっ。」
その後、洋介は無難に3人を抑えた。
「どーだ?橘の球?」
小平が聞く
「まぁ、なかなかいいんじゃない?ちょっとまだ球軽い気がするけどマウンド度胸だけは一人前だな。」
「そっか。」
「でも、2巡目からは打ち崩すけど。」
「そーだな。」
2年の攻撃はクリーンナップからの打線で何とか1点を取った。
「よし、このまま守りきるぞ。」
「おーー。」
しかし、その後洋介は3年からの洗礼をうけることになる。
7回までに6失点
2年は1点のみとなった。
「ありがとうございましたー。」
「洋介おつかれっボッコボッコだったなぁ。」
彗が声をかける。
「あぁ。」
「おい橘、反省会するからちょっと来い。」
「はい。」
洋介は監督の前に走って行った。
「よし、皆座れ。」
監督の一言で集まった全員が腰をおろした。
「まぁ、さっきの試合を見る限り2年は打撃力にかけるな。」
「はい。」
「点が入らなければ、勝利はない。」
「はい。」
「守備については、大体いいだろう。ただし、橘。」
「はい。」
「お前は、どうだった?」
「打たれました。」
「そうだな。原因は何だとおもう?」
「球の軽さと、変化球の完成度・・・だと思います。」
「そうか、野上はどう感じた?」
「はい。実戦でバッテリーを組むのが初めてだったので、リードがあまり上手く出来ませんでした。コントロールと、スタミナは問題ないと思います。」
「うん。お前は少し色んな組み合わせで練習した方が良さそうだな。意思の疎通が一番のネックだ。これから練習を行うときは、野上か斎藤と組むようにしろ。特に宮沢との練習を禁止する。」
「はい。」
「とりあえず、一回戦のメンバーについては打撃にテコ入れするために3年の投入を考える。いいな。」
「はい。」
課題の残る紅白戦
(彗以外とのバッテリー・・。)
この後彗にその事を伝えると
「なんでだぁぁぁあ〈泣〉」
彗は絶望していた。
一週間後 6月20日 (土)
《地区予選 一回戦》
「今日洋介くん試合出るの?」
「出ないらしい。」
「やっぱり一年じゃ、難しいんじゃない。」
「真奈美はどーでもいいや♪いい男いないかなぁ~♪」
「ちゃんと応援しなさいっ!」
亜美達4人も応援に来ていた。
そして試合が始まり
紅白戦の時から少しメンバーチェンジをした東平高校は、対戦校に7対4で勝利した。
5回まで2年ピッチャーが1点で抑えたのだが、スタミナ切れか、6回にとらえられ、3点を取られ交代。
洋介の出番かと思ったが、出てきたピッチャーは田島。
4回をノーヒットで抑えての勝利だった。
(試合に出ない、洋介と彗の姿って久しぶりすぎて・・何て声かければいいのかな?)
亜美は複雑な心境で試合会場を後にした。
6月29日(月曜日)
地区予選2回戦が行われた。
平日の大会の為、全校生徒が応援に駆け付けた。
2対1という拮抗した試合で勝利し、準決勝に勝ち進んだ。
この日も洋介の出番は無かった。
7月7日(火曜日)準決勝
対戦校は前年度優勝高校。
ここからは、3年主体のチーム編成となり、ピッチャー勝負といった勝負展開。
お互いのチームエースが奮闘し、9回まで0対0のまま。
勝負がついたのは延長12回。
7番武藤のタイムリー2ベースで試合は決まった。
1対0ギリギリの勝利。
お互いエースを下げることは無かった。
決勝戦は7月28日(火曜日)
東平高校野球部は、甲子園まであと一歩のところまで漕ぎ付けた。