プロポーズ+告白=Y
体育祭仮装行列の予行練習で、新郎役に選ばれる有希。そして新婦に仮装する先生の代役にワタケンが選ばれ・・・2人に急展開が訪れる・・・。
6月の最後の週の月曜日
《1年3組 3・4限目》
「よーし、今日は気合入れて仮装用の衣装と道具作りだぁ!取り掛かれ~!!」
「おーー!」
高橋の合図でクラス全員が持ち場に分かれた。
《裁縫班》
「真奈美裁縫とか苦手なんだけどぉ~」
「仕方ないでしょ、文句言わずにやるのっ」
かったるそうな真奈美にカツを入れる有希。
「知佳ちゃん、ここの部分お願いしていい?」
「どれどれ?あ~ドレスの飾りね。オッケイ」
「鈴音、うちらは?」
「有希は、ドレスのレースをカットしてもらえるかな。」
「分かった。」
裁縫班を取り仕切るのは、北川鈴音。
バスケ部ながらも、将来の夢はデザイナーという彼女。
衣装のデザインから、作成の取り纏めを一任された。
「鈴音楽しそうね。」
「うん。だって、自分のデザインしたものが評価される初めての挑戦だもん。」
「そっか、じゃあ友達として頑張らなきゃ!」
「ありがとう~京♪」
鈴音と話すのは、親友の鈴木京。
裁縫班は、鈴音の適格な指示でテキパキと作業が進んでいく。
《小道具班》
「なぁこれ、こんなんでいいのか?」
「いいんじゃね?」
「ちょっと、それじゃダメだよ~雑すぎる!」
「うるせーなぁ椎名~別にいいじゃんこれで~〈疲〉」
「うるさいって何よ〈怒〉ダメもんはダメ!」
はぁ~・・・
姉御肌の椎名にタジタジの男子達。
「きゃーペンキはねたぁ!!」
「舞それ落ちないよぉ。」
「汚れるの覚悟してたけど、何かショック~・・。」
「おーい、河合さーん。ガムテどこ?」
「あそこの箱にあるわよ。」
「なぁトシ~聖書はこの大きさでいいのか?」
「聖書はそれでいいけど。あっその契約書は模造紙サイズにしてくれよっ!」
「これそんなデカくすんのか!?」
「あったりめーだろ、一番重要ポイントだから!」
「ジュンジュン見て見てぇ!」
「なんだよ、ワタケン!?なっ・・」
「うわぁ~ワタケンいが~い♪」
「凄いね~上手!」
「エッヘン!」
久寿玉の中の垂れ幕に達筆な文字で【結婚おめでとうございます!】と書いてある。
「お前すげーな・・そんな特技あったのか!?」
ジュンジュンは驚いている。
3組の仮装行列のタイトルは、【結婚式】で行う事が決まった。
それは、担任の井口陽平(27歳)の彼女が体育祭を見に来ることが発覚した為、この際プロポーズさせてしまえと言った悪ノリで決定したのだ。
担任はただ、ウェディングドレスの女装だと思っている。
本番は神父役の子の誓いの言葉の時に彼女の名前を出す手はずになっている。
その為、仮装行列の準備に気合が入る3組メンバー。
「なぁ、久寿玉一応もう一個つくらね?」
「確かに。」
「そうだな、万が一があるからな。」
「ドンマイバージョン。」
小道具班全員が頷いた。
「ねぇ見て~♪ブーケ出来たよ~♪」
「利衣すごーい♪わぁめっちゃいいじゃん!」
「可愛い~♪」
ブーケに群がる女子達。
「ねーねー本番は女子全員でブーケトス拾いに行こうよ~♪」
「いーねぇ♪」
「ブーケ受け取った人が一番早く結婚するかもよ~〈笑〉」
「キャー夢がある~♪」
彼氏・結婚などのワードに胸トキメクお年頃の女子達。
「なぁそーいや新郎役って誰がやんの?」
その言葉にクラス中がハッとなる。
ざわざわ・・
「女装させるんだから、新郎は男装か?」
「確かに~。」
「服装は誰かの親に借りるとして、えっ誰がやるの?」
「髪短くて、スタイルいい方が見栄えするよね?」
「うんうん。」
「有希ちゃんがいいんじゃない?」
「えっあたし?」
「確かに~!ショートカットだし、スタイルいいし!」
「有希やりなよ~♪」
「あたしもイイと思う!」
「うん。あたしも賛成。」
亜美達も有希の男装に乗り気。
「え~・・・〈汗〉」
あまり乗り気じゃない有希。
「金沢でいいと思う人~?」
「ハーイ♪」〈全員一致〉
「分かったよ・・・。」
仕方なく引き受ける有希。
そして着々と準備は進んで行く。
2時間はあっという間に過ぎ
キーンコーンカーンコーン♪
「よーし、大体できたなぁ。」
「ペンキ系の物は、ベランダで乾かしてくださーい。」
全員疲れた様子で、片づけを行い昼休みに入った。
「あ~疲れたぁ~。」
大きく背伸びをする真奈美
「ほんと疲れたね~慣れない作業はやっぱ大変〈苦笑〉」
苦笑いをしながらも達成感のある表情をする知佳
「準備で終わるんだからイイじゃん。あたしなんて、当日男子の種目とタイヤリレー以外全部参加なんだから・・・どーゆーことよ。」
精神面的にお疲れの有希
「そーだね言われてみれば〈笑〉」
思わず笑う亜美。
「大体さ、井口先生と腕組んで歩くとか、考えただけで自分でも笑えるんですけど。」
有希の言葉でその光景を想像する3人
「プっ・・〈笑〉」
「マジウケるっ〈笑〉」
「フフ・・〈笑〉」
「笑うなら、ちゃんと笑いなさいよっ!」
アハハハハ
どんどん楽しみになっていく体育祭。
あっという間に日にちは過ぎ。
7月 体育祭 約一週間前
《3組 体育祭特別準備時間》
「やったぁ~!」
「完成!!」
「よっしゃ出来たぁ!!」
とうとう仮装行列の準備が整った。
「じゃぁ、ちょっと予行練習しとくか。」
「そーね、やってみて足りない物があれば作らなきゃいけないでしょうし。」
体育委員の2人の意見で、本番と同じ様にやってみることに。
「いぐちん呼ぶの?」
「いや、代役でやろう。」
「男子で誰か代役やってぇ~。」
〈えっでも・・金沢と腕組むんだろ・・。〉
〈芝居といっても・・緊張するよな。〉
〈どーするよ・・〉
ざわつく男子達。
「有希と誰が腕組むかで騒いでるよ~〈笑〉」
冷やかす知佳。
「・・・・もう誰でもいいよ・・。」
すでに諦めがついている有希。
「なぁ、もうワタケンでいいんじゃね?」
「そっか、そーだよお前ら仲いいし!」
「あちゃぁ~・・いいの有希?」
知佳が一応心配そうに聞く。
「ハァー・・・だからもう別に誰でもいいよ。」
深い溜息をつきながら諦める有希。
「まぁワタケンはノリノリだしいいんじゃない♪」
「そーだね・・ノリノリでドレス着出してるね。」
「どう着るのこれ?制服は?」
「そのままでいいよワタケン〈笑〉」
「着せてあげるから、大人しく立っててよ~。」
「じゃぁお願い♪」
数分後準備は整った。
グラウンドを想定し、花嫁がグラウンドの1/4を一人で歩き、2/4で待つ新郎と合流する。
4/4の審査員の場所が神父の前となる設定。
各自担当位置に着き、練習がスタート。
♪タンタタターンタンタタターン♪結婚式BGM
キャーオメデトウ~♪
キレーイ♪
観客役の声が入り、ウェディングドレス姿のワタケンが歩き出す。
有希は、ワタケンの来る方向を向いてビシッと立った姿勢で待つ。
どんどん有希に近づくワタケン。
緊張しているのか、表情が硬い。
それに対し、有希は無表情。
すると・・・
「ストーーーップ!!」
高橋が止めた。
「何?」
「どーしたトシ?」
「ダメダメ、本番と同じ気持ちでやらなきゃ~!!」
キョトンとする教室。
「どーいう事?」
「有希もっと緊張感がある感じの中でも嬉しいって感じで待ってろよ~♪」
「は?」
顔を引き攣らせる有希。
「そーだねー確かにぃ。」
「ドキドキ感伝わる感じの方がいいねぇ♪」
「有希ちゃんファイト!」
「ワタケンはいい緊張感出てたぞ!演技力あんなお前♪」
(いや、リアル緊張だろっ!)知佳・真奈美・亜美
「まぁ、有希・・せめてもっと嬉しそうな雰囲気だけ出してみたら・・。」
憐れむように助言する知佳。
(引き受けなきゃよかった・・〈後悔〉もうヤケクソだっ!)
「じゃぁもう一回!スタート!」
BGMで歩き出すワタケン
花嫁を待つ有希は・・・
ワタケンが近づいて来るまで緊張した面持ち。
目の前にワタケンが来ると。
ニコォ。
〈キャー――♪〉女子
チョー爽やかな笑顔を見せた。
思わず赤面し固まるワタケン。
〈ちょっと、早く腕組みなさいよ!〉
〈・・・あ・・はい〉
腕を組み歩く2人。
ドキドキ・・ドキドキ
(ヤバい・・あたしまで緊張して来た・・〈汗〉)
顔を強張らせ、一瞬ワタケンをチラ見。
ドキッ・・・
予想以上に顔が近い事に気づく有希。
ドキドキしていても何故かズキズキと心が痛む。
近くにいるはずなのに遠感じる切ない気持ちがひしひしと込み上げてきた。
(意識しないようにしてきたのに・・最近心が乱れるよ・・。)
素直になりたい気持ちとなれない気持ち。
もどかしい葛藤の中で有希の心は今にも押し潰されそうになっていた。
審査員の前に着いたという設定の場所に着き、近いの言葉が始まる。
「新郎、井口 陽平あなたはここにいる裕木 美緒を病めるときも、健やかなるときも、富めるときも、貧しきときも、妻として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?」
「これで、いぐちんが焦って、どうなるかってとこだなぁ~〈笑〉」
アハハハ
「ぜってー焦るぜ!いぐちん」
「あたし感動して泣いちゃうかもぉ~!」
「あっちゃんと、彼女さん放送席まで連れて来ておけよ~!」
「大丈夫!俊也先生に協力依頼済みだから♪」
「ならいいな!」
「これで、いぐちんは、はいと言わざるおえないから、そしたら有希と彼女さんチェンジな!分かったか?有希。」
ボ――――。
無表情のまま放心状態の有希。
ベールで顔を見えないが、微動だにしないワタケン。
腕を組んだままの状態。
異変を感じた知佳と亜美が、有希の元へ行こうとすると。
「ちょっと、待って知佳、亜美。」
真奈美は知佳を止め、神父のところへ
(真奈美?)
「ちょっと貸してっ♪」
「えっ?」
ハッ・・・
真奈美の登場に我に返る有希。
「どーしたんだ真奈美?」
高橋が聞く。
「ん~、ちょっとぉ読み方がいまいちな気がして~♪真奈美に一回やらせて♪」
「そうだったか??」
〈別に普通だったよね~?〉
〈もしかして英語バージョン?〉
クラスがざわつく
「ちょっと、真奈美もういいでしょ、読み方なんて後で練習すればいいいじゃない!」
有希はワタケンから腕を離し言った。
「いいから、ちょっとそのままでいてよ~♪」
「しゃーねー、有希とワタケン一回そのままでいて。」
高橋が真奈美にゴーをだす。
真奈美は一呼吸おいて
「渡辺健太っ!」
ビクッッッ
怒鳴るように発した真奈美の声に一同驚く。
「は、はい・・!?」
ワタケンは驚きながら返事した。
「ちょっ、」
あまりの衝撃にたじろぎながら、真奈美に声をかけようとする有希だったが、真奈美は気にせず
「あんたは、ここにいる金沢有希を好きなんですか!?」
えぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーー
いきなりの告白誘導にクラス中が固まる。
有希も目を丸くして固まった。
怒る事もできない程の衝撃。
徐々にざわつき始める教室。
「しーーー。」
有希よワタケンの事を知るクラスメイトが静かにするように促す。
ずっと曖昧だった関係にヤキモキしていたのは、真奈美だけでは無かった。
静寂に包まれる教室。
みんなの心臓の鼓動が今にも聞こえてきそうな空気だった。
「・・・はい・・・。」
(え・・・。)
小さな一言が聞こえた。
「聞こえない♪」
真奈美の見下すような一言で、ワタケンはベールをとり。
「俺は、金沢有希が大好きです!!!」
真剣な表情で、真奈美に向かって言った。
(・・有希に言ってよ。)
真奈美がチラッと有希を見ると
ポロポロポロ・・・
「有希・・。」
立ち尽くしたまま、目から大粒の涙を流す有希の姿。
今まで弱音や泣き言を言わなかった有希がみんなの前で見せた感動を呼ぶ光景。
「金沢有希。あなたは、渡辺健太の言葉を素直に受け取りますよね。」
微笑みながら、有希に問いかける。
コクン
有希の涙で聞くまでもない質問だったが、有希のYESの回答に教室中が感動と喜びの声で溢れた。
「有希ぃぃぃ〈泣〉」
「良かったねぇ有希ぃ〈泣〉」
亜美と知佳が有希に抱き付く。
まいったなぁといった表情で、でもとても嬉しそうな顔で。
「ワタケンやったなぁ♪」
「また公開告白かよー〈笑〉」
事情を知る男子達もワタケンを冷やかす。
「ったく、世話やけるんだから~〈喜〉」
真奈美は教壇から笑顔で2人を見た。
〈そうだっ!耳かして♪〉
コソコソ
〈オッケー♪〉
その様子を見ていた他のクラスメイト達が黒板に何か書き始めた。
そして
「有希ちゃん、ワタケン♪」
クラスメイトの呼びかけに黒板を見ると
【誓約書】
☆ 相手の気持ちを考えて行動します
☆ お互いを頼り、頼られる存在になります
☆ お互いを理解することに努め、話し合う時間を大切にします
☆ 居てくれることの尊さを忘れません
20XX年7月3日 金曜日
見届け人 東平高校1年3組全員
署名【 ♡ 】
黒板には大きく誓約書が書かれていた。
「ほら、ちゃんと読んだら署名して♪」
有希は黒板を照れ笑いで見つめた。
「ほら、ワタケン!有希署名しなさいよッ!」
知佳はワタケンの背中を押した。
「う、うん〈喜〉」
ワタケンは有希の手を取り黒板に歩みを進め、署名をした。
その様子をただ隣で見守る有希。
「はい。有希も・・書いて〈照〉」
急に訪れた幸せに戸惑い照れるワタケンは、有希と反対方向に目を向けながらチョークを渡す。
「うん。」
チョークを受け取った有希は、綺麗な文字で名前を隣に書き入れた。
「有希~ワタケンこっち向いて~♪」
真奈美が2人を呼び振り向かせると
カシャ☆
携帯で2人の写真を撮った。
それはとても不思議な写真。
有希がタキシード。
ワタケンがウェディングドレス。
爽やかな笑顔の有希と緊張するワタケン。
全てがアベコベで、嘘みたいな一枚。
でも・・・2人の後ろには2人の文字で書かれた幸せのへの誓いが確かにあった。
署名【 渡辺健太 ♡ 金沢有希 】