両想い×失恋=Y
野球部では、レギュラー選抜試験の内容が発表され熱い戦いが始まろうとしてた。その一方、有希とワタケンの過去が真奈美の口から明かされる・・。
テスト結果が発表された日、放課後各自に成績表が配られた。
1年生の人数は、約280人。
亜美14位。
知佳は112位。
有希は86位。
真奈美は264位。
《1年3組 放課後》
アッハハハハハ
知佳がお腹を抱え笑っている。
「ちょっとーバカにし過ぎぃ!」
真奈美が知佳に怒っていた。
「でも無いわ~・・」
有希も一生懸命笑いを堪えている様子。
「これはひどいね・・。」
亜美に至っては、成績表を凝視したまま。
3人は真奈美の試験結果を見ていた。
「10教科中、7教科赤点って・・、大丈夫な訳?」
有希は必至に笑いを堪えながら真奈美に言った。
「さぁ?別に大丈夫なんじゃなーい。」
真奈美は気にしていない様子。
「でも英Ⅰと英文法だけは、90点台って・・・。」
亜美は点数の落差に驚いていた。
「凄いでしょっ♪真奈美、海外良くいくから♪」
真奈美は、ブイサインをして言った。
「いや、他ひどすぎて凄さ感じないから〈笑〉」
知佳は笑いが止まらない。
「海外旅行とかいーなぁ!セレブだねぇ。」
羨ましがる亜美。
「旅行じゃないよ、コンクールとか留学とかでだよぉ。」
「いや、そっちの方が凄いから!」
ピーンポーンぱーんポーン
《1年3組 前田真奈美さん、至急生徒指導室まで来てください。》
「あっ、呼び出しだよー真奈美ぃ」
「今の声、進路指導の筒谷じゃん?」
「そーいえばぁ呼ばれてたんだったぁ~だるーい。」
「ほらさっさと行きな、待ってるから。」
有希は真奈美を送り出した。
「あれ絶対試験結果の事だよね。」
知佳は真奈美の成績表を片手に持って言った。
「まぁそうだろうね。赤点7個はやりすぎ。」
有希は呆れながら言った。
「知佳、うちらも真奈美の戻り待とうか?」
「そーだね。」
「いいのー?」
有希は嬉しそうに言った。
ガラガラ
「あれ金井君どーしたの?」
「成績表持ってくの忘れたんだよ。」
野球の練習着を着た金井が教室に入って来た。
「あっ彗は大丈夫そうだった?」
知佳が金井に話しかける。
「えっ彗??あぁなんかギリギリ大丈夫だったみたいだよ、さっき意気揚々と監督に見せてたから。」
「良かったぁ。ねぇ亜美。あっ洋介くんは?てか金井君は?」
「洋介も俺も大丈夫だったよ、ヨッシーはアウトだったけど〈笑〉」
金井は笑顔で言った。
「そうかぁ良かったね~」
知佳は嬉しそうに答えた。
「彗が大丈夫でほんと良かった・・・。」
亜美は安堵の表情をした。
「じゃあな。」
「うん部活頑張れよー!」
金井が教室から出ていくと。
「さっきの話どーいう事?」
有希が知佳に聞く
「なんか、野球部全教科、50点以上取らないとレギュラー選抜試験に出してもらえないんだって。」
「まじ?大変だね~。」
「でも亜美、洋介くんのこと心配して無かったけど、心配じゃ無かったの?」
知佳は不思議そうに聞く。
「うん。だって洋介あたしより頭いいよ。」
「あれ?でも今回掲示板に名前無かったよね?」
有希は腑に落ちない様子。
「うん、たぶん最近部活も忙しいし、彗に付きまとわれてたからじゃん?」
「てゆーか、アンタら何なの!普段勉強なんてしてなさそうなのに!」
知佳は訳のわからない怒りに包まれていた。
「知佳、亜美のお兄さんが星城高校って名門なの忘れてない?それ考えたら打倒だって!」
有希は知佳の顔に近づき座った目をして言った。
「・・・あぁそー言えば・・。」
「関係ないよ、楓兄は〈笑〉どっちかって言うと、洋介のお姉さんのせいかな・・。」
亜美は苦笑いをしながら言った。
「洋介君てお姉さんいるの?意外・・・。」
「妹もいるよ、3人兄弟だからね。」
「えぇっ!姉と妹もあんな感じで無口で無表情なわけ〈笑〉」
知佳はちょっと小ばかにしながら言った。
「ぜんっぜん!お姉さんに関しては、楓兄も洋介もタジタジだから。」
亜美は笑って言う。
「そーなの?お姉さんいくつ?」
「大学1年生だから19歳かな。」
「何でお姉さんのせいで頭が良くなるわけ?」
「それは~、楓兄が中学の頃かなんかに、チョー悪い試験結果で、それを知ったマナねぇが・・。」
《回想》
ガチャンッ!!
「楓―――っ〈怒〉」
「あら、愛華ちゃんどうしたの~?楓なら2階で友達とあそ・・」
ダダダダダッッ・・
愛華は、楓の居場所を知るなり2階へ駆け上がった。
(愛華ちゃん・・どうしたのかしら・・?)
バタンッ
―ビクッッ―
いきなり部屋に押し入って来た愛華を見て、楓と友達は驚いた。
「なな、何だよマナねぇ〈汗〉ノックぐらい・・。」
「はぁ〈怒〉楓!あんたぁ試験ひどい結果だったらしいわねぇ!」
愛華の迫力に友達は怖気づく。
「それが・・?」
「橘家と関わるいじょう、そんな成績許さないわよ。あたしの価値まで下がるわっ!」
愛華は楓の胸ぐらを掴んでメンチを切った。
「・・・えぇ~そなんなぁ・・」
(言い訳したらぶっ飛ばす・・言い応えしたらぶっ殺す・・)
「なななんか心の声が聞こえるんですけどーー〈泣〉」
バサッ
愛華は楓から手を離し、部屋にいる友達も含め仁王立ちで見下しながら。
「いい、男は顔、性格、ステータスなの!バカなんて許されるかっ〈怒〉」
「は・・はい〈怖〉」
「楓~、あたしが行ってる高校のレベル以下に行ったら許さないからね。」
愛華は悪魔のような表情で楓を見て去って行った。
「てな事があって、恐怖心からチョー勉強したんだって。」
「こわぁ~。マジで洋介君の姉??言ってる内容は真奈美に似てる気もする・・。」
「洋介君があんなんになった事が理解出来る気も・・・。」
知佳と有希の顔は青ざめていた。
「お姉さんは高校どこ行ったの・・・?」
「烏ヶ森第一だよ。凄いよね~。」
「烏ヶ森第一!私立の名門じゃんっ星城よりレベル高いじゃん!」
「うん、楓もそこにしようとしたんだけど、マナねぇが『あんたが私立なんて百年早いっ』って言って星城受ける事になったの。」
(・・・すげー自己中だ・・。)
「で、でも、それからすると洋介君だいぶレベル落とした高校じゃん?」
「うん。なんか甲子園に弟が出たらそれはそれでステータス的にありとかって言ってたかな?ただ、成績は常に30位以内じゃないと許さないとか言ってたから・・・何位だったんだろ・・。」
急に心配になる亜美。
「ヤバいじゃん今回。」
「うん・・・。あたしは何とかなったけど。」
「亜美もそー言われてるの?」
「楓兄がマナねぇにシバカレルから・・。バカな女にイイ男は寄って来ないっ!とか言って。」
「大変だね・・・。」
2人は心が痛くなていた。
「あーー疲れたぁぁぁ」
「あっ真奈美お帰り!」
「たっだいまぁ~。」
真奈美の手には大量のプリント。
「何それ?」
「えー一週間後の追試までにこれ全部課題だってぇ。」
真奈美はうんざりした様子で言った。
「うわー大変そう・・・。」
有希はプリントをみて吐き気がした。
「ほんと、ペンダコなんて出来たらそうすんの?って先生にいったら怒られた。」
真奈美はほっぺを大きく膨らませた。
「当たり前でしょうが!」
有希は思いっきり突っ込んだ。
「何でよ~」
「ほら帰るよ」
知佳が鞄を手に促した。
《野球部》
「チース。」
「金井証拠の品ちゃんと持ってきたか。」
「はい。」
金井は監督に成績表を渡した。
「よし、金井は選抜試験受けて良し。」
「あざっす。」
金井は1年の集まる場所へ駆けていった。
「やったなぁ金井♪」
「はぁ?俺はお前と違って余裕ありありだから。」
「そーゆーなって、合格組は合格組だろ。」
彗は浮かれている。
「ヨッシーは?てか全体的に人数少なくねーか?」
「それがさぁ、選抜試験不合格の奴が監督の想像以上に多かったらしくて、外周20周させられてる・・。」
「マジか。良かった、合格組で。」
「だから、夏季大会のレギュラー1年でも狙えるかもよー!」
彗の目は輝いていた。
「それはねーんじゃね?」
「何でだよ森山?」
森山 博樹1年2組ポジションキャッチャー
「良く見てみろ、現レギュラーは全員残ってるだろ。」
彗はグラウンドを見渡した。
「・・・ほんとだ。やっぱ厳しいかぁ。っつーかお前もキャッチャー希望だしな。」
彗は溜息をついた。
「でも補欠枠ならなんとかいけるかもな。」
「補欠ねー。」
(ぜってぇ負けねぇけど。)
「あっそーだ。3組の相沢と日向がやけにお前の事心配してたぞ。」
「そうか、後で亜美にはお礼言わないと。」
彗は頭をかきながら苦笑いをした。
「洋介の幼馴染みだろ?何でお前の心配してんだ?」
「亜美は俺とも幼稚園からの仲なんだよ。」
「へ~。まるでタッチだな。」
「いや、俺は亜美とラブロマンスする気ないから。」
「集合っっ。」
キャプテンが号令をかけた。
「はいっ!」
監督の前に合格組全員が集合した。
野球は全員で73人。
そのうち合格組は58人。
3年22人中20人
2年26人中20人
1年25人中18人
「えー今回の夏季大会は3年の最後の大会になるが、残念ながら、内田と小山内は試合出場条件を満たさなかった。その為先ほど退部届が提出された。」
ザワザワ・・
1年がざわめく。
しかし、2年と3年は微動だにしない。
「1年はまだ分かって無いかも知れないが、東平高校野球部は、進学校の名も背負ている。赤点をとるような奴は試合参加を学校側が認めていない。それはどんな優秀な生徒でもだ。」
監督は部員をじっと見た。
「もちろん悪さなどしたら即退部。下級生いじめも勿論。そして、レギュラーの座は常に下剋上としている。今回の選抜試験に合格し、レギュラー枠を勝ち取った者も、油断すれば即補欠組と交代だからな。分かったか。」
「はいっ!」
「では、今回の試験内容を発表する。」
監督はノートを取り出した。
部員内には緊張が走る。
「えっと、明日から一週間の試験で、ポジション別に行う。あ~ポジションが決まって無い奴は希望ポジションの試験を受けろ。各ポジション毎に、体力・バッティング・守備力・の総合力で決めるからな。」
「はい。」
「で、ピッチャー3人、キャッチャー2人と各ポジション一人ずつをレギュラー枠とする。計14人だ。そして、2軍枠で、各ポジション1人ずつとする。その中から最終的にベンチ入り出来る6人を選出し、20人を決定する。以上。」
「はい!」
「じゃ、練習に入れっ」
先生の一声で、全員がいつもの練習に入った。
夏季大会のレギュラー枠争いがとうとう始まったのだ。
洋介はピッチャー枠。
彗と森山はキャッチャー枠。
金井はセカンド枠。
1年から3年までの、熱い戦いが。
《その頃》
昇降口に着いた4人の前に。
「有希っ。」
(あっ・・ワタケンだ。)
(ワタケン?)
(きゃぁ♪)
ワタケンが現れた。
3人は目だけを動かし有希を見る。
「何?」
いつもと変わらない様子の有希。
「あ、あたし達先に行くね~♪」
真奈美はニコっとしながら、亜美と知佳の手を引っ張った。
「何でっ!ちょっと、アンタの事待ってたのよっ!!」
「えっ?なにぃぃ」
真奈美達は聞こえないふりをして、ダッシュで去っていった
有希は目を大きく見開き固まっていた。
「ちょっと、真奈美~あんた何考えてるのさぁ~。」
(つーか逃げ足早すぎ・・・。)
正門までたどり着くと、真奈美は止まった。
「はぁ、はぁ、疲れたぁ~・・♪」
「疲れたぁじゃないよ~、いいの有希おいてきちゃって?」
亜美は心配そうに昇降口の方を見た。
「ふう~・・・、いいじゃん♪」
「何が?」
真奈美の無責任な言動に不信感を抱く2人。
「もう、3年だよ?もどかし過ぎると思わない?」
「3年?」
亜美は首を傾げた。
「3年って、ワタケンが有希に告白してからってことでしょ?でも、有希にその気が無いなら余計な事しない方がいいんじゃない。」
(あぁ・・そっか。)
知佳は悩まし気に言う。
「まぁそれも3年なんだけど~・・。重症なのよあの子。」
真奈美は困った顔をした。
「重症?何がよ。」
知佳は眉間に皺を寄せる。
「あんた達もたいがい鈍いよね~、有希がワタケンを好きなのも3年目ってこと。」
知佳と亜美は目を大きく見開いた。
「うそぉ~!それ真奈美の勘違いじゃないの?」
「そーだよ、仲はいいけど好きって感じじゃ無くない??」
真奈美はバカにするように溜息をついた。
「なんなのさっ〈怒〉だって、有希その後彼氏いたじゃん、ワタケンもいた時あったよね?」
「それなのよっ原因はっ!」
真奈美は知佳を指さした。
「原因?どーゆーこと??」
亜美は全く話に着いていけていない。
その様子を見た真奈美は・・・
「ワタケンが告白→自己完結→でも有希は好きだった→有希はモテる→ワタケンは友達として接する→有希は失恋したかのような気持ちになる→男から告白される→付き合う→それを見たワタケンも失恋したと思う→ワタケンを好きなマニアックな女と付き合う。」
淡々と経緯を説明した。
「・・・え?」
「でも、まず有希がワタケン好きってあたりが・・・。」
「それは間違い無いの、視線見てれば分かるよ。だってずっと友達なんだもんあたし達。」
真奈美は、優しい笑顔を見せた。
その笑顔には、いつもの真奈美とは違った有希との絆が溢れていた。
「そーなんだ。真奈美がそんな風に言うなら、本当なんだね。」
知佳も納得し、笑顔を返した。
「・・ねぇ、ちょっと分かんないんだけど・・いい?」
亜美は気まずそうに2人の目を見た。
「何?」
「何で、両想いだったのに、お互勘違いで今に至っちゃうの?好きって思ってない人と付き合えるものなの?」
真っ直ぐな亜美には理解が出来なかった。
「それは・・。」
知佳は言葉に詰まった。
「付き合えるでしょ、みんながみんな最初から両想いなんてまれ。それに、有希は自分の事をワタケンが本当に好きか確信が持てない状態で、今までと変わらない態度とられたらヤケクソにもなるでしょ。」
「そうだね。」
「しかも、それを知ったワタケンまでヤケクソになって、他の女と付き合うから、有希はもうあの告白は全部嘘だって思っても仕方ないよ~。そしたらもう、ワタケンへの恋心封印するしかないでしょ。」
「真奈美は、ワタケンが本当に好きだって事伝えなかったの?」
「言ったよー、ワタケンが他の女と付き合うって知った時に、慌てて有希に言ったら、『あの告白の時はそうだったかも知れないけど、今はもう違うんだよ。』って割り切っちゃって。ほんとは後悔してんだよ有希。あの時自分がちゃんとワタケンの気持に気づいて、自分から好きって言ってたらって。」
「なんか難しいね恋って。」
亜美は神妙に言った。
(そっか、だからあの時・・『うちらの好きなんて、思春期の魔法なんだよね。どれだけ好きって思ったってすぐ心変わり出来ちゃうんだから。ただ、手遅れになって悲しむような想いは、して欲しく無いかな。』って言ってたんだ・・。)
知佳は有希の言葉を思い出していた。
「どーしたの知佳?」
無表情で黙り込む知佳に声をかける亜美。
「何でもない。よし、有希の恋を応援するぞー!」
知佳は笑顔で腕を振り上げた。
「そーこなくっちゃ!」
亜美と真奈美も嬉しそうに両手を振り上げた。
「おー」
「ってゆーか、うちら上履きのままなんだけど。」
ハッッ!!
その後、有希が昇降口から出てくるまでに時間はかからなかった。
何事も無かったかのように颯爽と歩く有希の姿を隠れて見る3人。
そこにワタケンの姿は無かった。
有希が通り過ぎるのを待ち、靴を履きかえ家路に着いた。