月日は流れて-4
-- side ショウ --
「う・・・ん・・・・ここは?」
気がつくと白を基調とした清潔感が溢れている部屋に居た。
どうやらベッドの上で寝ていたみたいだ。
「あら?目を覚ましたようね。」
声が聞こえたのでそちらを向くと、よく知った女性が立っていた。
「リーネさん?じゃあここはギルドの医務室ですか?」
「そうよ。あなたは医務室に運び込まれたってわけ。」
リーネ・アシュリー、ギルド専属の医者だ。
見た目は若く、ギルド員の中では人気がある女医である。
その年齢は・・・聞いた事がないが、前に先輩ギルド員が「俺が新人の時にはすでに居たな」と言っていた。
おそらく40代後半は軽くいっているハズなんだけど・・・
「今失礼なこと考えてなかった(*゜∀゜)」
やばい・・・殺される・・・・・・
「はぁ~まぁいいわ。動けそうならマスターが聞きたい事があるから部屋に来てって言ってたわよ?」
「ギルドマスターが?」
ギルドマスターはこの支部で一番偉い人、俺みたいた下っ端にようがあるとは思えないけど・・・
「わかりました。マスタールームで良いんですよね?」
「そうね。部屋に来てと言っていたからマスタールームで良いんじゃないかしら?」
リーネさんの返事を聞き、とりあえずベッドから立ち上がる。
「おっと・・・」
部屋のドアに向かっている途中で少し躓いてしまった。
「大丈夫?もう少し休んでいく?」
「いえ、マスターが待っているなら休んでなんかいられませんよ!」
リーネさんが気を使ってくれたけど、実際マスターを待たせるわけにも行かない。
これは別にマスターが怖い訳ではない、むしろ俺はマスターに憧れている。
強く優しいまさに父親の様なマスター。
接点は少なくとも俺以外にも憧れているギルド員はたくさんいるはずだ。
「そう、気をつけて行くのよ?」
「わかっています。ありがとうございました。」
俺はリーネさんに一礼し、医務室を後にした。
医務室はギルドの入り口近くにあり、マスタールームはギルドの最奥。
「ここからだと少し距離があるけど、マスタールームに入るのは初めてだし、緊張をほぐしながら行くとするか。」
だがその願いも虚しく、あっという間にマスタールームの前に着いてしまう。
はぁ~もう少し心の準備が欲しかったけど仕方ないか・・・
コンコン・・・
「マスター、シュウ・です。」
ノックをし名を告げる。
「どうぞ。」
部屋の中から若い男性の声が聞こえる。
マスターの声だ。
「失礼します。」
俺は緊張しながらマスタールームへと入室した。
部屋は一般的な応接室を思い浮かべてくれ。
部屋の奥の机の上には山積みになった書類とそれを捌いているギルドマスターが居た。
「そんなに緊張しなくても良いよ?それより体の方は大丈夫なのかい??」
どうやら緊張していたことはバレているらしい・・・
「はい、体の方は特に異常は無いです。強いて云うなら、少し怠さが残っているぐらいですかね。」
「なら良かった。ちょっと待っててくれ。今お茶を淹れるから。」
そう言ってマスターは部屋の隅にあるお茶を入れようとする。
「ちょっと待ってください!マスターがそんなことをしなくても良いです!俺がやりますから!!」
当然、俺は慌てて止めようとするが、
「ダメだ。君を呼んだのは私だ。つまり私がホストで君がゲストだ。―――まぁ同じギルドの家族に『ゲスト』と言う言葉使いたくないがね♪」
と言い、俺をソファーに座らせて自分でお茶を淹れてしまった。
「・・・ありがとうございます。ところで、俺はなんで呼ばれたのでしょうか?」
正直、マスターに呼ばれる理由など俺には予想が付かなかった。
「あぁ、それなんだが、君は街の近くの森で大きな爆発音がしたのを知っているかな?念のため、ギルド員数人で小隊を組ませて調査に向かってもらったんだが、現場と思われる場所には大きなクレーターを君が倒れていたらしい。」
なるほど、まさに俺は当事者のようだ。
「そのクレーターはたぶん俺ですね。実は・・・」
「なるほど、シルバーウルフか―――それに【自爆呪文】を使うとわな。よく生きていたもんだ。」
マスターは俺が【自爆呪文】を使ったと聞いて驚いていた。
確かに、あの魔法は誰でも使えるが自分の命と引き替えのため、使った後に生きていた人間など聞いた事がない。
「そうですね。俺も死んだと思っていました。でもアイツに助けられたんです・・・」
「?アイツ??」
「はい、【自爆呪文】を使って死にかけていた俺を助けてくれたのは『スライム』なんです。」
「『スライム』??」
マスターの顔が疑問符で一杯になる、それはそうだろうな。
俺もスライムに助けられたを聞けば同じような顔になる自信はある。
「はい、『スライム』です。そいつは傷ついた俺の体を魔法で再生したらしいです。」
「『スライム』が魔法を・・・いや、その前にそれは『誰から』聞いた??」
うん、俺は当然死にかけていた訳だし、直接見ているはず無いから、そうなるよな・・・
「それがですね、その『スライム』から聞いたんです。」
「っな!『スライム』が喋ったのか!?」
「はい、私の幻聴でなければアイツは喋ってました。それも明らかに高い知能を持っています。」
「うう~ん、にわかには信じ難いが、君が嘘をつく理由も無いしな。だとすれば、なぜソイツは君を助けんだんだ?」
「アイツは俺に世話になったと言っていました。ただ、俺にはそれなんだかわかりません。」
「ふむ、なぜ君を助けたのかは気になるが、少なくともソイツは君に危害を加えなかったと言うことか・・・」
マスターは何かを考えるように腕を組んで黙ってしまった。
しかしホントになぜ俺を助けたのだろう?
俺とアイツは俺が覚えてる限りは初対面、むしろ俺は今まで他のスライムはたくさん殺してきた。
アイツにとっては俺は同族の敵のはずなんだけど。
―――これ以上考えても仕方ないか。
次にアイツに会う機会があったら必ず聞いてみよう。
「シュウくん。ありがとう、もう席を外しても構わないよ。」
「はい、すみませんでした、あまり役に立たなくて・・・」
「いや、そんなことはないさ!少なくともその『スライム』に関しては興味深い話だったよ。」
おや?どうやらマスターはアイツに興味を持ったようだ。
「マスター、アイツを討伐するんですか?」
アイツは俺の命の恩人だが、魔物であることに変わりない。
もしマスターがアイツの討伐命令を出すなら、俺はそれに従うつもりだった。
「ん~どうしようかね?人間の言葉を喋り、魔法も使えるスライム。ぜひ一度私も話をしてみたいと思うけど、今のところ討伐しようとは思ってないよ。」
「そうですか、しかし話をしたいと言うことは探しはするんですよね?」
「それもちょっと悩んでいるんだよね。そもそも私達にはスライムの区別なんかつかないだろ?その状態で探すのはかなり無理があると思うんだよね。」
確かに、いくら話ができるとしても、見た目はスライム。
探すのはかなり骨が折れるだろう。
なんと言ってもスライムはこの世界で一番数が多い魔物だから・・・
「まぁ、見つけることが出来れば僥倖っと言ったところかな?少なくとも公に探す気はないさ。」
「わかりました。では俺はこれで失礼します。」
俺はマスターに一礼し、マスタールームを出ると、そのままギルドの訓練場に向かって歩きだした。
マスターには言ってなかったが、アイツは俺に『何か』をした。
それは殆ど直感の範囲だが、当たっていると思う。
訓練場はギルドの地下にあり、広さは学校のグラウンドほど。
訓練場全体に自動修復の魔法がかかっており、どんだけ派手に壊しても自動修復してくれる。
幸い訓練場に他のギルド員はいなかった。
「出来れば人に見られたくないからな―――」
俺は上着を脱ぎ、全身の魔力を高めていく。
医務室で休んだからか、すでに俺の魔力は全快している。
・・・・・・いい感じだ、普段の俺の魔力より量が多いし密度も濃い。
実は魔力もそうだが、身体能力もかなり上がっている。
さきほどマスタールームに向かっていた時に少し転びそうになり、思わず壁に手をついたら、そのまま壁をぶち抜いてしまった。
恐らくアイツが俺の体を回復させるときに何かやったのだろう。
俺は全身に満遍なく魔力が循環したことを確認し、拳に魔力を集中させる。
そして―――思いっきり地面を殴った!!
「いやいやいや、なんでここまでパワーアップしてるかねぇ~」
俺はまたクレーターの中心にいた。
それも【自爆呪文】を使った時にできたクレーターよりも深いところに。
「まさか殴っただけでここまでとは・・・・・・アイツめ、サービスにしてもこれはやりすぎだろ!?」
どうやら俺は怪物並の体にされたらしい・・・
これは喜ぶべきなのか、悲しむべきなのか。
俺が考えていると訓練所の外が騒がしくなってきた。
どうやら今の音を聞いてギルド員たちが集まってきたみたいだ。
「はぁ~これは言い訳できないかな?」
訓練場のドアが開きマスターが入ってくる。
どうやら俺の苦労はまだ続くらしい―――
-- side out シュウ --