龍が笑った
深夜のテンションで書き上げた物です。本当にテンションだけで書き上げました。
「今日も泣いてるな…」
呆れたように漏らした呟きを、隣に座っている少年が拾って問うた。
「最近いつも泣いてない?」
「ああ。……でかい声だな」
泣き止んでくれないかな。と思った。
あの泣き声は聞いていてこちらが悲しくなっている。どうしようもないのは分かっているが、泣き止んでくれるには一体どうすればいいんだろう。
「そんなこと言われてもね。俺聞いたことないし」
「独り言だ。……そうか、お前は聞こえないのか。なら仕方ないな。とっととここから消えろ」
この目の前の男も、訳が分からない。それは出会った当初から変わらない。
「やだよ」
あっさり返された言葉に間髪入れず舌打ちしてやったら、さすがに驚いたのかこちらにむけた顔が引きつっている。
「うわー、人に聞こえるように舌打ちつく普通!」
「はっ。あいにく私は普通じゃない」
「それもそうかー、“龍神の愛し子”さん?」
確かに愛されている。ごくごく一部には。声が何処にいても聞こえてしまうのが難点だが、愛されているのは確かに事実だ。
その一部以外はまったく正反対の感情を抱いているのだろうが。
顔なんてゆがめない。そんなかわいげはとっくのとうに捨てている。だから明るく言ってやろうと思ったが、失敗してしまったかも知れない。
「…むしろ忌み子の方がふさわしいけどな」
「へー、そうなんだー」
こちらは結構気を張って言葉にしたのに、かえってきたのは何とも気の抜けた声だった。拳を握って男の目の前につきつける。
「……殴っていいか?」
「止めて! 半龍神の君に殴られたら死んじゃう!」
「死ぬようなタマじゃないだろうが“漆黒の堕天使”が」
「いや-! 止めてそんな風に呼ばないで-!」
男はいつも飄々としているが、その呼び名は本当に嫌っていた。嫌っているというか、いやがっているといったほうが正確だろう。
顔をゆがめる男にあえて笑ってやる。
「はっ。せいぜい光栄に思えよ。堕天使殿?」
「最初に言った奴をマジでぶっ殺そうと思っている今日この頃」
「ぶっ殺したところで呼び名は消えないがな」
「俺の気は紛れる」
「そうか。私を巻き込まない程度に頑張れ」
「何だ何だ冷たいなー」
男はそう言ってこちらに体重を寄せてきた。それに眉をよせつつ、男の方をちらりと見やる。
「お前ほどでもないだろ。堕天使殿」
自分といるとこんな風に緩い態度しか見せないが、こいつの本性はもっとおそろしい。
いつも飄々としていて、中身を見せない。力が強大なだけにやっかいで、周りの人間はいつこいつの機嫌を損ねてしまうんじゃないかと恐れている。
興味のある者には優しいが、それ以外には冷たい。冷たいというよりも、無関心だ。
そんな男は今自分に寄りかかりながら、苦々しい顔をしている。
「…マジで止めて死ぬほど恥ずかしいから」
「嬉しいのか?」
自分がからかっても本気で怒ることはしない。友人なんだろうな、と思う。
「吐き気がするって言いかえた方がいい? 愛し子殿」
「別に」
「愛し子殿はスルー?」
「私は呼び名などどうでもいい」
その言葉に嘘偽りはない。無いがはっきりと言ってしまえば、愛し子よりも男の二つ名の方がよっぽど恥ずかしい。正直、自分についたら憤死か悶死する。
言わなかったのにそれが伝わったのか、男は不意に意地の悪い笑みを浮かべた。
「ほ-? 言ったな?」
「ああ」
「じゃあ、ユキセちゃん」
「何だ」
「ユキっち」
「何だと言っている」
「ユッキー」
眉が上がったのを感じた。その呼び名はちょうど最近知り合った小等部の子に言われたあだ名だ。
あだなは名前にちなんだものにするのが普通なのだが、小等部の女の子と高等部の男が同じあだ名を考えるというのもいかがなものか。
「…安直だな」
「…結構本気で傷ついたわ今…」
さらにこちらに体重をかけようとしてきたのでいなして地面に落とす。うつぶせになってなにやら呟いているのはそんな言葉だった。
そんなに酷い言葉だっただろうか。こんなからかいで傷つく男ではないと思ったのだが。
「事実だから撤回しないぞ」
「はあ。じゃああだ名つけるのは諦めるよ」
「そうした方が良さそうだな」
「うん。ハニーって呼ぶよ」
ゆっくりと地面から身体を起こして淡々とつむがれた。だから反応が凄く遅れてしまった。
「あ?」
「何でもいいんでしょ? ハニーは」
「ふざけ……チッ…ああ。いいぞ」
自分の言ったことを覆したら、何か負けた気がする。意地になってそう言うと男は楽しそうに笑った。なにやら嬉しそうだ。と、思ったらなにやら顔を赤らめながらもじもじしだした。気持ち悪い。
「俺のこと、ダーリンって呼んでも…いいよ?」
「呼ぶか。フォルテと名前を呼ぶだけでも感謝しろ」
男、フォルテ=ルーテス=アーディンティオのことははじめ普通にアーディンティオと呼んでいた。長すぎるな、と思っていたら名前で呼んでくれと言われたのでそう呼ぶことにしたのは、割とつい最近。
「名前呼びも嬉しいけど! だってそれじゃあ俺の片想いみたいになっちゃうよ!」
「事実そうだろ」
「え、ハニー俺の気持ち知って…」
またもじもじしだす男の頭をはたいた。
「出会った瞬間に“好きですつきあってください”って言ったのは何処のどいつだ」
「ここの俺ですね。ていうかよく覚えてるねー! 一語一句正確に」
「忘れようにも忘れられないんだよ…」
思い出してうなだれているとフォルテも思い出したのか、ふむふむと頷いている。
「いやー、あの時くらいだよ。ハニーが驚いた顔したの」
「ああ。学園に入って初めて顔に出すほど驚いた」
「俺…ハニーのハジメテ貰っちゃったんだ…」
「ああ。…ツッコまないからな」
「えー、構ってー」
またのしりと体重をかけらた。鬱陶しいことこの上ない。が、今度は体重を考えて寄りかかっているのでその努力に免じて退かせるのはやめにした。その代わりに手をまたグーにした。
「殴るぞ。…大体、あれは一体何のバツゲームだったんだ?」
「人の大告白をバツゲーム扱い!?」
男は目に見えて傷ついた、という顔をしている。信用ならない顔である。なまじ顔が良いだけに詐欺師に見えてくる。
出会った当初のことは、今でもはっきりと覚えている。思い出しているとため息がもれてしまった。
「『赤いアフロかぶって廊下のど真ん中でスライディング土下座をかましながら適当な奴に告白しろ』と言われたらお前はなんて答える」
「それなんてバツゲーム」
「…」
「待った待った。俺が悪かった。…でも、一個間違ってんだよねー」
「何がだ」
間違っているのはお前の頭だろう。そう言おうと思ったが、男の声が真剣みを帯びていたため、素直に返す。
男は私から身体を離した。一度立ち上がると向かい合うように座り直した。そのせいで、真剣な顔が目の前に来る。真剣な男は語り出した。
「ある日の俺は、ある奴に相談したんだ。『好きな子に告白するにはどうすればいいか』」
「…へぇ」
「んでさ。そいつが『お前に好きな子ぉ!? ………………分かった教えてやる』って言ってさ」
「その間の意味が私にはよく分かる」
恐らく信じられなかったに違いない。自分だったら信じない。
そして、今は違った。
「俺も自覚はしてるけど。んで、『赤いアフロかぶって廊下のど真ん中でスライディング土下座かまして好きですつきあってください!って言えばいいんだ』と大まじめな顔で言われまして」
「……そうか」
「違い分かる?」
「……まあ」
本当に?と重ねる男は、一体自分をなんだと思っているのだろう。そこまで鈍いつもりはない。恋愛経験などゼロに等しいが、それでもさすがにここまで真剣に言われれば分かる。
「適当な奴、じゃなくてユキセ相手だったらそれはバツゲームじゃないよ。やらなくちゃいけない、やりたいことの一つだよ」
「…そうか。悪かった」
謝ると男はきょとんとして首をかしげた。
「それは何に対しての謝罪? 『バツゲームならよそでやれ! この変態が!』って問答無用でかかと落とししたことに対してはまったく怒ってないよ? 初の告白にテンパリ過ぎて真っ赤な俺の顔を違う意味で真っ赤に染め上げたなんて、ホント怒るはずがないじゃんか」
「怒ってるぞ」
はは、と男は笑って手をよこに振っている。怒っている。怒っているとこういう風に笑うのかこいつは。しかし、私には怒っていないようだった。
「怒ってない怒ってない。馬鹿の言葉を鵜呑みにした俺が悪かったんだから」
「そうか。……ちなみに、その馬鹿とやらのその後を聞いてもいいか?」
「ん? あー、うん。まぁ、…元気…?」
ちょっと嫌な予感がしたので聞いてみたら、案の定。
「…疑問系か。ちゃんと言ってくれ」
「学園内の下水道に突き落としました」
「なっ!」
「あ-、嘘だよ? いや嘘ではないけど後でちゃんと助けに行きました」
「そうか…、ならいい」
何だ泥水にまみれただけかと、私は胸をなで下ろした。
後から知ったが、泳げないそいつが下水に突き落とされおぼれ死ぬ一歩手前に助けられたという話だったのだが。
男は私の反応が意外だったらしく眉をあげて首を逆に傾けた。先ほどから小首をかしげているが大の男がやっても何も可愛くないことをそろそろ自覚しろ。
「いいんだ? そいつ水に対してトラウマ持っちゃったけど」
「自業自得だろ」
言い切ると男は大まじめな顔で大きく頷いた。力強く。
「その通りだね。…で? 告白の、答えは?」
「…ああ」
「冗談なんかじゃないよ。シチュエーション的には冗談にしか見えなかったけどね…」
「自覚してたんだったら止めておけば良かったじゃないか」
呆れてそう言うと、男は軽く苦笑した。
膝の上で頬杖をついて明後日の方を向いた。
「『こうでもしなきゃ本気に取ってもらえない』って言われたから」
「……なるほど。確かにそうだな」
「うん。俺もそう思った。でも今言ったら本気って分かってくれるよね」
「まあな」
「…ちゃんと言い直すから、聞いてくれますか?」
「ああ」
少しだけ、ドキドキする。告白というものはどれだけされてもされなれない。それほどされているわけではないし、中等部を超えた辺りからめっきりなくなったんだけど。
そうか、久しぶりだからかもしれない。胸の鼓動が早くなる。
フォルテのこういう顔が好きだからかも知れないな。端正な顔を眺めながらぼんやり思った。
「俺、ユキセが本気で好きです。結婚を前提につきあってください」
好かれているだろうと思ったが、恋愛感情で、しかもあの告白が本気の物だとは思っても見なかった。いや自分は絶対悪くない。誰だってあれが本気だと思うわけがない。
だけど、本気だった。男は本気で私を愛している。目を見れば分かる、なんて言うつもりはない。男の言う言葉を信用しよう。
だからこそ真剣に考えようと思う。けれどまず気になるのが。
「…結婚…か」
ぽつりとつぶやいた言葉に男が何を思ったのかは知らないが、なにやら焦ったように言葉を紡ぎ出した。
「したいよ。…事前に言っておくけど、俺重いからね?」
「重いったって…、どのくらいだ」
「君に近づく男何人か病院送りにする程度には」
「…そうか」
高等部から誰にも告白されなかったのは、もしかしてこいつが原因か。自惚れた考えかも知れないが、こいつの言葉はきっと事実なのだろう。
確かに重い。そう思っているのが伝わったらしい。男は心を決めたように力を込めてでも、と続けた。
「…俺だって男だから。フラれたらきっぱり諦める。絶対に」
「そうか。……難しいな…」
「難しい…?」
難しいのだ。
男は訝しげな顔を隠さない。そういう顔をしていると、少しだけ怖く感じる。なにやら怒られている気分だ。実際この男に怒られたとしてもたいしたことにはならないのだろうけど。こいつは甘い。惚れた弱みだったらしいが。
フォルテは答えを待っていた。本当は誰に告げるつもりもなかった。幼なじみしか知らない、私の将来。
誤魔化すなんてとんでもない。こいつは、私にとって大切な友人の一人で、自分の気持ちを真摯に伝えてくれた。こちらはそれに応えるべきだ。
声が震えないように、つばを一度飲み込んだ。
「……結論だけ言うと、ここを卒業するまでなら付き合える」
「…納得いかない。全部話して」
だろうな、と苦笑しようとして失敗した。声は、結局震えてしまったかも知れない。
「私は、龍と人の間の子だ。成人を迎えると同時に龍型となることが可能になる。そのあとすぐにこの学園を出て巣に帰る。そして、そこにいる男の誰かと契ることが決定している」
「決定してるの?」
「ああ。それが生まれることを許された理由だからな。…龍の女は男と比べてかなり少ない。例え疎むべき間の子でも、子だけは残しておきたいらしい」
「その男と夫婦にならなくちゃいけないの?」
「別に? 私の生殖機能が無くなったあとは、好きにして良いと言われている」
いくら見た目が人であろうとも、自分は人はない。だから人扱いされていない。だからといって龍扱いもされない。
きっとあいつらにとって自分はただの子供産み器なんじゃないかと思う。気色が悪い。気持ちが悪い。許されるなら逃げ出したい。
「……それ、君は納得してるの?」
残酷なことを聞く。
ふ、と口元に笑みを乗せると男はゆがめていた眉をさらにしかめさせた。お前が怒ることなのだろうか。怒ってしまうほど、私を好きでいてくれるのだろうか。
「…それは聞くな。しなきゃ殺されるんだから」
私が諦めているというのに気づいたのか、フォルテは一瞬泣きそうな顔になった。
「っ……抵抗、できないの? お義母さん龍神なんでしょ?」
「ああそうさ。怒り狂った龍神は私を殺した龍を虐殺したあとついでに人間も滅ぼしにかかるだろうよ」
母は父が死んでから少しだけおかしくなってしまった。長く生きすぎたため壊れてしまったのだと思う。もしその中で、自分が死んだらもう駄目だ。壊れて狂ってしまう。何もかも壊し尽くしてしまうだろう。そうしてしまえる力さえある。
何も出来ない自分に嗤っていると、男はすこしだけふざけた様子で笑った。
「うわ、お義母さんにすっごい愛されてるんだね」
「まぁな。…ん?」
「どうしたの?」
声がしなくなった方を見やる。この遙か先には自分が生まれた巣がある。その山の頂上には母がいて、つきさきほどまで泣いていたのだが。
それなのに、今は何も聞こえなくなっていた。
「もう泣き止んでる…。珍しいな…」
「もしかして、お義母さん?」
「ああ」
「そっかー………お義母さん娘さんは僕が守りますからー!」
「何言ってんだお前」
いきなり立ち上がって母がいる方へ叫んだ男に、思わず間髪入れずにツッコんでしまった。しまった。構ってしまった。どうせいつもと同じおふざけに決まっているのに。
と、思ったのがばれたのだろう。
フォルテは見上げる私と目を合わせた。その顔は、今までみたこともないほど力強い表情だった。
「守るよ。絶対守る。龍がいくら来たって返り討ちにする」
言葉さえ。
酷いな。知らずに目をそらしていた。こいつが力があるのが、本当に酷い。期待してしまうじゃないか。
「…無理だろうが。龍をなんだと思ってる」
「ううん。“漆黒の堕天使”の名にふさわしく、全部地獄に突き落としてあげる」
「…フォルテ。それは無理だ」
首を振って名前を呼ぶと男はあっさり頷いた。
「そうだね。今は無理。でもまだ三年あるし。三年あれば何とかなる」
「夢物語だろ」
期待なんてしたくない。
自分だって刃向かったことくらいあるんだ。そのとき味わった絶望感を、また味わいたくない。
「絶対やり遂げる。だからさ。卒業まで、なんて言わないでずっと一緒にいようよ」
声はとても優しかった。
期待などしたくない。その言葉に嘘偽りはないというのに自分は、男に期待してしまっている。心を傾けはじめている。
何より、ここまで断言してくれることが嬉しかった。そして、興味が凄くわいた。
そこまで言ってくれるなら、見せて貰おうじゃないか。
「…分かったよ。じゃあ私も、せいぜい鍛えるか…」
「え、いいよ止めようよ」
慌てて止める男に首をかしげてしまう。しまったこの仕草は大の大人がやるべきではなかった。そんなことを思いつつ男に問いかける。
「何でだ。お互い強くなった方がいいだろうが」
「いいいい。……力ずくで良いように出来なくなる…」
「わざとかわざとじゃないかは知らないがしっかり聞こえてるからな?」
「あのときのかかと落としマジで痛かったんだって…」
フォルテは力なく言った。たしかにあのかかと落としは大分力を込めた。これ以上ないというほどに。
そして、告白のことも同時に思い出しそしてさらに大事なことを思い出した。
「それで思い出した」
「ん?」
「私自身の気持ちを伝えてなかった」
目を合わせてそう伝えると、フォルテは一瞬とても虚をつかれたような顔をしたあと眉を寄せて苦笑いした。さらに、思わずといった風に立ち上がり何歩かあとずさった。
「おおおおお。……うん。心の準備オーケー」
深呼吸までしだす男に呆れてしまう。龍相手には滅ぼしてやるとまで言えるのに、この差は一体なんなのだろうか。
「告白しといて何言ってんだ」
龍のことは触れずにそう言うと、フォルテは誤魔化すように咳払いしたあと促すように手のひらを向けた。
「いやうん、何でも無いよ気にしないで」
「…私は、お前のことが嫌いではないが特に凄い好きってわけではない」
「ぐふっ! …いきなりどぎついな…」
淡々と伝えていくとフォルテが傷ついていった。傷つかせるというのは少し申し訳ないと思うが、自分の気持ちはしっかり伝えておくべきだと思う。
何も、両想いというわけではないんだぞ。
「会う前からその強さに対して尊敬を抱いていた。だが、会話してみたらアホ以外の何者でもなく」
「…もう一回下水落とそっかな…」
「やめとけ。…で、その後話すようになってなんだか友人のようになった」
「……うん、それは否定しないけど」
フォルテは複雑そうだった。好きな人間に友人扱いされたらそうなるのも無理は無いか。
「つまり、お前に対して恋愛感情は抱いていないんだ」
「分かってた。分かってたけどさ…」
うなだれるフォルテにフォローを入れるように咳払いして続けた。
「だけど、これからは変わるかも知れない」
「…うん。そうだね。前向きに検討されてただけ希望はある」
「希望というか、もう将来の約束までしあった仲だけどな」
「そうだけどね。気持ちが伴わなくちゃ意味がないと思うんだよ」
同じことを思っていた。それがとても嬉しくて、頬がゆるむ。
「……そうだな」
「だから、正直に話してくれて嬉しい。…まぁ、ハニーにダーリンと言って貰うには俺が頑張るしか無いってことだろうな」
どうしてずっとまともにいられないのだろうか。またおかしなことを言い出した男にため息をついてしまった。
「…恋愛感情を抱いたとしても、それで呼ぶことは無いぞ?」
「まぁまぁ。じゃあ俺はこれから頑張るとしますかね。お義母さーん! 俺相手なら良いってことでオーケーだよねー!」
男の声が聞こえたのかどうかは知らない。
けれど母は反応を返してきた。しかもかなり珍しい反応を。
「…驚いたな。笑ってるぞ」
「じゃあオーケーってことでオーケー!」
「何言ってんだ」
「親公認ってこと。これで何してもいいわけだ」
苦笑するとそんなことを言われた。その言葉になにやら不穏な響きを感じて思わずあとずさった。
「……いや、何をしてもってわけじゃないぞ!」
フォルテが距離を縮めていく。
待ってくれ。私は気持ちは変わるだろうと言ったが何をしても構わないとは一言も、ひとっことも言っていない。
何かされるなんてまっぴらごめんだ。さらに逃げようとする私を強引に捕まえて、フォルテは艶やかに笑った。
「いやいや。さんざん待ったご褒美くらい頂戴よ。ハニー?」
##### 後日談1 ######
「それで、つきあうことになったのか?」
「紆余曲折ありましたけどねぇ…」
「はぁぁ…良かったな! これもきっと俺のアドバイスのおかげだぜ」
「それなんだけどさあ」
「ん?」
「『赤いアフロは余計だった』ってさ」
「は?」
「『スライディング土下座は良い。真剣に見える。だがアフロかぶったらバツゲームにしか見えない』だって」
「…そうか」
「アフロなかったら出会い当初につきあっても良かったんだってさ」
「ほー……そうか」
「どしたの? 何で逃げるの?」
「何で寄ってくるんだお前! 絶対怒ってんだろ!」
「いやいや。怒ってない怒ってないよー」
「怒ってる奴はみんなそういうんだよ!」
「酔っぱらいじゃないんだから」
「同じようなもんだ。いいいい、いいから、来るなぁ!」
「おい、どうした大丈夫か?」
「あ、メシア! メシア様! どうかこいつ追っ払ってください!」
「はあ? ユート何言ってんだお前…ってあれ、フォルテ?」
「………ユキセ、こいつ知ってたの?」
「知ってたも何も幼なじみみたいなもんだぞ。放置された私をこいつの母さんが育ててくれたんだ」
「ちょ馬鹿! そんなことこいつに言ったら…!」
「幼なじみ、ねぇ…」
「いやいやいや。幼なじみっつったって俺がここ入学してからは寮生活だったんだし、よっぽどお前との付き合いのが長い!」
「それでも俺とユキセよりはずっと長いよね。しかも、育ててくれたってことは一緒に住んでたわけだし」
「…小さい頃の話だからな? 妬いたところで疲れるだけだぞ?」
「疲れる疲れないの問題じゃないの! 気が済まないんだよ!」
「頼む済んでくれ…!」
「…まぁ、協力してくれた訳だし許してあげるよ」
「ホントか!」
「………」
「これ一発で許してあげよう」
##### 蛇足でしかない後日談2 ######
「お前の羽って綺麗だよな」
「そ、そう?」
「私の羽はごつごつしてて結構固い。ちょっとうらやましいな」
「ハニーも羽あるの?」
「ああ。部分的な龍化なら半人前の私でも可能だ。だがやるつもりないぞ? あれ、結構疲れるんだ」
「そうなんだ。でも出し入れ可能ならそっちの方が良いよ絶対」
「やっぱり邪魔か?」
「邪魔だよ! これあるから俺仰向けに寝れないんだよ!? これじゃあいつまで経ってもきじょ」
「むしってやろうかこの羽」
ここまで呼んでくださって有り難うございます。楽しくなってきたので、二人が出会ったときの話や親友視点の話も書いてみたいと思ってます。