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第七章:「友達としてできること」

私はいつもひなのことをよく見ていた。

ひなの笑顔が好きだし、ひなのちょっとした仕草に気づくことができる自分が誇らしいと思うこともある。

けれど、最近のひなは様子が少しおかしい。

それがわかるのは、長い時間を一緒に過ごしてきたからこそだと思う。


「ひな、最近ちょっと元気ないよね?」


私はあえて軽く言ってみたが、ひなは少し笑っただけで、目を逸らした。


「ううん、大丈夫だよ。ただちょっと仕事が忙しくて。」


その言葉を信じるのは、到底難しかった。

ひなの笑顔にはどこか力がなく、目に浮かんだ疲れた表情が消えない。

ひなはいつも、自分の感情を他人に見せないタイプだった。

それが逆に、私にとっては心配の種であり、寂しささえ感じさせた。


「…本当に大丈夫?」


ひなの顔をじっと見る。

ひなはしばらく黙っていたが、やがて少しだけ首をかしげて答えた。


「本当に大丈夫だって。ただ、ちょっと考えることがあって…。」


考えること、か。

私はその言葉が意味するものを、何となく感じ取っていた。

ひなと仁さんとの関係が、どうも上手くいっていないような気がしてならなかった。


ひながホストクラブに通い始めた時のことを、私はよく覚えている。

最初は軽い気持ちだった。友達として、ひなの癒しになればいい、ただそれだけ。

でも、気づけばひなは仁さんに対して、ただの「癒し」だけではなくなっていた。


私はそのことに少し戸惑っていた。

ひなは恋愛に関しては慎重なタイプで、感情を大事にする。

だからこそ、仁さんとの関係がどうなるのか、不安で仕方がなかった。


(ひながあんなに気にするなんて、何か変だよな…)


自分の胸の内でつぶやいた。

ひなが仁さんに対して抱えている気持ちが、どうしても心配で仕方がない。

ホストという職業そのものを否定する気持ちはない。

ただ、その関係にはお金が発生するのも事実。

お金を払って会いに行き、そして他の女性と接する仁さんを見て、ひながどんな気持ちになるのか…。

私だったら耐えられないと思った。


ひなが仁さんに心を寄せていることに気づいたとき、私はどうしていいか分からなくなった。

ひなが傷つかないようにと思いつつ、どうしても「その先」を想像してしまう自分がいた。


ある日、仕事が終わった後、ひなと一緒に帰る途中で、私はずっと心に抱えていた思いを口にした。


「ひな、最近、仁さんのことどう思ってる?」


思わず質問してしまったその言葉に、ひなの顔が一瞬固まった。


「どう、って…?」


ひなはあまりにも自然に問い返したが、その反応に私は何かを感じ取った。


「いや、なんか、最近ちょっと元気ないから。仁さんのことが原因じゃないかと思って。」


私は少し言葉を選んで言った。


「…ひなが辛い思いをしてるんじゃないかって、心配なんだ。」


ひなの顔色が変わった。


「…そんなことないよ。でも、最近、ちょっと考えることが多いだけだから。」


ひなのその言葉に、私は深く息をついた。

やっぱり、ひなの心の中に仁さんがいる。

それがいいことなのか悪いことなのか、私にはわからない。


「ひな…?無理しなくていいんだよ。」

「私、ひなが無理してるのは嫌だよ。もし、辛いなら話してほしい。いつでも聞くから。」


ひなはしばらく黙って歩いていたが、やがてふと笑顔を作った。


「ありがとう、杏奈。でも、本当に大丈夫。ちょっとだけ、仁さんのことを考えてるだけだから。」


その笑顔が、私にはとても痛々しく見えた。

ひなはどうしても、自分の感情を他人にさらけ出さない。

でも、私にはわかる。ひなが今、どれだけ悩んでいるのか、どれだけ心の中で揺れ動いているのか。

だからこそ、ひなを支えてあげたかった。


(ひなが辛いなら、私もどうにかしてあげたい)


私は心の中でつぶやいた。


「仁さんのこと、ちゃんと話してほしい。何かあったら、私も一緒に考えるから…ね?」


ひなはその言葉に、少しだけ頷いた。


「うん、ありがとう。考えてみるね。」


その言葉を聞いて、私は少しほっとした。

ひなが少しでも、自分の気持ちを整理してくれるなら、それが一番だと思った。


私はひなの心の奥にある“本当の気持ち”を知りたかった。

そして、ひなが本当に幸せになるためには、どうすればいいのか、考えてあげたかった。

ただ、今はただ見守ることしかできない自分に、とてももどかしさを感じていた。

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