第五章:「彼との距離」
「今日もありがとう、じゃあまた。」
何度目かの夜。
仁さんの言葉はいつも通り、素っ気ない。でもどこか優しさが滲んでいるようにも感じていた。
初めましてをしてから数か月、何度か顔を合わせている。
彼のことを見ているうちに、私はふと見せる笑顔の裏にある寂しさや苦しみを感じるようになった。
ホストクラブに通う理由は、「癒し」それだけだった。
あの夜の後、杏奈と一緒に行くようになった。最初はただの「推し」そんな感覚に近かった。
でもどこか、心の中で彼がただの「推し」ではなくなっていくのを感じていた。
最初は仕事の疲れを癒してもらうかのように、軽い気持ちで会いにいっていた。
月一の楽しみ。それが仁さんに会うことだった。
でも今は、あの笑顔が見たくて、あの目に自分が映るのが嬉しくて、自然と足が向かう。
「最近少し変わったな。」
ある日、仁さんが言った。
その口調には少し荒々しさが混じっているようにも感じる。
「なんか、前よりもっと大人しくなったんじゃない?」
「そうかな。」
私は少し困った顔をした。
最初の頃は、仁さんの少し荒っぽい口調が気になっていたけれど、今ではそれも彼の一部として受け入れられるようになった。
「お前、最初の頃と違うよ。…なんか壁作ってる?」
その言葉が胸に刺さった。
確かに、最初の頃は「推し」に会うような感覚で、癒しだけを求めていた。
でも今は、仁を見ていると心の中に湧き上がる感情があることを、私自身見て見ぬふりができない。
数ヶ月後。
私は、ホストクラブに行くこと自体に少し違和感を覚えるようになっていた。
「会いに行くの?」
「うん、でも、なんか、ちょっと行かないほうがいい気もして。」
「…何かあった?」
杏奈が心配そうに聞くと、私は少し黙った後、答える。
「なんだろう、最初はただの癒しだったけど、最近、仁さんに会うと…なんか、気持ちがね。彼の仕事を考えると、どうしていいかわからなくなっちゃって。」
私は、どこか困ったように目を伏せた。




