第四章:「日常の中の変化」
また新しい週の始まり。
私はいつも通り、電車に揺られていた。
朝のラッシュ、無表情な人たちがそれぞれの場所に向かって進んでいく。
そんな中、私もまた、流れの中に溶け込むようだった。
今日は特別な日でもない、先週と変わらない1日の始まりだ。
でも、心の奥に、引っかかるものがあった。
──「仁」という名前。
ホストクラブでの出来事が、まだ少しだけ色褪せずに残っている。
特に、彼の目。
あの目が、私の心をじわりと温かく、そして切なくもさせていた。
仕事に集中していれば、思い出すこともない。
私は仕事に没頭し、午後のミーティングで頭をフル回転させる。
後輩に指示を出しながらも、ふと気づけばまた、仁さんのことが脳裏を過った。
(こんなに簡単に、心を惑わす存在になるものだろうか)
私は今までに感じたことのない気持ちに、どうしていいかわからなくなっていた。
「ひなー!一緒にランチ行かない?」
突然、杏奈が声をかけてきた。
いつものように、ランチに行こうと誘ってくれる。
「うん、いいよ。」
食事をしながら、私はあの夜のことをできるだけ話さないようにしていた。
杏奈が興味津々にしているのはわかっているけれど、どうしても話す気になれない。
「…どうだった?」
杏奈がニヤリと笑う。
私は口元に微笑を浮かべ、少しだけ目を伏せる。
「…まぁ、そんなに悪くなかったよ。経験の一つだね。」
杏奈が目を輝かせて言った。
「そっか~よかった!じゃあまた一緒に行こうね!」
私は軽く頷いた。
あの夜の記憶がどうしても色濃く残り、そして、彼の目が、今でも脳裏に焼きついている。
仕事終わり、私は駅のホームで少し立ち止まり、ふと携帯を取り出す。
(仁さんから連絡が来ることはないだろうな…)
そのまま携帯をポケットにしまおうとしたとき、突然、彼からメッセージが届いた。
『改めてこの前はありがとう。また機会があればぜひ。』
短いメッセージ。
でも、私の心は、さっきまでの冷静さを忘れ、一瞬、心臓が早鐘を打ったような気がした。
彼からの連絡なんて、予想だにしていなかった。
一瞬だけ立ち止まり、深呼吸をする。
(どうして、こんなにドキドキするんだろう)
私はスマホを握りしめ、帰路についた。
「にゃあ」フウはお決まりの場所でひなを待っていた。
ふわふわした毛を撫でながら、私は少しだけ心を落ち着ける。
「ただいま、フウ。」
嬉しそうにしっぽをピンと立て、小刻みに震わせるフウの姿を見て、私はそっと微笑んだ。
そして、仁さんからのメッセージを再度開く。
『機会があれば』──その言葉が、私の心の中で何度も回っていた。




