エピローグ:「一番の贈り物」
静かな朝。
優しい光がカーテン越しに差し込み、猫のフウが窓際で丸くなっている。
キッチンからは、コーヒーの香り。
ここには、ひなの望んだすべてがあった。
「ねえ、仁。今日の予定って――」
「宏斗、な?」
本から顔も上げずに返されたその言葉に、ひなは笑った。
「…まだ慣れないんだってば」
「慣れろよ。もう“仁”じゃないんだから」
ツンとした言葉の裏に、彼なりの照れがにじむ。
仁という名前の下で必死に戦い、愛を避けて生きてきた彼が、
今では“宏斗”として、ただの一人の男として、ひなの隣にいる。
いつか望んでいた“普通”が、ここにある。
この普通は、奇跡の巡り合わせだと、そう分かっている。
「…ねえ、宏斗」
「ん?」
「これまで、いろんなものをあなたからもらってきたけど、
私、やっとあなたに“プレゼント”できるかもしれない。」
そう言って、ひなはそっと自分のおなかに手を添えた。
「…え?」
宏斗が驚いて顔を上げる。ひなは静かに微笑んで、彼の手をとり、おなかの上に添えた。
「私たちの赤ちゃん…出来たよ」
沈黙が一瞬流れ、そして宏斗は息を飲んだまま、震える手でひなの手を包んだ。
「俺…本当に?」
「うん、4週目だって」
宏斗の瞳の奥に、込み上げるものが浮かぶ。
彼はずっと、愛され方を知らずに育った。
誰かに心を許すことも、守りたいと思うことも知らずにいた。
でも今は違う。
「俺、本当の愛を知らなかった…。
でも、ひなが教えてくれたんだ。…無償の愛って、あるんだな」
ひなは微笑んだ。
「愛を知らないなら、これから一緒に知っていけばいい。
私たちなりの愛を、この子に伝えていこうね」
宏斗はうつむき、声も出さずに笑った。
それは、初めて“父になる”実感が、彼の心に灯った瞬間だった。
ふと、ひなが言った。
「“二宮”って苗字、私にとっていちばんのプレゼントだと思ってたけど…
宏斗からもらったこの命が、きっと人生で一番の贈り物になるね…!」
二人の間に流れる時間が、やさしく、あたたかく、そして何より確かだった。
未来ははっきりと見えないけれど、ひとつだけ分かる。
この手を離さない限り、きっとどんな嵐でも超えていける。
そしてこの子に、二人が知った“愛”を全部注ごう。
窓の外では、春の風が静かに木々を揺らしていた。
〜fin〜
お読みいただき、ありがとうございました。
これは、私が人生で初めて書いた作品です。
それぞれの「好き」が垣間見える。
過ごしてきた環境によって「愛し方」も変わってくる。
決して上手ではない文章もあったかもしれません。
それでもここまでお読みいただいたこと、心から感謝しています。
読者様からの評価、ブックマーク、感想が励みです。
少しでも応援していただけると、とても嬉しく思います。
そして最後に。
この作品の内容は実際に私が経験したことを基に、書かせていただきました。
事実と創作、その両方が混ざった作品です。
あなたの心に何か一つでも響く、そんな作品になっていると幸いです。
またいつか、新しい作品でお会いしましょう。




