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小噺『サメ住まい』

作者: ポケット噺

どんどん値上がりする食費に嫌気がさす今日この頃。安い食材を買ったり、食べる量を減らしたり、色んな節約方法がありますが、中にはとんでもない方法で食材を手に入れようとする人もいるようで・・・

「あの船は全然漁に出てる様子がないが、持ち主はどうしたのかね」


「あれかい。二月ほど前、漁の最中に海におちてサメに襲われたそうでな、それ以来沖に出るのをやめちまってるよ」


「へー、そりゃ気の毒に。だがサメも魚だ、漁師なら釣って売り物にすれゃよかったのに」


「サメのつかみ取りってか?そりゃ無理に決まってら。だがフカヒレてのもあるくらいだから、いい売りもんにはなってたかもな」


「ヒレかぁ。おれはヒレよりロースの方が好きだな」


「バカ言ってんじゃない、魚の話をしてるんだ。それを言うならトロとか中トロだろ」


「いいねぇ、ついでにイクラもつまみたい。あ~、あん肝もこの時期にはいいねぇ」


「なんでも混ぜこぜにするんじゃねぇ」


「だってサメってのはなんでも食うんだろ?腹開きゃ寿司屋並みの品揃えになる」


「おまえさんは呆れたやつだね。サメが一度咀嚼して胃に入れたもんを食おうて言うのか。気持ちの悪い」


「それならオレがサメの腹の中に住んで、やつが獲物を口にしたら、サメより先に食う、てのはどうだ。今の長屋にも飽きてきたところだったしな」


「サメの腹んなかに引っ越そうってのか。大家はさしずめ乙姫様。て、バカなこと言っても仕方がねぇ。まぁ好きにしたらいいんじゃねぇか」


「ああ。ちょうどいいから、使ってねぇあの船で沖まで行ってサメに話しつけてくるぁ」


「・・・ほんとに行っちまったよ。相変わらずめでてぇ野郎だ。お、さっそくサメが出てきた。なにやら話しこんでるな。あーあー、あたまなんか下げてみっともねぇなぁ。しかし、あれじゃあほんとに賃貸交渉してるみてぇじゃねぇか。ちょうど昨日、うちの大家と店賃の相談したところだ、あれと同じじゃねぇか・・・おや、戻ってくるぞ・・・

どうだった、賃貸交渉はうまくいったか?」


「うん、いや、やっぱり無理だった」


「まさか家賃でも要求されたんじゃねぇだろうな、はは」


「ああ、でも家賃の支払いは三月に一度でいいってんで、そこは問題ねぇ」


「ほんとに要求されたのかよ。まあしかし、狂暴な顔に似合わず良心的じゃないか」


「ただね、困ったことに盆暮は実家に省るから、一緒に来るか、そん時だけ別のところに泊まるか選んでくれって言うんだ」


ちゃんと帰省するなんざ、ずいぶんと律義なサメだね。そいつの実家はどこなんだい?」


「桂浜のほうだってさ」


「またずいぶん遠いな。だが、あっちの方はカツオが名産。付いてったら美味いカツオをたっぷり食えるじゃねえか」


「それがさ、カツオは小学校からの同級生だから、食う食われるの間柄じゃねぇんだと。今度同窓会やるから、よかったら紹介するとも言われた」


「ま、まあ、海の世界に同窓会がない、というのは偏見だったな。じゃあ、そいつは普段から何か食べてるって言うんだ?」


「ワカメとかもずくとか、そういうのしか食わない」


「ベジタリアンなサメってのは初めて聞いたぜ」


「でも、ここんとこ値上がりがきつくていいものが手に入らない、て嘆いてた」


「店で買ってんのかい。サメなら自分で獲りゃいいじゃねえか」


「最近は遠くの食材も宅配してくれるから、そっちの方がうまいもん食えて楽なんだとさ」


「なんだかめまいがしてくるね。まぁでもなんだ、そいつがベジタリアンなら、腹の中に住む意味もあまりねぇな。魚が口んなか入って来ねぇ」


「ああ、しかもサメの世界でもベジタリアンがトレンドになってて、他のサメにあたっても同じだ、なんて言うんだ。まったくどうなってんだろうねぇ、サメの世界も」


「やつらも時代とともに思想がだいぶ変わってきてるんだな。で、どうするんだい?」


「おれもサメにならって、もう魚や肉を食うのをやめることにする」


「おいおい、おまえさんはなんでもすぐにとびかかるからいけねぇよ。なにもサメに感化されて思想を変えるこたぁねぇだろ」


「いや、あの獰猛なサメだってベジタリアンになる時代だ。俺たち人間がそうならないでどうする」


「いやその理屈はわからねぇ」


「ついでだ。おめえも今日から魚は禁止」


「バカ言うじゃない。なんでオレまでまきこまれなきゃならねぇんだよ」


「ついでに晩酌のサケも辞めちまえ」


「しょうもない冗談言ってんじゃねぇ。そもそもオレは、ベジタリアンの理屈自体理解できねぇからな。野菜だって同じ生き物だ。野菜は食べてよくて魚はダメってのはどういう理屈だ」


「そりゃあれだ、話が通じるか通じねぇかの違いだな」


「魚だってしゃべらねぇだろ・・あぁ、さっきサメとしゃべってたな・・」


「それだけ世の中変わってる、てことだ。いずれ牛が選挙に出る時代が来る」


「は、そんときゃ投票用紙を全部やぎに食わせてやらぁ。だいたいな、動物がしゃべりだすような世の中になるなら、次は野菜がしゃべりだしたっておかしくねぇ。もしそうなったら俺たちは何食べりゃいいんだい?」


「なーに大丈夫だ。そんときゃクチナシを食べりゃいい」

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