歩ける人魚
これはこの物語の最新エピソードです。皆さんに楽しんでいただければ幸いです。
涼は、パスポートとビザの手続きを終え、ついに日本を旅立った。成田空港からロサンゼルスを経由して、長いフライトの末に南米・ペルーの首都、リマに到着した。
初めて踏みしめる異国の地。熱帯の空気に混じる海の匂い、そして聞き慣れないスペイン語のざわめき。
「Ryo-san?」と、誰かが声をかけた。
振り返ると、そこに立っていたのは——
彼女だった。
長い黒髪。滑らかで輝くような褐色の肌。豊満な体つきに、涼やかな微笑みをたたえた瞳。夏の神話から抜け出したような存在。彼女は、美しくて、暖かくて、……そしてどこか、非現実的だった。
「私、キアラ・ロペスです。ムスク・アマル・アニメーションのスタッフ。リマからクスコまで同行します。」
——えっ、日本語!?
驚く涼に、彼女は笑顔で続けた。
「大学で日本語を専攻しました。アニメが大好きなんです。」
その瞬間、涼の脳内ではBGMが流れた。
——これは異世界だ。いや、異世界に見える日常だ。だって、目の前に地上を歩く人魚がいるのだから。
キアラの手には、彼の名前が書かれたプレートと、ムスク・アマルのロゴが入ったパスケース。現実だとわかっているのに、どこか夢の中のようだった。
「行きましょう。国内線はもうすぐです。」
彼女と並んで歩きながら、涼の胸は少しだけ高鳴っていた。異国の地、未知の未来、そして今目の前にいる、美しい“同僚”。
飛行機に乗り込み、窓の外に沈むリマの夕日を見つめながら、涼は心の中でつぶやいた。
——これから始まるのは、アニメーターとしての新しい人生。そしてもしかしたら、それ以上の何かも。
このエピソードを楽しんでいただければ幸いです。次のエピソードはすぐにアップロードします。