未知の世界への第一歩
これはこの物語の最新エピソードです。皆さんに楽しんでいただければ幸いです。
第2章:異国への扉 / Capítulo 2: La puerta hacia otro mundo
涼は、その夜、自室の小さな机の前で再びあのウェブサイトを開いた。
Musuq Amaru Animation Studio。
ペルーのアートアニメーション専門の新興スタジオ。その名前には、「新しい蛇神」という意味が込められているらしい。
「……応募するしかない。」
履歴書、ポートフォリオ、短編リール、そして志望動機——すべて英語で記入した。応募ボタンをクリックしたとき、心臓が少しだけ早く脈打った。
◆ 二週間後:通知
「あなたの応募が選考を通過しました。二週間後、面接を実施します。」
受信ボックスに届いたそのメッセージを見た瞬間、涼は椅子から立ち上がってしまった。
だがすぐに現実的な不安が胸を突いた。
「スペイン語……喋れない。」
彼はオンラインで速習講座に申し込んだ。挨拶や自己紹介、数字、感情表現を繰り返し覚えようとした。
しかし、その発音の難しさとスピードに圧倒された。
「“Encantado”…?“Me llamo”…ムリだ。」
◆ 面接の日:Zoom接続中
カメラの前でネクタイを締めながら、涼は深呼吸した。
そして画面に映ったのは、若い男の笑顔だった。
「こんにちは、涼さん。僕は**José Migigawa**です。よろしくお願いします。」
はっきりした日本語だった。アクセントはわずかに異なるが、驚くほど流暢。
「……日本語、話せるんですか?」
「はい。母が日系三世で、大学では東京にも通ってましたから。」
氷が一瞬で溶けたように、涼の表情が緩んだ。
◆ 面接内容
「あなたの作品、とても面白かったです。特にクレイアニメの細かい演出と照明設計。」
「ありがとうございます。大学では川本喜八郎の研究をしてまして……」
Migigawaは興味深そうに頷く。
「東京芸術大学を優等で卒業されたんですね。それはすごい。」
「はい……でも、卒業してからは、商業アニメの現場で……少し、夢を見失っていました。」
「私たちのスタジオは、芸術的な魂を持つ人を求めています。あなたのように。」
そして面接の終わり。
「それでは、これで面接は終了です。結果は近日中にお知らせします。」
涼は、思わず聞いた。
「僕……採用されると思いますか?」
Migigawaは微笑んで答えた。
「私はそう思いますよ。あなたのような方に、ぴったりの場所がきっとあります。」
◆ 一週間後:通知
火曜日の夜。スマートフォンに、あの件名が届いた。
【Musuq Amaru Animations:採用通知】
メール本文には、こう記されていた。
「おめでとうございます。あなたは正式にMusuq Amaru Animation Studioに採用されました。
弊社を代表して、あなたと共に創造していけることを心より楽しみにしております。」
画面を見つめながら、涼はゆっくりと深く息を吸った。
「……行こう。」
不安は残る。だが、それ以上に、希望がある。
まるで、見たこともない物語の最初のページを開くような気分だった。
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