勇者は二人の勇者の価値はない
これはこの物語の最新エピソードです。皆さんに楽しんでいただければ幸いです。
夕暮れのムスク・アマルの裏庭に、三人の影が伸びていた。
キアラとルセリは向かい合い、そしてリョウの両側にそっと立った。
風がやわらかく吹き、花畑の匂いが三人の間をすり抜けていく。
キアラが深呼吸して、口を開いた。
「リョウ…私たち、話したいことがあるの。」
ルセリが続ける。
「うん。二人で何度も話し合ってね…
その結果、ちゃんとあなたに言おうって決めたの。」
リョウは緊張した。
胸がどきどきしている。
キアラが言う。
「私、リョウが好き。」
ルセリも頬を赤く染めながら言う。
「私も…あなたのことが好き。」
リョウの頭が真っ白になった。
返事が見つからないまま固まってしまう。
そこでキアラとルセリが、同じタイミングで笑い合った。
「だからね、リョウ。」
キアラが冗談めかして言う。
「どっちを選ぶか決めるまでは――」
「私たち二人を、ちゃんと幸せにしてもらうよ?」
ルセリもいたずらっぽく続けた。
二人は完全に冗談のつもりだった。
軽い空気で笑っていた。
しかし。
リョウの顔は見る見るうちに真剣になり、青ざめていった。
「し、幸せに……二人とも……?」
呟きは風に消えるように小さい。
「わかった。努力する。」
リョウは深く頭を下げた。
彼は、二倍の価値があるのは楽しいことではないと知っていた。
***
その夜。
リョウは布団に入っても眠れなかった。
「二人を幸せにしなきゃ。
僕が…僕が二人の支えにならないと。」
胸が重く、息が苦しい。
そこに――
カッ、という金属音とともに、夢とも現実ともつかない空間が開いた。
システマが現れた。
暗いスチームと鉄くずの影を背負い、
ゆっくりとリョウの目の前に立った。
「フフ……“二人を幸せにする”?
お前が? 一人で?
そんな価値、どこにある?」
耳元で、油の混じった機械音が嘲笑する。
「見ろよ。
お前はいつも足りない。
あなたは一人として価値がない人間が、二人だと?
滑稽だな。」
リョウは顔をゆがめ、布団の中で震えた。
「違う…僕は…頑張れば――」
「頑張ったところで無駄だ。」
システマの眼球の奥で、冷たい歯車が回る音がした。
「“お前は不十分だ”
その事実は変わらない。
そして、それを忘れるな。
永遠にな。でもね、これは君の夢、君の哀れな夢。ここは現実じゃない。ただの夢。楽しんでね。でも、いつかは目が覚めて日本のオフィスに戻り、現実に戻るよ。私は現実。」
眠れていない。
息も浅い。
鏡を見ると、目の下のクマが濃くなっている。
***
数日後。
キアラとルセリは気づいた。
リョウは笑っているが、どこかぎこちない。
話していても、視線がどこか遠い。
肩も落ちて、呼吸が浅い。
自分のせいだと思ったの二人は胸が痛んだ。
本来は優しい関係になるはずだった三人の距離が、
まるで知らぬ間に歪んで、ねじれてしまったように感じられた。
ハーレムじゃない。
誰も笑っていない。
誰も望んだ形じゃない。
リョウだけが、自分を二人分の価値にしようと必死でもがき、
そして苦しんでいる。
そのことに気づいた時、
キアラとルセリは、静かに拳を握った。
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