二人の女神が会話している
これはこの物語の最新エピソードです。皆さんに楽しんでいただければ幸いです。
ムスク・アマルの中庭では、今日もゆるやかな午後の風が吹いていた。
キアラはスケッチをしながら、ふと横目でリョウを見る。
その瞬間、胸の奥がくすぐったいように熱くなり、思わず目をそらした。
その様子を、ルセリは見逃さなかった。
(あれ…キアラ、今ちょっと赤くなった?)
一方のキアラも、ルセリがリョウと話すとき、ほんのわずかに耳が赤く染まるのを見てしまった。
(ルセリも…?)
お互い、気づかないふりをした。
でも、その「赤さ」は一度知ってしまえば目を離せない。
二人の視界の端で、まるで風に揺れる灯りのように点滅し続けていた。
***
ある日の夕方。
キアラとルセリは、町外れの小さな店でチチャ・デ・ホラを頼んだ。
素朴な木のテーブルの上で、黄金色の泡が静かに揺れている。
店の奥には、なぜか山の精霊のような木像が立っており、
目が合うと微笑んだように見える。
二人は同時に「今、動いた?」と心の中で思ったが、
酔いのせいだろうと軽く笑った。
しかし、笑いの後に残る沈黙は、どこか重かった。
先に口を開いたのはキアラだった。
「ねえ、ルセリ…ひとつ聞きたいことがあるの。」
ルセリはグラスを握る手を止めた。
「キアラも…私に聞きたいことがあるでしょ?
多分、同じこと。」
二人は視線を合わせた。
チチャの泡が“ぱちり”と弾けた音が、やけに大きく響いた。
「私……リョウのことが好き。」
キアラは、両手を膝の上で強く握りしめながら言った。
「……うん。私も。」
ルセリは、まるで胸の奥の糸が切れたように、静かに告白した。
木像がまた微笑んだように見えた。
風鈴のような音がどこからか聞こえた。
二人の心を映すように、世界が少し揺らめいた。
しばらく何も話せなかった。
テーブルの上で、チチャが夕陽に染まって金色に揺れ続けている。
やがてキアラが言った。
「ルセリとは…ずっと一緒にやってきたよね。
お金なんて全然なくて、
食べ物もノートも、半分こして…
あの頃、あなたがいなかったら、きっと私は夢を諦めてた。」
ルセリは唇をかみしめ、涙をこらえた。
「キアラだってそうだよ。
あなたが励ましてくれたから、私は声の道を選べた。
あなたは…私の家族みたいな人。」
「だからこそ――」
キアラの声が震える。
「あなたを傷つけたくない。」
「私だって。
あなたとは絶対に喧嘩したくない。
リョウのことで友達じゃなくなるなんて、嫌。」
二人は同時に息を吐いた。
どこか間抜けなほど同じタイミングで、そのことでまた笑ってしまった。
笑いながら、ぽろりと二人とも涙をこぼした。
「だったら…どうすればいいんだろうね?」
「……三角関係?
今はそれしか浮かばないや。」
ルセリが苦笑しながら言うと、キアラも肩をすくめた。
「うん。
まだ答えは出せないけど…
少なくとも、私たち二人は敵じゃない。」
ルセリはグラスを掲げた。
「友情には、恋よりずっと強い時があるんだよ。」
キアラもグラスを合わせる。
「うん。私たちはそれを知ってる。」
カラン、と乾いた音が響き、
その瞬間だけ、遠くの山の影がゆっくりと頷いたように見えた。
二人はまだ迷っていた。
でも、決意は確かに芽生えていた。
“まずは三角関係から始めよう。
友情を壊さずに、答えを探すために。”
そして夜は静かに更けていった。
このエピソードを楽しんでいただければ幸いです。次のエピソードはすぐにアップロードします。




