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思い出は鍵のかけられた箱の中
「人々の記憶から消えたら人は死ぬ」君はそんなことを言う。私は気になって聞いてしまう。「じゃあ、身体が死んでも記憶に残っていれば生きているんですか」君は黙ってしまう。そこは肯定しろよ。いかにも君らしくはある。これが、君との記憶があっての最後の会話だ。
なにかの悪戯か、私は世界から忘れられてしまった。例外なく君からも忘れられる。忘れられないように紙に書いて渡しておくが、君から離れると紙はまっさらになるし紙の存在も忘れられる。写真を撮っても私だけ映らない。どうやっても私を残しておくことはできないようだ。
私は君との最後の記憶を思い出す。君は、忘れられたら人は死ぬと言っていた。君は覚えていないだろうけど。では、身体は生きているのに人の記憶から忘れられたら死んだことになるのだろうか。答えは出ていない。生と死の狭間で今日も、君に初対面として話しかけている。