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夜空を翔る

作者: 山村

 魔女であることを悟られてはいけない。見抜かれてはいけない。知られてはいけない。

 正体を言い当てられた魔女はカエルになってしまう、なんて罰は存在しないが。やはり魔法という非科学なものは公にしてはならないのだ。それこそかつて地球に飛来してしまった宇宙人のように捕らえられ頭を開かれ脳みそを解剖されてしまう。閑話休題。

 社会経験を積むためとはいえ魔女であることを隠しながら現代社会で生きていくのは大変だ。早く地元へ帰りたい気持ちはあるが気を許した友人も出来、好きな人も出来たのでもうしばらくはここでの生活を続けていたいと考えている。どうせ地元に帰っても実家の魔法道具屋を継がされるだけだからね。


「ココ、今夜もアルバイト?」

「うん」


 彼女の問いかけにしっかり頷き返す。帰路で行われるメメとの会話。いつまでだって彼女の声を聴いていたいくらいに、彼女の声も、気を使わなくていい会話も心地よい。


「最近は物騒だからな。いくら魔女で自衛できるからって気をつけるにこしたことはないからさ」

「ありがとう。メメも、何かあったらすぐに呼んで。一瞬で駆けつけるから」

「ははっ。ありがと!」


 名残惜しくも彼女と別れ、一人と一匹暮らしのアパートへ戻ると珍しく母親から手紙が届いていた。こんなところまで届けてくれる郵便配達員はやはり凄い、憧れの職業ナンバーワンであるだけある。

 内容な至ってシンプルで、元気にしているか、街には慣れたか、友達とは上手くいっているか等の某案山子を彷彿とさせる内容であったがいつの世だって子供を心配するのが親なのだろうと、忘れぬうちに返事を書いた。

 それから家事や学校で出された課題をやっているうちにアルバイトの時間となっていた。

 さてこの世界では高校生という括りになっている私はアルバイトの出来る時間帯も夜何時までと決まっているが私の従事しているアルバイトは少し、いやかなり特殊であり魔法を使ったアルバイト故に学校には伝えていない。魔法の修行も兼ねているこのアルバイトは夕方から夜中にかけて行われる。


「今日もよろしく頼むよ」


 雇い主は古い魔法使いのおじいさん。占いのしてもらえる喫茶店を営む変わり者だが気の良い店長だ。彼に挨拶をして、喫茶店の二階に置かせてもらっている私用の箒に跨り今日も今日とて空を飛ぶ。

 呪文を唱えて杖を振り、曇り空を晴れに変え、星空を創っていく。これがアルバイトの内容だ。不可視の魔法で私の姿は魔力のある者以外には視えていないので安心して翔べるのてある。今日は少し遠くの方まで晴れにして欲しいとのことだったのでいつもよりちょっとだけスピードを速くしてみる。

 週に一度、店長の希望する天気に変えるだけの簡単なお仕事。主に曇りを晴れにすることが多いけれど、場合によっては晴れを雨にすることもある。数百年生きている爺の考えは分からない。でも賃金の他に、バイト終わりに賄いが出るのでこの仕事を続けている。

 箒に乗って夜空を翔るのは好きだ。箒の先に括り付けたラジオからはよく聞くパーソナリティの声がどこかの誰かに起きた出来事が書かれた葉書を読み上げている。箒の後ろに乗った使い魔の黒猫がスピード違反だと注意する声を無視して私は今日も夜空を翔る。

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