「伊藤杏の視る世界ー②」
「もうっ! 止めてよ伊藤さん!」
「しょうもねぇよお前っ、いつまでバカみてぇなことやってんだ!?」
「やだ……やだやだ……やっ……やああああああっ」
うーん、絶好調(笑)。
朝の部が終わって、2限目3限目と順調にわたしのイタズラライフは続く。
休み時間が10分ぽっちしかないのはキツいけど、10分もあれば余裕で3人はハメられる(笑)。
こうやって有意義に休み時間を過ごしていくことでお昼休みまでが本当にあっという間で、ついさっきまで朝のホームルームをやっていたのが今はもうとっくにお弁当タイム。
いつもなら家からパンを持って来ていち早く噛りついてるとこだけど、今日はなにも食べない。
母ちゃんからなにか食えって貰った500円を小遣いに回したから、仕方なく我慢することにした。
ま、腹は減るけど楽しい時間が増えるならこれはこれで悪くないか。
てなわけで、周りのやつらがべちゃくちゃご飯食べてる間にも全力で暴れまわる予定のはずが……さっきから目の前でごちゃごちゃ喚いてるやつのせいで足止めを食らっている。
「伊藤さんって~、恐いことよく言うけど声が赤ちゃんみたいだから全然恐くないよね~。周りの子みんな言ってるよ? 伊藤は雑魚だって。私もそう思う」
普段から色んなやつらにイタズラしてると、たまにだけどこんなふうに絡まれることがある。
いつもやられてるお返しなんだろうけど、お返しするなら後からじゃなくその時お返しすればいいのに。
特に目の前の貴崎は、スレ違う度に毎回何かしらぐちぐち言ってきてかなりウザい印象がある。
なんっっっっっっっにも効かねえけど(笑)。
余裕の無視。
「あとさ~、前から思ってたけど伊藤さんって顔だけだよね~? 良かったね~、親が外国の人で。男子がイタズラ許してるのって伊藤さんが可愛いからだもん。ブスだったら絶対イジメられてるよね~? ……あっ、でも、女子の中じゃ伊藤さんの顔嫌いって言ってる子も結構いるし……私も、伊藤さんの顔嫌い」
うん。
それが?(笑)。
効かねぇなぁ……ブスの言葉は。
うんうん。
「まだわかんない? お前っさぁ、いい加減にぃ……ぇ……えっ、ちょ………あっ、あぎぎっ」
こういうときは、黙ってアイアンクロー。
さすがにウザいかんな。
「は、離せっ……離せよ伊藤っ! ……うっ……い、いたくねーんだよ……調子乗んなっ、お前なんか女子全員が嫌ってんだから!」
口の減らないやつはもっと強くアイアンクロー。
後頭部を掴んで、顔面側と後頭部側の掌に力を込めて軽くネジる。
そして一気にすりつぶすっ!!
「いたぁぁぁぁぁああああ」
これを、謝罪するまでずっと繰り返す。
すり潰す……すり潰す、すり潰す。
「ご、ごべっ……ごべんって……たぁ、いたぁぁぁ」
ふんっ。
「ジュース奢れ」
「……っ………たぁ……」
「今度ジュース奢れっっ」
「は、はひぃ!」
バカが。
わたしが絡むのはいい、だけど絡んでくるやつは絶対許さない。
時間の無駄だし、うぜぇから。
二度と絡むなと戦意喪失した貴崎の脳天に重めのチョップを入れ強制退場させる。
一応、小2んときのツレだしこれぐらいで勘弁してやる。
一度泣き出したらガチうるさいかんなこいつ。
さぁ、出遅れたけど次のターゲットは……。
「オラッッッッッッ、待てや伊藤ッッ」
あん?
「んぐ……んっ……めぇ、何回目だこれ?」
「……あ?」
「あじゃねぇだろ、何回目だって聞いてんのおっ!? 伊藤おめぇ日直の名前書き換えたな? 毎日毎日いい加減にしろや、これ何回目だ? なぁ?」
近くに据わっていたおデブちゃんが口をモゴモゴさせながら因縁を付けてくる。
南原か……。
一瞬わけがわからなかったけど、朝のことでクレームを入れに来たらしい。
「こっちはな、3日前に日直やってんだよっ。なに毎日毎日ウチの名前書いてんだオラッッ」
「またやればいいんじゃねえの?」
「あああああぁ!? やるわけねぇだろっっ!! ………めぇ……めぇ、舐めてんな? 入学式の頃から……ずっと……ずっとウチのこと舐めてんな? いい加減決着付けっかオラッッッ」
はぁ。
陰キャの次はヤンキーか。
さすがにちょっとイライラするな……。
席から立ち上がり、わたしの前までやってきた南原が腕を伸ばして胸ぐらを掴もうとするのを先読みして、逆に南原の腕を掴み返す。
脂肪がたくさん付いたムチムチのお手々。
肉にめり込むように指先全体へ力を加える。
グイッ。
「おっ……おおっ」
「口臭いぞおまえ。ニンニクでも食べたか?」
余裕を演出しながら、にっこりと笑ってさらに力を加える。
グギギッ。
ん?
ちょっと気になったので南原の席をチラ見してみると、ご飯の中心にデカいニンニクが突き刺さっていた。
ホントにニンニク入ってる……。
なんで弁当にニンニク入ってんだよ(笑)。
「めぇ……めぇな、悪いのおめぇじゃねぇのかよ……ウ、ウチ悪くねぇし今回は……」
「だまれ。おまらだって普段から用もなく色んなやつらに絡んでるだろ? しかも一人じゃなく複数で」
「……ッ」
「自分達はするけどされるのは嫌か? ホント勝手だなっ」
わたしは、自分からはするけどされるのは嫌。
思ってもないことを口にしながら南原を追い詰めていく。
基本的にヤンキーとのやり取りに中身なんか必要ない。
適当なことを言っていい、こいつらはバカだから深く物事考えないし、会話で主導権を握りながら軽く圧を加えてやるだけですぐに効果が出る。
「だりぃ………知らんっ、知らんわもうっ」
はい効果出た。
腕を振りほどいた南原がキレ気味に帰っていく。
「明日も書くかんなぁ!」
「……死んどけっ」
おまえが死ね雑魚が。
絡んで来るな。
はいはい、南原のデブも追っ払ったことだし今度こそ……。
「よう伊藤っ! いきなりだけどバカな伊藤に問題ですっ!」
ああああああああああぁぁぁぁぁっ!!!
今度はなにっ!?
誰こいつっ!?
許さん。
「男性の性器の名称はチンコ。では女性の性器の名称は?」
「まんこっ」
「おっ……お、おう、噂通りだなお前………へ、へぇ」
潰す。
「見せてあげよっか?」
「………は? え? えっ?」
「いいよ。見せてあげよっか?」
「………………冗談か?」
「冗談じゃない。見せてあげよっか?」
「………っ……。い、いや別に嘘でもドッキリでもいいし……つか冗談なのわかってっし。でも……でもな、お前みてーな女子に舐められるわけにいかねーんだよ……見せる、見せるっつったな? お、おう上等だ、やってみろよ。やれよお前? 自分で言ったんだからやれよ? 絶対やれよお前っ!?」
「こっち。トイレまで来て」
「……ぁ」
本物の、バカ。
「おいっ! 目隠しされたら見えねーんだけど! 意味あんのかこれ?」
「パンツ脱ぐとこは見られたくない。あと足開け」
「基準がぐちゃぐちゃだな……はっ、足? なんで足? それこそ意味ねーだろ」
「早くしろ。開かないと見せないぞ?」
「あっ……あ、わかったわかった……ほら、これでいいか? ここまでしたんだからな? わざわざ女子トイレまで来たんだからな? 絶対見せろよ?」
「オッケー。3、2、1でいくよ」
「えっ、えっっ? 3、2、1、? えっ? 目はっ? 目はどうすんのっ?」
3。
2。
1。
ドッカァァァァァァァ――――ッッッッッッン。
「うおおおおおおおおおおおおっっっっっっ」
開かせた股目掛けてフルパワーで本気の蹴り上げ。
懇心の快心の一撃。
男にとって最大のダメージとはなにか?
それは勃起チンポを砕くこと。
間違いなくこれが一番痛い。
「あっ……あぁ……ぁぁ……っ」
「バーカ、見せるわけないじゃん。二度と話し掛けてくるな」
イライラしてるタイミングでしょうもないちょっかいを掛ければ地獄を見るということ。
これは全学年の全男子に示していく必要がある。
男子だけじゃない。
さっき絡んできた貴崎や南原みたいな女子だって容赦はしない。
わたしがわたしであるために、絶対に誰からも舐められるわけにはいかない。
絡んでいいのはわたしだけ。
うっし。反撃のターンだ。
バカ達のせいで昼休みももう10分残ってない。
巻きで行くぞ、巻きで。
視界に入ったやつ全員に絡んでやる。
無差別的暴力的猥褻的猟奇的にぐっちゃんぐっちゃんに掻き乱してやる。
わたしが悪いんじゃないかんな?
今日に限っては、ここまでストレスを溜めさせたバカ共のせいだから。悪く思うなよ?
おっ、ちょうどいいやつ発見。
あいつから行くか……。
「つきしろおおおおおおおおおっっっ、乳揉ませろおおおおおおおっ」
「ぇ……なにぃ? なになにっ!? やっ……ひゃぁ」
――――(☆)――――
ふーっ、大満足(笑)。
6限目終了のチャイムと同時に、一気に騒がしくなるいつものこの時間が好き。
最後の授業が終わってテンション爆上がりの周りの連中と、注意しながらも仕方ないかとある程度許容する担任。
この空間を肌で感じて、あぁ今日も一日が終わったんだなと実感出来る。
そしてその実感が残ってるうちにぐるりと全体を見回して、あいつに絡んだ絡めなかった、あいつの反応が面白かった面白くなかったって軽く自己採点をしていくのがいつもの日課だったりもする。
今日は序盤絶好調で、中盤に邪魔が入って少しダレて、それでも最後は巻き返して色んなやつに色んなイタズラが出来た。
おん。
満点ではないけど平均以上はあるか?
今思えば妨害行為をしてきた貴崎と南原、あと……えーっと、男のやつ?
こいつらが絡んでくる下りもそこそこ面白かったと思う。
ウザいからってすぐに追っ払っちゃったけど、あれはあれでもったいないことをしたと少し反省。
そうだな、総括としてイタズラはよく出来ました。
ただ……ちょっとだけ短気なところは問題点で、そのせいで面白い出来事を見逃す可能性もあるのでそこのところはもう少しなんとかしましょう。
はい終わり。
終了。解散。
おんおん。
今日も今日とて楽しい日々はあっという間に過ぎていくのでした! チャンチャン!
チャンチャン……。
ん……。
終わり………終わりは終わりなんだけど。
なんかぁ……違うんだよなぁ。
楽しいは楽しいし、自分のやってることに後悔はない。
わたしのキャラって言ったら昔からずっとこうだったし……他の連中みたいに中学に上がったからとか、もう子供じゃないからとか、どいつもこいつもありきたりな事ばっか言ってちゃんとした説明も出来ない癖になんとなくで変わるなんて絶対にしない。
無理やり自分を抑え込んで……周りに合わせたり、空気読んだり。
歳上に気を使ったり、ヤンキー達に怯えてへこへこしたり……そんなふうには絶対ならない。
大声で叫ぶし走り回る。
色んなやつにちょっかいを掛けてイタズラしまくる。
それがわたし。
だから今のわたしが一番正しくて、一番合ってる。
ここだけは間違いない。
間違いないのに、中学に入ってから……なんっかモヤモヤするなぁ。
バカなことする友達も、昔はたくさんいたけど……一人一人変わってって。
まあどうでもいいかって、中学に入れば同じノリのやつもいるだろって……一応、毎日毎日確認はしてる。
確認は、してるけど……。
いない。
わたし以外、いない。
「伊藤さ~ん、教室掃除するから机片して~」
あん?
もうホームルーム終わりか……?
「早く早く!」
ふんっ。
帰る準備するか……。
「あっ、この後教室使うから今日は掃除しなくていいよ。鍵も先生が閉めとくから」
「えぇ、いいんですか? 授業中とか男子達紙クズ投げたりして散らかってますよ?」
「いいからいいから。掃除自体は軽くやっておくし、伊藤にも手伝ってもらうから」
「あ……はい」
ご苦労なこった。
この広い教室をねぇ……担任とわたしが。
は?
あんっ?
なんでわたしっ!?
「やらねえから! 今日当番じゃねえしっ」
いきなりなに言ってんのこいつ?
当番じゃないのにやるわけないだろ……。
冗談のつもりか? それとも朝の仕返し?
バーカ。どのみちやらねえから。
こんなものは無視して帰ればいい。
いつものテンションなら余裕で仕返ししてるけど、今は完全に帰る気分だから相手にすらしない。
スルー(笑)。 普通に帰る。
ガチャ、ガチャガチャ……。
あれ?
閉まってる……?
なんで閉めてんだよ、まだ中に残ってるだろ。
あぁん!?
こっちも閉まってる!?
なんでっ?
グッ……ググッ……グッ…。
ちょ……おかしいって!
閉まってるけどあっちと感触が……。
無理やり手で閉めてる?
「あっ」
「待てよ伊藤。帰れないぞ?」




