「伊藤杏の視る世界ー①」
青い空に白い雲、快晴の天気。
天気がいいと、不思議と小鳥達の囀りまで透き通って聞こえてくる気がする。
チュン、チュン。
チュン、チュン、チュン。
なんだかそわそわしてわくわくして、見てるだけで真似したくなるこの感じ……昔からずっと変わんない。
「チュン……チュン」
一匹、二匹、三匹。
ちょこちょこ並ぶように地をはう小鳥達。
なんで飛ばない? 羽があるのに。
そうやって油断してるからわたしみたいな四匹目が現れる。
グッと踏み込んでガッと列に入り込む。
「チュンっ、チュンチュンっ!」
ばさばさばさばさ……。
ま、バレるか。
羽があるんだからずっと飛び続ければいい。
用もないのに地面を歩くな。
わたしもそう。
全力で駆ける足があって、用もないのに周りを見てもたもたしてられない。
わたしはわたしで羽ばたき続ける。
それが楽しいから。
「……ごぅ!」
前を歩く学校の連中を一瞬でごぼう抜き。
みんなと足並み揃えて一緒になんてムリ。
そもそも一緒じゃないから。
わたしを縛るな。
一緒の一部に加えようとするな。
おまえらがとろとろへらへらしてる間にもわたし一人で走り続けるから。
走って走って。
走って走って走って走って。
走り抜けて。
駆けてっ、校門をくぐってっ!
さぁ、一日の始まりだ。
――――(◇)――――
さて、いきなりだけど毎日のルーティンを紹介しようと思う。
朝教室に入って、授業が始まるまでにいつもやってること。
絶対にしなきゃいけないってことはないけど、したら調子が上がるというか、出来ればしたいな~みたいな?
ちょうど目の前にターゲットもいることだしいつもみたく一発いきますか!
「松山おはよっ!」
「ひゃっ」
ルーティンその1、松山のスカートを捲る。
わたしと松山は登校時間が同じみたいで、わたしが教室に入って少し経つと遅れて松山もやって来る。
だからこうやって自分の席で準備するフリをしながら、松山が通りすぎる瞬間を狙って勢いよくスカートを捲る。
「ちょ、えっ? えっ、えっ? えっ? なに? なになに? えっ!?」
「よっ、松山」
何回えって言ってんだよ。
こいつは反応が面白いから好き(笑)。
「伊藤……? え、伊藤? はぁ? はぁぁぁああああああっ!? お前なにやってんのぉ!?」
「スカート捲ってんの。ヤンキーの癖に短パン掃いてんじゃねーよ」
「黙れっ! ヤンキーじゃねえしっ! 掃いてなかったらどうすんだよっ!」
「そんときはそんときだろ。ほら、授業始まるぞ?」
「……くっ……ん………お前ホント嫌い。ホントうざい……うざいうざいうざい。嫌い」
キレはするけど萎えてすぐ帰っていくのがこの松山。
いつもはこのパターンで済むけど、たまに直でパンツ掃いてるときもあってそのときは本気で取っ組み合いの喧嘩になったりもする。楽しい。
はい次。
「いっ……おい!」
西の肩にわざとぶつかる。
次。
「うおっ……ぃ………はぁ?」
隣の渕崎が着席するタイミングで椅子を引き尻もちを付かせる。
次。
「ちょおおっ、なんで今日ウチなんっ!?」
黒板に書かれてる日直の名前を南原の名前に書き換える。
次、次、次。
前と後ろの席の体操着袋の中身を交換する。
挨拶してきた月城の乳を肘で抉る。
隣のクラスに乗り込んで愛沢ちゃんの髪を噛りながら軽く愛撫する。
楽しいなぁ……。
とても楽しい。
イタズラをするっていっても、適当にめちゃくちゃなことをしたところですぐに飽きるだけだし面白さも段々薄くなっていく。
それじゃつまんないから一工夫加えて、どういうイタズラをするのか予め台本を作った上で今回はこういうテンションで行こう、前はああだったから次はこうだなとか、イタズラの内容を工夫しつつそれを仕掛けるわたし自身もそのときのノリをコロコロ変えたり、毎回違うタイプのイタズラを演出する。
するとイタズラをされた相手も毎回リアクションが違って、凄い顔をしたり普段とは想像も付かないくらい大きな声を出したり、その一つ一つの反応を観察することがとてもとても面白い。
わたしをゲーム機本体とするなら、こいつらはまるでゲームのソフトみたい。
どれも内容が違って別々の遊び方があって、気になったソフトがあればとりあえずプレイしてみる。
飽きたらポイってソフトを外して、また他の新しいソフトを差し込んで遊べばいい。
ずーっとこれの繰り返し。
面白いソフトを見つけたときは凄く刺激を感じるし、バカみたいに普通の話したり汗だくになりながら運動したりするよりずっとこっちの方が楽しくて好き。
《《これが》》わたしのイタズラ。
わたしの流儀。
よし、一通り朝のルーティンもこなすことが出来た。
普段ならここで終わりだけど、今日は特別に最後のメインディッシュに噛り付こうと思う。
タイミングが合わなくてなかなか絡む機械が限られるけど……今日はいけそう。
前方、担任を確認。
教室への侵入を感知。
「あ……おは、おはよう。みんな、おはよう」
「………」
挨拶をするも反応はなし。
こいつ人気ないからなぁ……。
うしっ、ちょっとかわいそうだし前は厳しめに絡んだとこだから今日は可愛く甘える感じでいこう。
おん。
誰からも挨拶されずショボくれてる担任に?
学年一のかわい子ちゃんであるこのわたしがっ?
いきなり後ろからっっ!?
このダイナマイトバディでっっっ!?
ど―――――んっっっっっっ!!!
「先生おはようっっ」
飛び付きながらすかさず担任の反応を確認。
どうだ?
「……ぁ………あぁっ」
はい一発! はい面白い!
ちょっと感じててキモい(笑)。
「おまえなに逝ってんだよ?」
「……うっ……ん………いっ、いと……離れろ………いい加減にしろ」
あん?
「離れてほしい?」
「……離れろ」
「それはっ、ムリっ!」
畳み掛けるように担任をおちょくる。
離れろだぁ?
ホントに離れていいのぉ?
「い……っ……いい加減にしろって! チャイム鳴ってんだよ!」
担任に無理やり剥がされ普通に怒られる。
ほう……生意気だな。
こいつ、前までヘラヘラしてるだけだったのにちょっと変わったか?
ま、これはこれで反応が楽しいからいいけど。
普段怒らないやつがいきなりぶちギレるシーンが一番面白いかんな(笑)。
「前は面談面談ってウザかったからそのお返し。早くホームルームしろよ」
去り際、軽く担任の尻に膝蹴りをかましながら自分の席へと戻る。
ピクピクさせながら凄い顔で睨んで来てるけど関係なし。効かねえから。
わざとキーキー音を立ててボスんと着席するのと同時に、完璧なタイミングでチャイムが鳴りやむ。
うっっっっっっっっっっっっっしっ。
十分過ぎるぐらい楽しめたし、朝の部はこんなもんでいいか!
周りに据わるバカ達の顔をぐるりと見渡して、すーっと朝の空気を胸いっぱいに吸い込む。
楽しい。
楽しい楽しい。
ちょおおおおおおおおおお楽しいっ!
こいつら全員わたしを楽しませるために存在してるのっ!
次はなにをしよう?
誰をおちょくろう?
今日という一日はまだまだ始まったばっかりで。
わたしの全力はまだまだこんなものじゃなくて。
こっから先、もっともっともっとかっ飛ばしていく。
いぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぃっっっ!!
あいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃん!!!
朝の部終了、チャンチャン。
昼の部へと続く。




