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「バカふたり。ーわたしのターン、伊藤side」




 なんか、担任からヤバいことをされている。




 いつからだろ?



 昨日か……それよりも昨日か、たぶんボコボコにした後ぐらいから性格変わったんじゃないのってぐらいいきなり絡んでくるようになった。



 こんなキャラだっけ、こいつ?



 担任のことなんて担任であること以外知らない。


 興味なんてねえし、知りたくもない。



 今までだったらたまにわたしがちょっかい掛けて絡む程度の関係だったのに……なんか、チョロチョロチョロチョロ……。



 なんでこんなにやられてんの?


 逆じゃないの、わたしがやる方じゃないの?



 うぜえし、周りのやつらに笑われてちょっと恥ずかしいし。




 今だって……。




「ごめんな伊藤。また伊藤の分だけプリント刷り忘れちゃってさ、前みたいに予備の分もないんだ……悪い、気合いで何とかしてくれ」




 いや普通にヤバすぎだろ。


 気合いで何とかなるわけないし昨日もわたしの分忘れたとか言って何かデカいプリント渡されたしそもそもわたしの分だけないとか意味わかんないし。


 

 イジメだよね?


 これイジメだよね?





 うぜぇから全っっ部無視するけど(笑)。



 イライラするなぁ……。





「あ、あのっ……足りないなら職員室行って、もう一回作ってもらうとか出来ませんか……? 伊藤さんの分だけないの、かわいそうだし……」






 おっ……。



 つきしろ?





「もう一回作るとかないからね。月城の分あげるか?」



「えっ? あっ……ゃ、それは……あのっ」






 くぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!



 なにこいつっ!?




 イライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライラ。





――――(○)――――





「なぁ伊藤~。やっぱカラオケ来いよ~、奢るからさ~。お前貴重な見た目枠なんだよ~。先輩達も伊藤見たいってしつけぇしさ~」




 しつこく誘ってくるうぜぇ男子に絡まれながら、床に落ちている綺麗な紙切れが目に入る。


 

 なんだろ……あれ?


 紙くずってわけじゃなくて、ちゃんとした一枚の紙が折り畳まれたプリントみたいなやつ。

 



 あん?




「ちょお伊藤~、無視すんなって。マジ来いよ~」




 こんな紙切れスルーしてもいいけど、たまたま席の近くに落ちてて、ちょっと身を屈むだけで摘まめる距離にあったから何となくで拾ってみる。





 なんの紙だ、これ。



 おん……?







 暁、2。


 秋山、28。


 月城、36。


 南原、0。


 相良、96。


 ……。


 ……。




 あん? なんだこの数字?



 なんで名前の横に数字……?




「おい聞いてる~? なあ聞いてる~? とりあえず一回来いよ。一回来て、ダルかったら速攻」



「だまれ。消えろ」




 紙に意識を向けたまま、机を強く繰り上げてしつこい男子を追っ払う。



 そもそも誰だこいつ?



 絡んできた男子の名前もわからなければ、紙に書かれた数字の意味もわからない。



 

 強さ? 賢さ?


 そいつの能力の高さを数字で表す遊びでもしてたか?









 おんっ!?




 薬師寺、10000。



 いや高すぎだろ(笑)。




 薬師寺って前に担任に隠れてびくびくしてたやつだろ?


 なんでこんな高いんだよ。ガバガバすぎだろ。























 伊藤、ー10000。






 あんっ!?





「おうっ、伊藤か……。聞きたいんだけどさ、ここら辺に折り畳まれたプリントみたいなやつ落ちてなかったか? 重要な書類でさ、ファイルに挟んでたと思ったら滑らせてどこか落としちゃったみたいなんだ……困ってるんだよ」




 男子の次は、担任が絡んできた。




 はっ……紙?



 もしかしてこいつの紙か……?




 気持ちわるっ……見て損した。




「この紙のことか?」



「あっ、それ、それっ! どこに落ちてた!? ホント助かるよ、大事な書類でさ……」




 なにが大事な書類だ、こんな名前と数字だけ書いたやつ。














 あん? 


 大事な書類?





「この数字はどういう意味だ?」



「あっ………もしかして、見たのか伊藤? あぁ~、見ちゃったか~……んんっ、どうしよ」



「見られたらまずいのか? なんの紙か説明しろ」



「しろじゃないだろ、口悪いぞ。………でも、まぁ、

うーん……先生も先生で落としたのは不注意だったし、誰にも言うなよ?」



「おん」



「実を言うと、これは内申評価のメモみたいなもんだ。ほら、3年になったら受験とかあるだろ? 高校受験って入試の点数だけじゃなくて内申点も含めて合否が決まるから、教員にとって凄く評価付けるのが難しいんだよ。少なからず生徒の人生左右させちゃうし」



「……ない、しん」



「これも秘密だけど、先生はたぶんこの学年が卒業するまで担当することになるっぽいから、普段の態度とか一年のうちから細かく点数付けるよう校長から言われてるんだ……絶対言うなよ?」






 ないしん? 



 ないしんってなんだ?





 なんか、聞いたことはあるな……ねーちゃんが今年受験して、ないしんがどうみたいな……グチグチ文句言ってた気がする。







 あっ、内申!?




 思い出した……内申、これって受験出来る学校決まるやつじゃなかったか?





















 伊藤、ー10000。





「はぁぁぁあっ!? おかしいだろっ! なんだこのー10000って!!」



「うおっ……なに、どうした?」



「どうしたじゃない! そこまでのことしてないじゃんかっ!」



「……いやしてるだろ。今までの行い振り返ってみろ。してないわけがない」




 くぅぅぅ……っ。




「じゃあっ、じゃあこの薬師寺10000ってなに!? 贔屓だろこんなんっ!」



「贔屓じゃない。先生は一度、薬師寺に対して取り返しの付かない失態をやらかした過去がある。そのお詫びという意味も込めて、せめてもの気持ちとして補填した点数にすぎない。いいからそれ返せ」





 めっちゃ贔屓じゃん……。







 キュッ、キュッ。




 あっ。




「ああぁ!」



「はい、今口答えしたから-10追加な。他の生徒がどうとか伊藤に関係ないから」



「あぁ……ぁ……待て! 待てっ!」



「待てじゃないからね。はいタメ口で話してくるからー10追加。スカートも短いな、立派な校則違反だからもうー10追加」



「わかった長くするっ! 今長くするっ!」



「遅いからね。言われる前にしないと意味ないから。伊藤、ー10030と」





 ちょ……。


 ちょおぉぉ、ヤバすぎだろ。




 はぁ?


 はぁぁぁ!?




 こんなん、高校行けないじゃん……。





「ちょっと春宮先生~。そういうの、良くないですよ」



「あっ……ゃ、愛沢先生……どうかしました?」





 担任が、扉の前から声を掛けてきた愛沢ちゃんの元へと向かう。




 なんだ……?




「ダメですよ春宮先生。いくら伊藤さんでも流石にかわいそすぎます……そういうやり方じゃなくて、もっとちゃんと指導してください」



「やっ、これは冗談ですよ。じゃれてるみたいなもんで……すいません、これ捨てときます」



 

 グシャグシャ、グシャ。


 ポイッ。







 はっ……?


 なんで大事な書類捨ててんの?




 冗談? 


 今冗談って言ったか?


 



 

 えっ? えぇっ?

 


 


 途切れ途切れで良く聞こえない……あいつらなんの話してる?




 担任の声も………。




 あっ、こっち見た!

















「ばか。ばか。嘘に決まってるだろ」











 ぁ。












「お前は、ただのばか」





 




 ぁっ……ぁっ…。






 ぁっ……ぁぁぁぁぁぁぁっ……。


 



 

「春宮先生聞いてますか~? どこ見てるんですか」



「いえ、大丈夫です。何もないんで……職員室戻りますね」



「あっ、ちょっと!」













 

 


 

 ふざけてる。こいつ絶対ふざけてる。   




 もう、ムリ。



 もう我慢しない……我慢出来ない。







 おもちゃ卒業とか言い出すし面倒臭ぇから全部無視でいいって思ってたのに、おまえからそういうことしてくるならもう無視はしない。






 もう、いい。





――――(●)――――





 もういいもういいもういい。




 もういい……もういい……。





 ホント、もういい。







「もみっもみっもみぃ! こりっこりっこりぃ!」



「もぅ、伊藤さん……また…?」




 イライラがすごい。



 イライラ……イライラ……。




「ああああっ、もみぃぃ! ああああっ、もみぃぃ! もみっもみっもみっもみっもみっもみぃぃ!!」



「……ちょ………先生呼ぶよ? ……あっ、せんせ」




 今までムカついたらすぐストレス発散してたのに……こんな、イライラを溜めるのは初めて。




 うざい、嫌い、イラつく。


 うざいうざいうざい。




 うっっっざい。





「また君かぁ……そろそろ病院とか行った方がいいかもね。なっ、いい加減にしろ伊藤。月城を解放しろ」



「……んせぇ」





 キモいキモいキモいキモいキモいキモいキモいキモいキモい邪魔するな邪魔するな邪魔するな邪魔するな邪魔するな邪魔するな邪魔するなどっかいけどっかいけどっかいけどっかいけどっかいけどっかいけどっかいけ触るな両手で顔を挟むなどっかいけ。

 













 ぁぁ……。

















「こっち見ろよ……。頭、大丈夫?」









 





 ……っ。



 


 ん。










「んんんんんんんっっ! 大丈夫ぅぅぅぅぅぅ!!」



「うおっ……ぁ、わっ」





 思いっ切り鼻と鼻がぶつかる。



 ぬめってて、気持ち悪くて、一瞬、口と口がかすった気がしなくもないけど、そんなものは気にしない。どぉぉぉぉぉぉでもいい。




 


 目の前の、敵を見る。




 大人しそうな顔。大人っぽくない雰囲気。 



 どこにでもいるような普通の髪型で、日が差してるせいか薄い茶髪に見えなくもない。 



 黒のスーツは見覚えがある……たぶん、毎日同じ格好で学校に来てるから。



 名前は知らない。担任ってこと以外知らない。



 顔も、形も、全体をゆっくり見回して……ちゃんと、忘れないように。




 担任、こいつが担任。











「覚えたかんな?」



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