ボクとコジロウとご主人様
このお話は、2021年9月16日に亡くなった、我が家のワンコに捧げます。(享年18才2か月)
ボクとコジロウとご主人様
1
ボクは犬のぬいぐるみ。ご主人様さまは動物、とくに犬が大好き。そのパパさんが、12月25日に「サンタさん」になって、ご主人様にボクをプレゼントした。
ご主人様の名前は、メイちゃん。4才。
メイちゃんは、ボクに「コタロウ」と名前をつけて、いつも遊んでくれた。
メイちゃんが7才になるときに、一家は引っ越しをした。
それまで住んでたアパートは動物を飼ってはいけなかったが、新しい家は小っちゃいけど、庭のある一軒家で、動物も飼える。
犬が大好きなメイちゃんに、その年の12月25日に、またパパさんが「サンタさん」になって、こんどは本物の犬をプレゼントした。
この犬、よくわからないけど、「保護犬」というらしく、ずっと犬を飼いたがっていた、メイちゃんのために、家族で何回か保護犬の施設におもむき、施設の人の許可をもらって、家族として、偶然にもこの同じ冬の25日にむかえたのだ。
「なにしろ、名前が『コジロウ』と聞いたときは、この子だと思ったな。見た目や毛の色も『コタロウ』と似てるし」
そう言うパパさん。ボクのすがたは「チワワ」って犬の種類らしい。
ボクと「コジロウ」の毛の色はうすい茶色で、ところどころが白い。
こうして、ボクには兄弟ができたが、この兄弟はだいたい6才ちかく。ボクが作られたのは5年前だから、どっちがお兄ちゃんなのかなぁ。
それからのメイちゃんは「コジロウ」にべったり。
ボクとはあまり遊ばなくなった。
ある日、ちょっとした事件がおこる。
この日はめずらしく、メイちゃんはボクと遊んでいたが、「コジロウ」がとつぜんボクをくわえて、ぶんぶんと振り回した。
ボクの左耳の部分が少しちぎれ、ママさんがぬいぐるみを修理してくれるところへ行って、ボクの体は元に戻ったが、左耳の部分はきれいになおらず、傷のようなものが残った。
メイちゃんは大泣きし、「『コジロウ』なんか、だいっキライ!」、と言ってたけど、数日後には仲直りし、「コジロウ」といつものように、おさんぽに行ったり、遊ぶようになった。
ボクはこのやんちゃな兄弟が、ご主人様と遊ぶボクに、やきもちをやいたんだと思い、「コジロウ」を許してあげた。
この「コジロウ」はボクと同じくちっちゃいくせに、わんぱくで、そしてあまえんぼうだ。
メイちゃんも、パパさんも、ママさんも、いつも「コジロウ」を可愛がり、この家は「コジロウ」を中心に笑顔がたえない家だった。
もちろん、ボクも「コジロウ」のことが大好きだ。
2
メイちゃんはずいぶん大きくなった。
ボクはもとより、「コジロウ」ともあまり遊ばない。
ボクたちのことをキライになったわけではなく、「大学受験」をするので、家にいるときは、自分の部屋の机で夜おそくまで、勉強をしている。
メイちゃんは高校3年生なのだ。「コジロウ」はたぶん16才はすぎている。
どうやら、犬という生き物では、もう年よりのおじいちゃんらしい。
1年ほど前から、一家は「コジロウ」を何回か動物の病院へと、診察に連れて行ったが、とくに体がわるいところはなく、たんに年をとって、体がよわくなっているらしい。
メイちゃんは勉強がとてもできるが、さらにするようになったのは、この「コジロウ」を病院に連れて行ってからだ。
12月25日。一家は毎年クリスマスを大いに祝う。
ボクと「コジロウ」がこの一家にくわわった日でもあるからだ。
毎年「コジロウ」は犬用のケーキをプレゼントされていたが、今年はほとんど食べ残してしまった。
メイちゃんはすごく心配している。
だが、「コジロウ」をやさしくなでたあと、勉強のため、自分の部屋へと行った。
あのわんぱくだった「コジロウ」も、家のお気に入りの場所で、寝ていることが、1日の中でいちばん長い。
このように食べることも少なくなって、この日パパさんとママさんはこんな会話をしていた。
「○○さんのところの、ワンちゃん。このあいだ亡くなったそうよ。まだ14才なのに」
「『コジロウ』も来年あたりかなぁ。芽衣の受験が終わるまでは、がんばってほしいけどな」
「そうねぇ。でもこればかりはねぇ」
メイちゃんは大学に受かった。
受かったのは遠い東京にある、「国立大学」なので、家からは通えない。「獣医学」という、動物のお医者さんになるための勉強をするのだ。
「『コジロウ』とは、はなればなれだね。『コタロウ』を持って行くけど、いい?」
「『コジロウ』がさみしがるんじゃないか。兄弟みたいなもんだからな」
メイちゃんとパパさんはそんな会話をして、「キャンパス」とよばれる学部のある街へ通える、近くのアパートをパソコンで探している。
3月も終わるころ。寒さと暖かさが交互にやってくる、ある日。「コジロウ」はいつものお気に入りの場所で寝たまま、お昼過ぎに死んでしまった。
家にいたのはママさんとボクだけだったので、「コジロウ」が死んでいるのが分かったのは、少したってからだ。
この日、家族はみんな会話が出ず、メイちゃんもあまり夕食を食べずに、自分の部屋へ閉じこもった。
メイちゃんは、ふだんボクが置かれている、本棚の上からボクを取り出し、この日はボクを抱きしめてベッドにはいった。
「『コタロウ』、『コジロウ』が死んじゃったよぅ…」
メイちゃんはボクの傷付いた、「コジロウ」によってやられた左耳を、やさしくさすり、初めて会った、4才の冬のときのようにボクを抱きしめ、泣きながら眠った。
3
4月。東京で入学式という、大学の式を終えて、メイちゃんは借りたアパートへと、パパさんとママさんと戻る。
広さの関係から、パパさんとママさんは、泊まることができないので、これから電車にのって家へと帰るのだ。
前の日は、東京駅ちかくのホテルに泊まっていた。
「まだ少し片づいていないな。もうちょっと整理しようっと」
パパさんとママさんが帰ってから、メイちゃんはそう言うと、部屋の片づけを始めた。
まだ、いくつかのダンボールが置かれ、ボクとコジロウもダンボールの中にいる。
勉強をする机には、パソコンが中央にある。
座るメイちゃんから見て、パソコンの左にボクが、右に9才ころの「コジロウ」を写した写真立てが、ダンボールの中から出されて置かれた。
毎朝、メイちゃんは起きると、「おはよう、『コタロウ』、『コジロウ』」、と言う。
そして、学校から帰ってきたときや、アルバイトから帰ってきたときは、「ただいま、『コタロウ』、『コジロウ』」、と言う。
もちろん、寝るときは、「おやすみ、『コタロウ』、『コジロウ』」だ。
ボクたち兄弟はまだまだ、ご主人様のそばにいなければならないようだ。
おしまい
この話は、7~8月の暑い日々に「秋の歴史2022」と同時並行で書いていました。
そして、今年最後にお出しする作品が、下記のリンクの長編で、私の代表作の「大海の騎兵隊」です。
ついに最終回となります。
今年も色々ありました。来年もちまちまとマニアックな作品を書いていきたいと思います。
そういえば、2年前の冬童話でも子猫が死ぬ物語を書きました。
別に動物が死ぬ話が好きな訳じゃないですよ!
【読んで下さった方へ】
・レビュー、ブクマされると大変うれしいです。お星さまは一つでも、ないよりかはうれしいです(もちろん「いいね」も)。
・感想もどしどしお願いします(なるべく返信するよう努力はします)。
・誤字脱字や表現のおかしなところの指摘も歓迎です。
・下のリンクには今まで書いたものをシリーズとしてまとめていますので、お時間がある方はご一読よろしくお願いいたします。