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85 誰を味方にすればいいのか話し合う

「早死にしたくない勢代表として、誰を味方に組み込みたい?」


 翌日、図書館への道すがら。リートに訊いてみたところ、即答された。


「全員」


 全員か! わかりやすいな! そして無理!


「そういう非現実的な回答はやめていただけます?」

「全員味方にならないのが逆に不思議なんだよな。おまえら長生きしたくないのか、と問い詰めたくなる」

「そりゃまぁ、そうだけど」

「が、実際にそうならないのも知ってるしな」


 大暗黒期という先例がございますからね、もちろん。

 聖属性魔法使いのもと、皆が団結! な〜んて夢物語なんだよ。世界の命運とか、優先順位第一位っぽいのに、全然一位にしてもらえないの不思議だよな。でも現実はそうなんだ。

 まー前世日本でも、地球温暖化とか資源枯渇問題、デマと断じられたり、意識高い系のお遊びと揶揄されたりしてたよな。あれと同じでしょ、どうせ。ガチマジで魔王の脅威が迫るまで、本気にしないってスタンスをとる方が、むしろ正常でしょ。

 受け入れるのが困難なレベルの破滅の予言は、信じない方が簡単だ。現状の利害関係をそこなうなら、なおさら。それが人間の心理ってもんで、それは前世も今も変わりないね。


 ……愚かだなぁ、人類!

 わたしも愚かな人類なので、自己保身には余念がない。つまり、味方を増やしたい。


「優先順位って考えればどう? より味方につけたい順で」

「じゃあジェレンス先生」

「ジェレンス先生は大丈夫だと思う。魔王と戦ってみたいって話してたから」

「……どうかしてるな」

「うん」


 我々は意見の一致を見た。


「ウィブル先生は?」

「ウィブル先生もオッケーだよ。最終的には、わたしと同行することになるだろうっていってた。簡単には死なせないからまかせて、みたいな……」

「ああ、まぁそうなるか。そうだな……ほかのクラスの担任も、結構使える魔法使いのはずだが」

「調べた方がいいかな」

「君が直接行く必要はあるまい。主旨を話してウィブル先生あたりにふるといい。ジェレンス先生は駄目だ、あのひとは敵が多い」


 納得しかないお言葉、どうもどうも。


「いっそ校長先生から教職員全員に話してもらえるよう、お願いしてみるとか」

「校長は……考えが読めないから不安な面があるな」


 ジェレンス先生につづいてリートまで、エルフ理解不能説を採択か!

 まぁ、たしかに校長先生本人が協力的じゃないのに、部下を寄越してくださいってのはなんか違うだろう。まず校長本人を説得しないとだ。

 ……無理ゲー感がすごい。


「生徒だと、スタダンスと王子は必須だろう。あのふたりは魔力量が異常に高い。そして、そのへんは君が行動した方が話が早いはずだ」

「そだね……」


 そうなんだけど、めんどくさいことにならないよう気をつけねばならん相手でもあるよな!


「上級生を引き込むのは、まず教師か王子のどちらかを味方につけてからがいいだろうな」

「そうなの? ああ……そっちからたのんでもらうって意味か」

「教師に逆らえない、王族に恩を売りたい、といった事情を踏まえて勧誘すると、成功率が上がるだろう」

「なるほど。リートって、頼りになるね」

「俺自身は勧誘には向いていないぞ。前にも話したと思うが」

「わかってるわかってる。でも、その論法だと、わたしも向いてないんじゃ?」

「だから、特定の相手以外の勧誘は、ほかを動かせといってるんだ」


 なるほど過ぎる……。


「わたしは、まず王子とスタダンス様を優先って感じかぁ」

「そうなるな。王子を落とせるかどうかは、大きいぞ」

「そうだろうね」


 仮にも王族だもんな。


「まずは今日、王子が登校するかという問題がある」

「えっ、するでしょ? 宮殿に戻るのは、毎日やってたんだし。寮に部屋があるわけじゃなかったんだから」

「魔力切れをどう乗り越えるか、という話だ。まぁ、それで王子の根性を判断するんだな。励ますか、煽るか、宥めるか。どの手法をとるのが効果的か、よく見極めたまえ」


 うん、直接的な表現での遠慮ない助言をありがとう!

 ……という感じでリートと別れて図書館に入り、午前中はなにごともなく……済む予定だった。

 その予定だったんだが、なぜか受付でファビウス先輩が待ち構えていた。


「おはよう、ルルベル」


 挨拶して微笑んだところを見るに……これ魔性全開では? そんなにみつめられると、勝手に顔が熱くなっちゃうわ……ええー、なにこのひと、存在自体が反則級じゃない?


「おはようございます」

「申請書類、揃えてあるよ」


 ……イケメン! 行為がイケメン! えっでもなんで?


「ありがとうございます」

「今日は、僕も一緒に勉強させて?」

「えっ、駄目です」


 ファビウス先輩は眉尻をわずかに下げ、困ったなという顔になった。いやいや……困った顔がなんでこんな綺麗なんだよ、しまいには怒るぞ!


「僕のこと、嫌い?」

「嫌いではないですが、勉強の妨げになるのが確実ですので!」

「……でも一緒に勉強させてもらうよ。校長の許可は、とってあるんだ」


 ひらりとまた紙をひらめかせ、ファビウス先輩は美しく微笑んだ。

 校長ぉぉぉ! なに考えてんすか、エルフ校長! わからねぇ! 読めねぇ! 東国セレンダーラ出身のファビウス先輩に便宜をはかるなど、偽物ではないのか!

 ファビウス先輩は、ペンをわたしに差し出しながら告げた。


「ほら、署名すればすぐに閲覧室を使えるようになってるから。君の可愛らしい名前をここに書き入れて?」

「ルばっかりの名前ですよ……先輩はルが可愛いと思うんですか?」

「君の名前なら、なんでも可愛いと思うよ」


 徹底してんな! いっそ清々しいレベルだ!

 しかたなく、わたしは署名を済ませて閲覧室に入った。宣言通り、ファビウス先輩も同じ閲覧室に入る。……来るなよぉ。


「ノート、見せてもらってもいい? 今は呪符魔法の勉強中なんだ?」


 もう見てるじゃん……まぁ手にとってはいないけれども。わたしが広げたページをチラ見しただけで察したらしいけども!


「本が届いたら返してくださるなら」


 わたしの許可を得て、ファビウス先輩はノートを手にとった。ページをめくる手はゆっくりだ。

 ……あー、見ないようにしようと思ってたのに、うっかりそっちを見てしまった。古めかしい窓からさしこむ日差しに照らされて、ファビウス先輩の輪郭は金色にかがやいている。襟足でひとつに結んだ髪がわずかにほつれ、きらきらと……いやもうまばゆいわ、これ。ほんま無理。

 長い睫毛の下で、あの宝石みたいな眼が文字を追って動いている。真剣な顔つきだけど、ファビウス先輩にとって目新しい情報はないはず。このノートは、呪符魔法学習の覚え書きに使っているものだし。


「歴史からやってるんだね。ジェレンス先生の指示?」

「はい、そうです」

「……これは、なに?」

「え? これってどれです?」

「王国を覆う呪符魔法の項にある、ハラルーシュって言葉」

「あー……」


 あああああああ! 書き込んでたな、そういえば! これは提出用じゃないから……レポートは別の紙に清書して出すから、書き込んでたわ!


「ロスタルスの姉? ロスタルス……って初代の国王陛下のこと?」


 いや待て、落ち着けわたし。これはべつに、秘密じゃない。秘密じゃないはずだ。ハルちゃん様に知られたら叱られそうな気はするが、エルフ校長はむしろ書き残してくれって態度だったし、フォローはそっちにお願いすればいい。そう。

 たぶん大丈夫……たぶん……問題ない……でも説明していいの?


「部外秘かもしれないので。確認して、お話しできる内容でしたらお話しします」


 ふうん、といってファビウス先輩は机に頬杖をつき、わたしを見た。……まともに視線が合ってしまった!


「ルルベルは、誠実だよね」

「そうありたいとは思っております」

「なんでそんな堅苦しいの? 僕とは距離をとりたい?」

「いえ、えっと……」


 そこでドアがノックされ、司書さんが本を持って来てくれた。ファビウス先輩はわたしに先んじて立ち上がり、ありがとう、と惜しみなく魔性の笑顔をふりまいてから、司書さんを扉の外に押し出した。早業である。


「本が届いたからノートも返すね」

「ありがとうございます」

「『実践呪符魔法』か……禁帯出じゃないね、この本」

「そうなんですか? あ、ほんとだ」


 持ち出し可能な本は、上下のページ断面――つまり、天地の二箇所に図書館所蔵印が捺されているのだ。

 まぁそんなことはどうでもいいんだけど、ファビウス先輩が本を……はなしてくれない。受け取ろうとしたわたしが引っ張っても、びくとも動かない。くっそ、わたしを抱き上げるには掛け声が必要なレベルの力しかなくても、本の引っ張り合いでは負ける要素なしってことか。


「あの……」

「なんだい?」


 なんだい、じゃねーだろ!


「本をください」

「昨日、僕が姿をあらわさなくて寂しかった、っていってくれれば」

「昨日、先輩が姿をあらわさなくて寂しかったです」

「……棒読みの即答は、やめてほしいなぁ」


 めんどくせぇ!

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