↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
563/563

563 なんという、曇りなき眼……

 その間に、ナクンバ様はすごい速度で現地を飛び去った。ジェレンス先生が本気で追いかけてきたら、まぁ……打つ手がないかもだけど、時間を稼ぐことはできるだろう。


 ――アレが安易に来られぬ場所に行こう。

 ――助かります、ありがとうございます!


 たよりになるナクンバ様に行き先はおまかせするとして、魔王はどうなったかというと――ちゃんと幼児に戻っていた。すごい素直。怖いくらいだ。

 封印される前の記憶がクリアされているようなのだから、実質、生まれたてのほやほやってことなんだろうな。なまじ肉体が育っちゃったから、そうは思えなくなっていたけど。

 一応確認すると、幼児に戻った魔王は、おむつっぽいサムシングを穿いていた。あれだけサイズが変わっても追随するのだから、布おむつなどではなく、サムシングだろう。

 まぁいい。穿いてるならヨシ! 大人になってたときも穿いてたなら、なおヨシ!


「約束だもんね、抱っこしてあげる」

「……うん」


 少し躊躇したのは、抱っこ抱っこと口にしていても、魔王自身、具体的にどうするものなのかは理解していなかったからだろう。どこか不器用な仕草で、小さな魔王は抱きついてきた。

 この年齢感で、このサイズならまぁ……許してやらなくもない。うむ。しかたない。

 わたしも魔王の背に手を回し、よしよし、とかるく叩いてやった。

 顔をすりつけながら、


「ママ……」


 これはわりと、アウトだけどな!


「ママじゃないよ」

「なんで皆、痛いことするの」


 痛いことかぁ……。たしかに、巨大竜巻に突っ込まれたら痛いよね……痛い、で済んでるあたりが魔王なんだけど。

 いや、そうじゃなくて。なんで、そういうことをするのか?


「それは……あなたのことが怖いから」

「怖い?」

「わかるでしょう。あなたは、とても強い」

「うん」


 やっぱ、そこは自覚あるんだな……。

 しかしなぁ。敵対する前にと勢いで連れ去ってきたものの、このあと、どうするのが正解?


「ママ」

「ママじゃないよ」


 反射的に答えると、魔王は不思議そうに首をかしげた。


「ママ?」


 めげないなぁ。否定するだけ時間の無駄っぽい気がするけど、一応。


「違うってば。……で、どうかしたの?」

「強いと、怖いの?」

「そうだねぇ……たぶん、そう」

「じゃあ、ママも怖い?」


 そう問いながら、魔王はわたしの肩口に顔を埋めた。まるで、答えなんか聞きたくないとでもいうように。

 うーん……それなら答えないことにするか。


「逆に訊くけど、あなたには、ある? 怖いもの」


 こくり、と。頭が動いた。


「なにが怖いか、教えてくれる?」

「ママ」

「……わたしのこと?」


 こくり、アゲイン。

 いやいや。抱っこをせがむ相手が怖いの、おかしくない?


「なんで?」

「強いから?」


 よくわかっていなさそうな、声。

 ……まぁ、生まれたてのピチピチだもんな。怖いって言葉の意味さえ、よくわかっていないのかもしれない。


「強くないよ」


 答えて、わたしは魔王を抱く手に力をこめた。

 どうにかして、信用してもらうべきだ。安心させたい。しっかりとした関係を築いて――敵対しないようにしなきゃ。


 魔王と戦って、勝つのは難しい。それはもう確定している。だって、あのジェレンス先生が、魔王を倒す魔法をイメージできないっていうんだ。

 イメージできなきゃ魔法は使えないし、ジェレンス先生が当代最強の名を恣《ほしいまま》にしているのは、魔力量がすごいからだけじゃない。イメージ力が高いからでもあるはずだ。

 ジェレンス先生に無理ってことは、ほかの誰にも無理だろう。つまり、魔法で魔王を倒すことは不可能と考えた方がいい。

 じゃあ物理で――つまり、魔法にたよらない暴力で倒せるかっていったら……それもかなり難しくない?


「ママ、強くない?」

「そうだね。強くないと、嫌い?」

「ううん。抱っこしてくれるから、好き。あと……近くにいると、気もちいい」


 聖属性魔力ね……おまえそれ天敵の魔力だぞ、とは思うけど。

 素直過ぎるからなぁ。あなたとわたしは敵同士だよと教えたら、そうなの? わかった、って受け入れかねない――いやでも、どうかなぁ。絶対ブレない「ママ、抱っこ」があるから、わたしとは敵対しないかな?

 脳内リートが「自分に都合が良いだけの妄想に逃げるな」とツッコミを入れてきた。ああもう……ちょっと放っておいてくれないかな!


「ママ、好き……」


 ……やべぇ。幼児魔王にこんなに懐かれると、わたしも好きッ! になりかねない。

 冷静でいなきゃダメだ。好きだけで行動を決めていいわけないんだから。


「ありがと。でも、あなたはまだ、わたしのことしか知らないだけ」

「……だって、ほかのひと、痛くするもん」


 うん、ここは挽回するの難しいな。どう説明しよう……。


「さっきも話したけど、怖いからだよ。だって、あなたは負けないでしょう?」

「うん。……強いから?」

「そうだよ。すごく強いから、相手も強く返すしかなくなるの」


 ね、と声をかけながら、わたしは魔王の小さな背中をかるく叩いた。


「手を、出してみて?」

「……うん」


 魔王は少し身を起こし、小さな右手を出す。……指がふっくふくしてて、可愛いったらないのだが、まぁそれは考えないことにして。

 わたしは魔王を抱っこしている手に力をこめ、支えがゆるまないように気をつけて、左手を出した。そして魔王の右手とあわせて、うん、とうなずく。


「手を合わせたところで、わたしがこう、力を入れるでしょ」


 ぐっと押すと、とっさに魔王も押し返してきた。

 ヨシ、うまくいった。


「わかった? 押されたらさ、相手はそのぶん、押し返したくなるわけ」

「うん。じゃあ、ひどいことし返してもいいんだね」

「……うん?」

「先に押してきたのは、あのひとたちだよ」


 視線を合わせると、まっすぐ見返された。なんという、曇りなき眼《まなこ》……。

 いや待てよ、そうだっけ? そうかも?

 ……そうだよな、魔王は「ママ抱っこ」で走ったり飛んだりして近寄って来ただけで、こっちはビビってたから攻撃して……って流れだよ!


「そうね……そうだけど……押されたら押し返すんじゃ、きりがないよ」

「でも、こうなるよ」


 幼児魔王が、わたしの手を押す。思いのほか強い力だったので、反射的に抵抗してしまった。

 いかん。

 ね? って顔で見ないでくれないか!

 わたしはちょっと視線を上にやって――曇りなき眼と相対しつづけるのは疲れるのだ――考えた。

 こっちとしては、魔王が出現した! ってだけでもうビビりまくりなのだ。魔王っぽいというフィーリングがすでに、威圧感バリッバリなのである。たとえるならば、台風の強風域に入って吹き飛ばされそうな心地なのだ。押されまくりだ。吹き飛びそうだ。

 ……なんて説明、納得してもらえるはずないけど、ほかに思いつかない。


「だけどね、怖かったんだよ。あなたに会ったとき」

「なんで?」

「思いがけない……そこで出会うと思わなかったものだから? かな?」


 そこに生えてるはずのない植物が生えてて、赤ん坊の泣き声が聞こえたらさ〜。

 怖いじゃん! そんなのホラーの一場面じゃん!


「だけど……ごめんね」

「……なに?」

「はじめから怖がって、ごめんね」


 せっかくロスタルス一世陛下が与えてくれた、おだやかな封印。愛に包まれる未来の夢が、目覚めたとたん、壊されたわけだから。


またしても更新が飛んで、すみません。

抗がん剤を入れると、しばらくこう……いろいろと不具合が生じるため、どうしても更新のことまで思い至らず。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SNSで先行連載中です
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。